特集:外国人材と働く地方にも広がる外国人材ニーズ
「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」から考察
2019年9月27日
ジェトロは毎年、「日本企業の海外事業展開」に関するアンケート調査(注1)を実施しているが、その結果から読み取ることができる外国人材活用の現状について報告する(注2)。
まず、当該調査での回答企業の規模、業種の属性を確認すると、表の通り、1都3県をはじめとする大都市圏を擁する地域(注3)で比較的大企業が多くなっている。このためもあって、外国人材の採用は大都市圏が地方に先行している様子がうかがえる。外国人社員雇用の現状に関する設問への回答結果によると、何らかの形で外国人を雇用している企業の比率は、1都3県と中部で過半となるなど、基本的に大都市圏で高い(図1参照)。
ただし、「今後(3年程度で)採用を検討したい」とする企業がどの地方でもおおむね2割以上あり、これを合わせた比率は全地域で半数を超える。外国人材に対するニーズは、地方にまで広がっているといえよう。
地域別 |
回答 企業数 |
企業規模 | 業種 | ||
---|---|---|---|---|---|
大企業 | 中小企業 | 製造業 | 非製造業 | ||
大都市圏 | 2,129 | 23.3% | 76.7% | 51.0% | 49.0% |
1都3県 | 1,160 | 29.1% | 70.9% | 45.7% | 54.3% |
中部 | 339 | 20.6% | 79.4% | 59.6% | 40.4% |
関西 | 630 | 13.8% | 86.2% | 56.0% | 44.0% |
地方 | 1,256 | 9.6% | 90.4% | 62.0% | 38.0% |
北海道 | 69 | 8.7% | 91.3% | 49.3% | 50.7% |
東北 | 173 | 5.2% | 94.8% | 60.1% | 39.9% |
関東・甲信越 | 329 | 10.0% | 90.0% | 71.4% | 28.6% |
北陸 | 118 | 9.3% | 90.7% | 63.6% | 36.4% |
中国 | 176 | 9.7% | 90.3% | 65.9% | 34.1% |
四国 | 133 | 9.0% | 91.0% | 63.2% | 36.8% |
九州・沖縄 | 258 | 12.4% | 87.6% | 50.8% | 49.2% |
全国 | 3,385 | 18.2% | 81.8% | 55.1% | 44.9% |
注:「関東・甲信越」には、1都3県を含まない。
出所:ジェトロ「2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
雇用している外国人の内容を見ると、技術系・事務系の部課長級、研究開発、エンジニアの職種での採用が比較的多く見られるのも、主にこれら大都市圏となっている(図2~5参照)。現在、わが国では高度外国人材(注4)の活用推進が進められているが、こうした人材の採用は大都市圏で先駆けて進んでいるとみてよさそうだ。
外国人留学生の活用は、地方でも浸透
この調査では、国内外からの採用についても設問が立てられている。その結果を見ると、外国人留学生の採用実績または、その意向がある企業は、全国的に広く見られ、地域ごとの比率のバラつきも比較的少ない(図6参照)。留学生の採用は、地方でもかなり定着してきたと考えられる。この特集での地方貿易情報センター発の記事にも、しばしば留学生の活用を志向する動きが見られる。
なお、留学生以外の国内在住外国人材の採用・意向は、やはり大都市圏が先行している。また、海外からの外国人材登用は、地域を問わずまだ限られていると言えそうだ(図7参照、注5)。
地方では、外国人材採用に果たす大学や自治体など公的機関の役割が大きい
国内在住外国人の採用で最も広く使われている手段は、全国ほぼ一様に「日本本社の募集」だ。特に採用対象者が留学生の場合は、「大学などの紹介」がこれに続いている(図8参照)。これを地域別にみると、地方では、大都市圏以上に、大学などの存在が大きいことが分かる。外国人留学生の採用に当たって大学などからの紹介を受けた企業の比率は、北海道(57.1%)、東北(53.6%)、北陸(50.0%)をはじめとして、主に地方で高かった(図9参照)。
留学生以外の国内採用では、「民間の人材斡旋(あっせん)企業の利用」が「日本本社の募集」に次ぐ重要手段となっているが、地方においては「自治体による支援」や「他の公的機関の支援」も見逃せない(図10、11参照)。「自治体の支援」が活用されている上位3地域は、東北(31.8%)、四国(22.7%)、北陸(22.2%)だが、これら地域では留学生の採用に当たっても自治体の支援策を活用した比率が高い。
この特集の地方発の記事でも、外国人材の活用に向けた地方での取り組みに関して、大学など教育機関や自治体などとの連携に取り組む事例が報告されている。例えば、愛媛からの報告では愛媛大学を中心に「オール愛媛」で留学生の就業支援に向けた取り組みが進められていること、富山からの報告でも富山大学が「国際機構」を設置し地元経済界との協力の下で踏み込んだ支援を実施していること、などが紹介されている。また、福岡からの報告によると、福岡県が中心になって設立した福岡県留学生サポートセンターが留学生の雇用を無償紹介するサービスを県内企業に提供している。
地方において、高度外国人材などの外国人材活用を一層促進していくためには、地方でも浸透してきた外国人留学生の採用を含め、大学や自治体などの機関による支援策を拡充していくことが有効な手段の1つになると考えられる。
- 注1:
- 直近の2018年度調査では、総対象企業数が1万4社、回答企業3,385社だった(うち中小企業が2,770社、有効回答率33.8%)。2018年11月から2019年1月にかけて実施。ジェトロのサービスを利用する日本企業が対象であり、基本的に海外ビジネスに関心が高いと考えられる。
- 注2:
-
各地域区分に包含される都道府県は、以下の通り。
1) 北海道:北海道
2) 東北:青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島
3) 関東・甲信越(1都3県を除く):茨城、栃木、群馬、山梨、長野、新潟
4) 1都3県:埼玉、東京、千葉、神奈川
5) 中部:静岡、愛知、岐阜、三重
6) 北陸:富山、石川、福井
7) 関西:滋賀、京都、兵庫、大阪、奈良、和歌山
8) 中国:鳥取、島根、岡山、広島、山口
9) 四国:香川、愛媛、徳島、高知
10) 九州・沖縄:福岡、大分、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄 - 注3:
- この調査で地域別の比較ができるのは、注2で示した地域区分に限られるため、このレポートの上では便宜的に、「1都3県」「中部」「関西」を大都市圏、それ以外を地方として扱った。
- 注4:
- 高度外国人材とは、出入国管理および難民認定法(いわゆる入管法)に基づく、「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格で就業する者と考えるのが一般的だ。このことを踏まえ、高度外国人材活躍推進プラットフォームの広報において、より具体的には「日本国内または海外の大学などを卒業し、企業において研究者やエンジニア、海外進出などを担当する営業などに従事する外国人材」が想定されることが示されている。
- 注5:
- この設問では、図7で挙げた以外に、技能実習生についても聞いている。技能実習生については一般的に製造業での採用ニーズが高いことを反映してか、製造業の回答者の多い地方で採用または検討する企業の比率が高い結果となった。いずれにせよ、他のカテゴリーの外国人材と性格を異にするところもあり、この図では省略した。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部主査
林 道郎(はやし みちろう) - 1984年ジェトロ入会。海外調査部、ニューヨーク、秋田、メルボルン、盛岡、オークランドの各事務所などを経て現職。「米国の通商関連法概説」「韓米FTAを読む」などを共著・共訳。