特集:外国人材と働くIT、建設業界で進むユニークな高度外国人材活用法(宮崎)
2020年4月7日
2019年6月末時点の宮崎県における在留外国人数は7,162人で、うち技能実習生が3,542人と、全体の49.5%を占める。一方で、高度外国人材はわずか292人で、全体の4.1%に過ぎない(注1)。しかし、人口減少に伴う人手不足が進む中、県内のITや建設業界においては、積極的に高度外国人材を活用する取り組みがみられる。
クリエイティブ産業活性化の一翼を担うバングラデシュのIT人材
宮崎市は国際協力機構(JICA)や宮崎大学と連携し、「宮崎-バングラデシュモデル」として、バングラデシュの優秀なIT技術者を呼び込むプロジェクトを実施している。これは、JICAがバングラデシュで3カ月にわたって現地の受講者に対して日本語やITスキルを教育(注2)した後、さらに3カ月間、宮崎大学への留学および市内企業へのインターンシップを実施するスキームだ。最終的には、宮崎市が同人材を採用するための経費の一部を補助している。宮崎市が「マチナカ3000」という、中心市街地(マチナカ)における3,000人のクリエイティブ産業の雇用創出プロジェクトに取り組む中、同バングラデシュモデルもその一翼を担っている。
宮崎市内で移動式ネットワークカメラの開発販売を手がけるアシストユウは、2018年7月に同モデルの第1期生1人を採用した。現在、開発部門で、遠隔操作カメラに関するクラウドの開発に携わっており、その技術は、同社のインドネシアやベトナム向けの輸出品にも生かされている。同社の小幡小百合社長は「日本語の習得が目覚ましく、将来的にバングラデシュから同様の人材を採用する際には、技術指導だけでなく、社内コミュニケーションの面でも活躍してくれそう」と、大きな期待を寄せている。
2018年7月以降、現在までに、宮崎-バングラデシュモデルを通じて県内企業17社が32人を採用しており、うち13社25人は宮崎市内企業による採用である。2020年4月の第7期生18人の受け入れは新型コロナウィルスの影響のために延期されたものの、今後も同スキームによるIT人材の活用が期待される。
現地大学との提携によってベトナムの建設業人材を育成・採用
一方で、建設業界においても、優秀な高度外国人材を獲得するための興味深い取り組みがみられる。宮崎市のアース建設コンサルタント株式会社の活動はその好例である。同社は国内建設業界に輩出するための人材をベトナムで育成し、日本国内の企業に紹介するプログラムに取り組んでいる。
具体的には、2015年にホーチミン市建設短期大学にJCT(Japan Construction Technology)コースを開設、1年かけて日本語および日本の建設技術を習得させている。また、2018年10月にはツゥーロイ大学ホーチミン校に同様のコンセプトでTCT(Technology Course in Thuyloi)コースを開設した。現在までに184人が同コースを履修しており、うち125人が日本企業に採用されている。既に関東圏の企業10社も同コース修了生を採用しており、今後も広く日本国内の建設業界で活用してもらう予定だ。
延岡市に本社を構えて土木・建設業を営む上田工業株式会社は、2019年9月にベトナムを訪問、同コースに通う21人と面接を実施し、2人の採用を決めた。日本でスムーズな生活を送ってもらえるよう、2020年3月に来日するまでの半年間は、同社負担で現地の日本語学校に通ってもらった。また、2019年11月に一度来日してもらい、3日間のインターンシップを通じて同社の業務や社員を事前に紹介している。
同社の森龍彦社長は「現在、建築部に配属し、設計から安全管理まで社内業務をトータルに学んでもらっている。将来的にベトナムの建設プロジェクトに参入するようなことになれば、同プロジェクト・マネージャーとして母国で活躍してもらう可能性もある」と、長期的な視点で同社の海外展開に携わってもらうことも見据えている。
以上のとおり、県内のITや建設業界においては、人手不足解消のために、非常にユニークな手法で高度外国人材を活用する取り組みがみられる。今後、これらの取り組みが県内企業の輸出や投資といった海外展開にもつながることで、人口減少に伴う国内市場の先細り感を少しでも解消してくれることを期待したい。
- 注1:
- 「在留外国人統計」(法務省、2019年6月)。
- 注2:
- JICAが技術協力プロジェクトの一環として提供するトレーニングプログラム。日本での就職を目指すバングラデシュのICT人材向けに、2017年11月から開始した。通称B-JET。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ宮崎 所長
宮内 安成(みやうち やすなり) - 1991年、ジェトロ入構。ジェトロ・シドニー事務所、トロント事務所などを経て、2015年10月から現職。