特集:半導体グローバルサプライチェーンはどう変わる?半導体の特需は一巡、在庫調整は2023年後半まで続く見込み(世界)

2023年1月24日

インフレの高進や、中国の新型コロナウイルス対策のゼロコロナ政策に伴う経済活動制限、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化などに伴う世界的な需要の低迷は、2021~2022年に過去最高額を更新する勢いで成長を遂げた半導体市場にも、マイナスの影響を及ぼしている。とりわけ、データの記憶保持の役割を担う半導体回路装置、すなわちメモリー半導体に対する世界的な需要の減速は、同分野の主要メーカーに対し、業績見通しの下方修正や投資計画の見直しを迫る。半面、電気自動車(EV)をはじめとする車載向けやデータセンター向けに利用されるパワー半導体などの分野では、旺盛な需要が継続しており、市場の二極化が進んでいる。

他方、最大の需要国の中国の経済失速や、2022年10月以降の米国による半導体の対中輸出管理規制の強化に伴い、中国との取引に関わる半導体のサプライチェーンの再編を模索する動きも徐々に進展することが見込まれる。グローバル市場向けの半導体供給のハブである韓国、台湾の業界団体や有識者の見方を中心に、半導体市況の変化と今後の市場の展望を概観する。

半導体市場、2023年は4年ぶりのマイナス成長へ

WSTS(世界半導体市場統計)が2022年11月末に発表した2022年秋季半導体市場予測外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、同年の世界の半導体市場は前年比4.4%増と、前年の伸び(26.2%増)から大幅に減速した。2023年については4.1%減と、4年ぶりのマイナス成長を見込んでいる。

2023年の集積回路(IC)の製品別予測では、メモリーICが前年比17.0%減と大きく落ち込む一方、ロジックICは同1.2%減、マイクロICは同4.5%減にとどまる。また、アナログICは同1.6%増と、プラスの伸びを維持する見通しとなった。メモリーIC市場の減速は、新型コロナウイルス感染のパンデミック発生以降、2年以上続いたPCやスマートフォンの在宅特需が一巡し、在庫調整のプロセスに入った影響が大きいものとみられる。

メモリーIC事業を主力とする世界の大手半導体メーカーの収益は2022年後半から悪化に転じている。メモリーICの世界最大手、韓国のサムスン電子が2022年10月27日に発表した2022年度第3四半期(7〜9月)の業績(連結ベース)によると同期の半導体事業(DS)の売上高は前年同期比14%減の23兆2,000億ウォン(約2兆3,200億円、1ウォン=約0.1円)、営業利益は同48.7%減の5兆1,200億ウォンとなった。中でも、売り上げベースで半導体事業全体の7割近くを占めるメモリー事業の売上高が同27%減と大幅に減少し、全体を下押しした。要因として「ユーザーの在庫調整や汎用(はんよう)メモリーの需要減少が予想を上回るペースで進んだこと」を挙げる。(注1) メモリーIC事業に特化する韓国SKハイニックスの同四半期の決算報告(2022年10月25日発表)でも、売上高(10兆9829億ウォン)、営業利益(1兆6556億ウォン)が前年同期比それぞれ7.0%、60.3%減少したと報告した。同社は、主要購買層のパソコンやスマートフォンの出荷減少により、半導体のメモリー業界が「かつてない市況悪化に直面している」としながらも、人工知能(AI)、ビッグデータ、メタバースなどの産業の成長や、それに伴う大規模データセンターなどの投資拡大により、「中長期的にメモリーIC需要は引き続き増加する」との見通しを示している。(注2)

韓国系以外のメモリーIC大手の米国マイクロンテクノロジーや、日本のキオクシアも、市況の悪化を受けた生産調整や投資の抑制に動いている(本特集「国際戦略物資となる半導体、企業はどう動く(世界)」参照)。

一方、ロジックICを主力とする半導体ファウンドリーの世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の同時期の業績は好調を維持している。同社の2022年第3四半期(7~9月期)と第4四半期(10~12月)連結売上高は、前年同期比47.9%増、42.8%増を記録。純利益もそれぞれ同79.7%増、同78.0%増となり、四半期別の売上高、純利益とも過去最高額の更新を続けている。しかし、第3四半期の決算発表会で、TSMCのC.C.ウェイ最高経営責任者(CEO)は「スマートフォンやPCなどの消費財市場の低迷と、顧客の製品スケジュールの遅れにより、2022年第4四半期から2023年前半にかけての稼働率は過去3年に比べて低下する」と報告した。また、顧客や半導体サプライチェーン全体で在庫調整の動きが進んでいることに関し、サプライチェーン上の在庫は2022年第3四半期をピークに減少に転じ、2023年上半期までの期間でより健全な水準にリバランスされるとの見通しを示した。(注3)

在庫調整は2023年後半から2024年前半までに完了

2022年12月末時点のグローバル半導体市場は、大きなトレンドとして、新型コロナ禍で2年間以上続いた半導体の供給不足への対応策でユーザー各社が積み増していた在庫を通常在庫へ戻す調整プロセスが進行している。また、その調整プロセスは、2023年半ばから2024年前半にかけて続くとの見通しが主流となっている。他方、半導体の種類や用途、テクノロジーノードにより、一部の半導体では需給の逼迫が継続しており、市場の二極化が見られる。

今後の市況について、WSTSは「5G(第5世代移動通信システム)・IoT(モノのインターネット)化の進展や、それに伴うデータセンター能力拡張の必要性など、半導体の潜在需要は引き続き強く、これらは2023年後半の市場回復を牽引する」としている。また、自動車の電動化・高性能化、再生エネルギー投資などの需要は安定しており、半導体需要を下支えすることが見込まれる。

では、グローバル市場で半導体生産・供給ハブの韓国、台湾の企業や有識者は今後数年間の半導体市場の動向をどのようにみているのか。(注4)

韓国産業研究院(KIET)のキョン・ヒゴン新産業室副主任研究員は2022年12月、市況の悪化が目立つメモリーIC市場の見通しについて、「NANDもDRAMも在庫余剰があり、2023年上半期のスポット価格はさらに2~3割下落するだろう。ただし、2024年には受注が回復すると見込まれ、中期的には市場は成長する」との見通しを示す。韓国・対外経済政策研究院(KIEP)のヨン・ウォノ経済安全保障チーム長も「グローバル市場では、メモリーICに比べて、ロジックICの成長性が高い状況が続く」としながらも、「昨今のメモリーIC市場の縮小は短期的なものであり、2023年後半から2024年にかけてメモリー市場は反動で増加に転じる。」とみる。

二極化する市場

国際的な半導体業界団体の台湾支部に所属するアナリストは「半導体IC市場を用途別に見た場合、民生電子機器用に関しては、2022年12月時点で既に供給過多が生じている半面、車載向けと産業機器向けは旺盛な需要が継続している」という。ただし、車載向けや産業向けも、1年前との比較では供給不足が大幅に改善され、リードタイムも大幅に短縮している。新型コロナ禍での経済活動制限が緩和されたことに伴い、サプライチェーンが正常化し、供給不足が長期化していた車載向けICについても「2023年第1四半期(1~3月)には供給不足が解決する」との見通しを示している。

台湾の産業総合研究所(MIC)の鄭凱安シニア産業アナリストも「消費者向けICT(情報通信技術)製品の需要縮小により、この製品分野向けの半導体IC販売の低迷が深刻となっている。一方、自動車産業向けの特殊な半導体需要はまだ強く、納期についても25週以上を要するものが多い。ICT製品用と車載用で市況に明確な違いがある」と市場の二極化を指摘する。

また、在台湾の日系半導体材料メーカーは「足元の在庫調整の局面は2023年に向けて続く見込みだ。製品によっては納入を一時的に止めているものがある。半面、シリコンウエハの需給は2023年もタイトな状態が続くほか、他の材料も増産計画がある。顧客の長期計画に基づいて材料の供給計画を組んでおり、供給契約の長期化がトレンドとなっている」(2022年12月時点)という。

なお、車載向け半導体の生産・供給能力は、自社で設計から製造・組み立て、検査、販売までを一貫で行える垂直統合型デバイスメーカー(IDM)が7~8割を占め、残り2~3割をファウンドリー企業が担っている。車載半導体の市場調査などを行う台湾のワイズコンサルティングは2022年12月、一部の車載用半導体の供給不足が継続している状況(注5)に対し、(1)EV化の進展などに伴い、1台の自動車に使用する半導体の点数が増加し、既存のIDMの生産能力では対応できなくなっていること、(2)ファウンドリーなども含めた供給サイドで生産余力が拡大しても、顧客各社向けのカスタマイズ、顧客側での承認から量産開始のプロセスに2~3年を要することなどの要因を指摘する。

懸念材料は中国市場の不確実性

今後のグローバル半導体市場の見通しを左右するさまざまな要因のうち、最大の懸念材料の1つが国別の半導体売上高で世界最大を誇る中国市場の不確実性だ。米国半導体工業会(SIA)が毎月発表する世界の半導体売上高(主要国・地域別、3カ月移動平均値)のデータによると、2022年の世界の半導体売上高は9月、前年同月比でマイナスに転じ、翌10月にはマイナス幅が拡大している(図参照)。その中で、中国市場の半導体売上高は2022年7月に前年同月比で減少に転じ、9月と10月にはそれぞれ同14.4%減、同16.2%減と、世界市場全体のマイナス幅を大きく上回っている。

図:2022年の世界の半導体売上高(月別)主要国地域別
積み上げ棒グラフで2022年の主要国・地域別の半導体売上高(月別)を推移で表示しています。棒グラフを構成する各国・地域別の各月(1月から10月)の売上高は次の通りです。単位は10億ドル。米州は、12.00、11.68、11.50、11.86、12.20、12.09、11.85、11.52、12.02、12.29。欧州は、4.44、4.51、4.63、4.48、4.44、4.39、4.46、4.53、4.53、4.54。日本は、3.89、3.86、3.91、3.98、4.13、4.10、4.11、4.05、4.05、4.05。中国は、17.04、16.67、16.83、16.73、17.02、16.54、15.67、14.90、14.43、14.21。アジア大洋州/その他は、13.37、13.32、13.71、13.88、14.03、13.70、12.91、12.35、11.97、11.77。第2軸(折れ線)で世界全体および中国の各月の伸び率を表示しています。各月の推移は次の通りです。世界の前年同月比伸び率は、26.8%、26.2%、23.0%、21.1%、18.0%、13.3%、7.3%、0.1%、-3.0、-4.6%。中国の前年同月比伸び率は、24.4%、22.0%、17.3%、13.3%、9.1%、4.7%、-1.8%、-10.0%、-14.4%、-16.2%。

出所:米国半導体工業会(SIA)発表資料から作成

世界最大の半導体市場を有する中国は、同時に世界最大の半導体輸入国であり、同市場の減速は半導体の集積回路を主要輸出品目とする韓国や台湾の輸出動向に大きく影響する。後述の表は、2021年の主要国・地域間の半導体集積回路の貿易関係について、各輸出国・地域(縦軸)と輸入国・地域(横軸)の貿易額の構成比(対世界全体)で示したものだ。中国の輸入構成比は35.4%と世界最大、香港の輸入構成比分(大部分が中国への再輸出)を合わせると6割近く(56.5%)を占める。

表:半導体集積回路の世界貿易マトリクス(同品目の貿易総額に占める構成比) (縦軸:輸出、横軸:輸入)(―は値なし)
国・地域名 世界 アジア アジア 米国 EU
日本 中国 香港 韓国 台湾 ASEAN
世界 100 87.8 2.2 35.4 21.1 5 7.2 16 2.6 6.1
アジア 86.9 81.4 2.1 32.5 20.2 4.5 6.5 14.6 1.9 2.4
階層レベル3の項目日本 3.3 3.1 0.8 0.3 0.3 0.9 0.8 0.1 0.1
階層レベル3の項目中国 15.3 14.7 0.2 6.9 2.1 2.1 3.1 0.1 0.3
階層レベル3の項目香港 20.7 20 0.1 17.8 0.3 0.7 0.8 0.2 0.2
階層レベル3の項目韓国 10.7 10.3 0.1 4.6 2.4 1 2.2 0.1 0.1
階層レベル3の項目台湾 14.2 13.7 1 4.4 4.1 1.1 3 0.2 0.3
階層レベル2の項目ASEAN 22.6 19.5 0.7 4.9 6.5 0.8 1.8 4.7 1.1 1.4
階層レベル3の項目マレーシア 5.8 5.1 0.2 1 1.1 0.2 0.5 2 0.3 0.3
階層レベル3の項目シンガポール 11 9.8 0.4 1.9 3.9 0.4 1.1 2 0.4 0.6
米国 5.2 3.2 0.1 1.2 0.4 0.3 0.4 0.8 0.4
EU 6 2.1 0 1.1 0.1 0.1 0.2 0.5 0.4 2.9

出所:各国・地域貿易統計からジェトロ作成

中国では、国内需要の減速に伴い、半導体ICの輸入も2022年第3四半期以降、前年同期比減少に転じている。とりわけメモリーIC(HSコード:8542.32号)の輸入は、2022年第2四半期に前年同期比11%減、第3四半期には同22%減と、IC全体の輸入を下押ししている。

今後の半導体市況の回復にとって、「中国国内の供給過剰問題が足かせとなる可能性がある」(KIEPヨン・ウォノ経済安全保障チーム長)との見方もある。中国は現在、ロジックICやメモリーICを台湾や韓国から調達しつつ、自国の半導体サプライチェーン構築にも注力している。特に2020年後半以降は、世界全体での半導体供給制約や米国による対中輸出管理強化を受け、自前の半導体生産能力増強を加速させてきた。政府の強力な後押しにより、中国内の生産・供給能力がさらに拡大すれば、他国・地域から中国市場向けに輸出された半導体の一部が行き場を失う可能性もある。

さらに、2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が中国を念頭に公布・施行した半導体関連製品(物品・技術・ソフトウエア)の輸出管理規則(EAR)強化措置は、中国向けの先端半導体製品や半導体製造装置の輸出を極めて厳格に制限する内容となっている(2022年10月11日付ビジネス短信参照)。同規則は中国地場企業のみならず、中国に生産拠点を構える韓国や台湾などのグローバル半導体企業のサプライチェーンに今後、一時的な混乱と変化をもたらす可能性がある。グローバル企業の間では、中国が介在する半導体サプライチェーンの再編を模索する動きが徐々に進展することも想定され、その動向を注視しておく必要がある(本特集「国際戦略物資となる半導体、企業はどう動く(世界)」、「全世界的な供給網の再編で岐路に立つ韓国の半導体産業」参照)。


注1:
Samsung Newsroom (2022年10月27日付発表)“Samsung Electronics Announces Third Quarter 2022 Results”
注2:
SK hynix Newsroom(2022年10月25日付発表)“SK hynix Inc. Reports Third Quarter 2022 Results”
注3:
TSMC,Financial Results -2022Q3(2022年10月13日発表)およびFinancial Results -2022Q4(2023年1月12日発表)
注4:
本稿で、韓国、台湾の企業・有識者のコメントはジェトロによる現地インタビュー(2022年12月13日~16日)で聴取した内容に基づく。
注5:
ジェトロで2022年9~12月に、日本国内、在タイ、ベトナム、シンガポール、韓国、台湾の日系自動車部品メーカーなどに聴取した結果に基づく。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジアなどを経て現職。主な著書:『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。

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