特集:外国人材と働く富山県における高度外国人材採用に向けた取り組み
2019年8月9日
富山県の有効求人倍率(2018年度平均)は1.97倍と、全国平均(1.62倍)を0.35ポイント上回っている。さらに、正社員に限ってみると、雇用情勢の改善などにより、富山県は1.58倍で、全国平均(1.13倍)との差は0.45ポイントとさらに拡大する(注1)。
一方、同県の新規卒業者の内定率(2019年3月末時点)は、大卒などで98.7%(全国平均97.7%)、高卒で99.8%(全国平均99.4%、注2)と高く、もともと県内就職率が高い傾向にあるため、人材を地元から求めていくことは限界に近づきつつある。
そのため、同県が取り組むUIJターンなどによる県外からの就業者確保に加えて、高度外国人材の採用・定着を図る必要性が高まっている。同県における高度外国人材活用の現状と課題、富山大学の取り組み、高度外国人材を上手に活用する企業の取り組みを紹介する。
技能実習、製造業が約半数を占め、高度外国人材のさらなる活用推進が課題
富山県では、1,751事業所に計10,334人(2018年10月末時点)の外国人が働いている。
同県の特徴として、図1のとおり、「専門的・技術的分野の在留資格」が占める割合が9.6%と、全国平均(19.0%)より9.4ポイント低く、「技能実習」は50.4%で、全国平均(21.1%)より29.3ポイント高い点が挙げられる。これは、同県における外国人労働者の50.5%が製造業に従事していることと深く関係している。
「技能実習」の割合の高まりは、この1年間でさらに顕著になった。全国の「専門的・技術的分野」の在留資格者は276,770人(2018年10月末時点)と、前年比38,358人増加しており、そのうち富山県の増加は121人で0.3%を占めている。一方、全国の「技能実習」は308,489人(2018年10月末時点)と前年比50,701人増え、そのうち富山県は745人と同1.5%を占める。全国の伸び率に比べて、高度外国人材の採用が進んでいない点が富山県の課題と考える。
北陸の留学生と企業にあるミスマッチの解消が重要
北陸環日本海経済交流促進協議会(北陸AJEC)が中心となって、3月に「北陸企業の外国人材の採用・活用」と題する報告書をまとめた。北陸AJEC企画部委員長の丸屋豊二郎氏(福井県立大学名誉教授)は以下のとおり調査結果を分析している。
北陸3県の大学の留学生数(238人)は全国比率1.1%で、北陸の外国人労働者数(全国比率2.1%)やGDP(全国比率2.4%)に比べて留学生が少ない。また、北陸の留学生の就職者数が全国比率0.7%であることから、全国比率1.1%の留学生が北陸に在籍していることと照合しても、北陸の留学生の就職率は全国よりも低い状況にある。
また、北陸3県の留学生と北陸AJEC会員企業(118社)へのアンケート結果より、留学生と企業の間に、(1)就職・採用の意識、(2)日本語能力、(3)業界・職種の3つのミスマッチがあると指摘されている。これらのミスマッチを大学や企業、支援機関などにより解消を図ることが高度外国人材採用促進のカギとなる。
(1)就職・採用の意識に関するミスマッチ
在北陸の留学生のうち、日本(北陸を含む)での就職を希望している学生は73.8%を占めているが、留学生を採用している企業は18.6%となっており、今後採用の可能性がある企業を含めても41.4%となっている。
(2)日本語能力に関するミスマッチ
北陸企業の29.6%が「日本語能力を有する人材の不足」が外国人材採用の課題と考えている。実際に、北陸の留学生のうちビジネスレベル以上の日本語能力を有する学生は37.5%で、日本語能力検定の資格を持たない学生が41.2%だ。留学生への日本語教育強化が求められる。
(3)業界・職種におけるミスマッチ
海外営業や海外業務については、留学生と企業の双方で高い需要があり一致している。ただし、留学生は技術開発(情報分野)への就職を最も希望しているものの、企業側の需要は低く、企業は「事務・管理」「生産・製造」「国内営業」「企画・マーケティング」の職種での需要が高いものの、留学生の希望は低い。
富山大学による留学生就職支援
富山大学においても、「外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させる」政府方針に基づき、留学生就職支援を強化して取り組んでいる。グローバル化推進のための機関組織として、2018年4月に「国際機構」を設置し、留学生に対する日本語教育(日本語課外補講など)の提供や、就職・キャリア支援センターと連携した就職支援などを行っている。さらには、地元経済界との協力により、以下のような1歩踏み込んだ支援を実施している。
(1)外国人留学生と県内企業経営者との交流会
外国人留学生と、海外展開に関心のある富山県の企業経営者間の交流会を2015年度から毎年実施。これまでに、延べ19の出身国・地域の留学生が参加し、延べ59社が参加した。
(2)富山県グローバル人材活用促進事業
外国人留学生向けの支援講座(エントリーシートの書き方や面接への対策、企業採用担当者や県内企業で活躍する外国人留学生のOB・OGによる解説・アドバイスなど)を実施した上で、外国人留学生対象の合同企業説明会・企業研究会を開催。この事業は、3カ月以上海外留学または滞在経験のある日本人も対象としており、県内企業にとって国際人材採用のためのツールとなっている。
このような取り組みにより、富山大学外国人留学生の進路をみると、図3のとおり、国内就職が年々増加傾向にあり、国外就職する者は減少してきている。
富山県と企業の共同による留学・就学支援
富山県は、ASEAN地域およびインドからの留学生(年間4~5人)に対し、留学費用(渡航費、学費、奨学金など)を県と企業が2分の1ずつ負担する取り組みを2015年度から開始した。特筆すべきは、2018年4月に第1期生5人が卒業し、全員が協力企業に就職していることだ。留学生は原則として、県内の大学(富山大学・富山県立大学)の大学院で2年、その前に研究生として6カ月間留学する。県は受け入れ候補者の希望研究内容について大学と事前確認し、企業は当該留学生の在学中にインターンとして受け入れる。留学生一人一人の顔が見える支援であり、堅実に結果を結びつつある。現在も7カ国13人の留学生がこの事業の支援を受けている。
高度外国人材の採用に取り組む県内企業
(1)地方での日本人採用が難しくなっている:アルケー情報(富山市)
アルケー情報(ソフトウエア開発など)は従業員12人のうち、6人が高度外国人材だ。出身国・地域はミャンマー、インド、マレーシア、台湾と多様で、職場での共通言語を日本語か英語に定めることも難しい。採用のチェックポイントは、異文化に対する感受性があるかだそうだ。
千葉祐基代表は「日本の大学生は会社の規模や安定を求める。ましてや、人材は売り手市場。地方の零細企業では日本人の採用は困難」と語る。同社には、新たなビジネスの立ち上げや拡大を経験できることに価値を見いだす外国人が就業している。米国とミャンマーに拠点があり、事業のターゲットは専ら海外市場だ。高度外国人材の活用による海外ビジネス展開の好循環が生まれている。
(2)ベトナム進出を見据え、エンジニアと実習生を採用:石金精機(富山市)
石金精機(精密機械部品の設計・製作など)は、リーマン・ショックを機に早い段階から海外進出を検討し始めた。2011年と2013年にはベトナム人エンジニアを1人ずつ採用。さらに、2015年にベトナム人技能実習生4人を採用した。2018年にはベトナム法人を設立し、現在はその6人全員がベトナム法人に勤務している。
清水克洋代表は「まず、ベトナム人のエンジニアと実習生からなるベトナムブロックを分社化した組織として作りました。そのブロックだけで加工をしたり、本社で採用していない交替勤務制を導入したりして、将来のベトナム進出に備えました。現在、現地工場長はそのエンジニアが務めています」と語る。
高度外国人材(エンジニア)と実習生を活用してベトナム進出を果たした好事例であり、将来は帰国を希望する外国人の働き方にも沿った人事制度でもある。
(3)姉妹都市や親善協会のネットワークを活用し技能実習生を受け入れ:阪神ホールディングス(富山市)
阪神ホールディングス(医療用容器の製造販売など)は現在、全従業員の14%に当たる112人の技能実習生を受け入れている。2001年に中国人実習生7人の受け入れを皮切りに、2010年よりカンボジア人の実習生受け入れを開始した。
門前昌志総務部長によると、「当社の会長が県内の経済団体や親善協会の代表を務めていた関係で、姉妹都市などとの友好交流を基盤に、実習生の出身国・都市を拡大してきた」そうだ。受け入れた実習生に対しては、3つの寮を完備し、通訳や教育係を付けているほか、卒業旅行や春節の集い、地元の祭りやボランティア活動への参加など、充実した社外イベントを提供している。実習生受け入れ2019年の実績は、海外姉妹都市との交流や親善活動、そのカルチャーが実習生への福利厚生とつながり築かれている。現在では、実習生受け入れにより整備された社内体制を生かし、ベトナムの大学卒業生や国内留学生の採用をはじめ、高度外国人材の採用にも積極的に取り組まれている。
富山県には、製造業を中心に技能実習生を多数受け入れてきた実績がある。高度外国人材のさらなる採用は、現下の雇用情勢から鑑みてマニフェスト・ディスティニーのように思える。そのためには、前述の地域のシンクタンクによる課題分析、大学や県によるマッチング支援、海外ビジネスや企業戦略と結び付けた先進事例など、各機関の取り組みを共有し、さらに連携を推し進めることが有効であり、ジェトロにはそのプラットフォームの機能が求められている。
- 注1:
- 厚生労働省富山労働局「富山県の雇用情勢(令和元年5月)」(令和元年6月28日)
- 注2:
- 厚生労働省富山労働局「平成31年3月新規大学等卒業者の内定状況(3月末現在)について」(平成31年4月26日)
- 執筆者紹介
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ジェトロ富山 所長
髙村 大輔(たかむら だいすけ) - 2002年、ジェトロ入構。対日投資課(2002~2005年)、ジェトロ富山(2005~2007年)、ジェトロ福岡(2007~2010年)、ジェトロ・北京事務所(2010~2015年)、知的財産課、企画課、ビジネス展開支援課を経て、2018年9月から現職。