特集:外国人材と働く就職説明会「JAPAN DAY」を初めてオンライン開催(インド)
日本企業、インド人学生とも、過去最多の参加
2020年11月17日
インドでは、新型コロナウイルスの感染拡大も影響し、社会や企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するに伴い、日本企業のデジタル人材採用に対する関心がますます高まっている。こうした中、ジェトロは国際協力機構(JICA)と共に10月2日、日本政府の支援によって設立されたインド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)の在学生・卒業生を対象に、3度目となる日本企業による就職説明会「JAPAN DAY」を初めてオンラインで開催した(関連記事「世界で活躍するインド高度人材を、日本企業競争力強化の即戦力に」)。本稿では、2018年から開催している本イベント実施を通じ見えてきた、同校における採用の流れや採用方法、IIT-H学生の視点などについて紹介する。
オンライン化、対象企業拡大で最多の参加
「JAPAN DAY」は2018年から、ジェトロとJICA共催によりIIT-Hで開催している。2020年の参加数は、日本企業・インド人学生ともに過去最多だった〔日本企業:20社(大企業5社、中堅中小企業4社、スタートアップ11社)、インド人学生:436人〕。今回の特徴の1つは、企業規模、業種ともに、デジタル人材を求める幅広い日本企業の参加があったことだ。参加した日本企業は、日本での就職やインターン機会を模索するIIT-H在学生やJICAの奨学金を得て日本の大学に留学しているIIT-H卒業生向けに、各社開発中の技術やプロダクト、求める人物像やスキルなどに関して情報発信した。
前年までは、本採用を検討している企業だけが「JAPAN DAY」の参加対象とされてきた。しかし、過去2回の実施を通して、日本企業は提示年棒や認知度などでグローバルIT企業との人材獲得競争で不利な立場にあることが見えてきた。そこで今回は、本採用の企業だけではなく、インターン採用や、将来的な採用、インターン受け入れを視野に入れたPR目的の企業も参加対象に加えた。
IIT-Hでは例年、12月1日から内定を伴う採用面接が解禁される。しかし、過去にOB・OGが就職した実績がなく、インドで必ずしも知名度が高くない日本企業に就職を決めるのは、学生にとって容易な選択ではない。IIT-Hで唯一の日本人教授として教鞭(きょうべん)を執る片岡広太郎准教授も「採用は2カ年計画で考えるべき。GAFA(注)をはじめとする世界のITトップ企業と(人材獲得競争で)戦わなければならないキャンパスリクルートだけでは、良い人材の獲得は難しい」と指摘。その上で、「学部3年生、修士1年生(より研究を重視する3年制修士課程では2年生)をまずはインターンとして採用し、最終学年向けにも採用活動をすることが重要」と強調していた。
また、従来は参加にあたり渡航を前提としていたが、今回は完全オンライン化で実施。過去最多の20社が集まったのは、その結果参加ハードルが下がったこともあると考えられる。
「JAPAN DAY」のような企業説明会は、毎年8月から10月にかけて開催され、書類やテストによる選考を経て、12月から開始される採用面接で内定者を確定する(図2参照)。なお、IIT-Hでは、最終面接時には採用可否をその場で判断する必要があり、決裁権者の参加が不可欠だ。
企業説明会のオンライン化に前向きな評価
「JAPAN DAY」は、より多くの学生に日本企業への関心を高めてもらうとともに、参加各社にとって最終面接につなげるための重要なイベントとなっている。2020年は、Zoomシステムを活用し、各社5分の企業プレゼンテーション・セッションと、プレゼンテーションを聞いた学生からの質疑に応答するインタラクティブ・セッションの2部構成で開催された。同イベントに参加した企業、インド人学生からは、「日本企業の技術やビジネスについて知る良い機会だった。就職先の選択肢が広がった」「全てリモートで参加できたため、時間が節約でき、大変助かった」といった声が寄せられた。また、ある参加企業は「インタラクティブ・セッションでは多くの学生から質問があり、感度が高く優秀で熱意のある学生と接点を持つことができた」と語った。オンラインで参加については、学生、企業の双方から、評価する声が挙がった。一方で、12月の採用面接は「できれば実際に会った上で最終決定したい」との声も聞かれた。最後の握手は対面でというニーズは、企業に根強い。
伝統的な日本企業も高度人材受け入れに向けて変化
「JAPAN DAY」では、同校を卒業したJICA奨学生の代表として、東京大学で博士号を取得後、現在は大手日本企業に勤務するディヴァヤ・アナンド氏が、日本での留学や就職に関して講演した。アナンド氏は、2019年に在大阪の同社子会社に就職した。専門的な技術スキルや高いコミュニケーション能力、チャレンジ精神が買われ、現在はマネジメント職として東京本社に転籍している。講演では自身の経験から、1881年創業の伝統的な日本企業の中でもインド人としてうまく活躍していく方法として、「日本人や外国人社員と良好なネットワークを築くこととハードワークが大切」とコメントした。そして、(1) 伝統的な企業でも外国人受け入れ態勢が少しずつ変化し、自分のように限られた日本語能力でも仕事ができる、(2) スキルに応じて毎年昇格の機会を与えられる、など、日本企業での就業環境について後輩に語りかけた。また、日本での就職を選択した理由として、高度な技術力、日本人の優しさ、治安などの安全面、インドとの文化的類似性などを挙げた。後輩へのアドバイスとしては、「入社1年目は、自分の意見を主張するよりも、環境や周囲の人々の考えを貪欲に学び、理解に努めるべき。また日本語を学ぶことで、日本人との絆を深めことができる」と話した。
就職先にはやりがいや成長可能性を重視
インドの高度人材が米国で就職を志向する理由の1つに、米国で成功した先人の存在が挙げられる。グーグル、マイクロソフト、インテルといった米国西海岸のグローバルIT企業でも、インドで教育を受け、米国に渡りキャリアを積んだインドの高度人材が会社の中枢を担う例が見られる。そして、これらの企業がベンガルールを中心とするインドでの研究開発(R&D)を含む投資を増加させることにより、さらにインドの高度人材を吸収して企業の成長につなげている。IIT-Hの学生も、米国企業の採用情報に高い関心を持っている。
一方で、2019年にはこれら企業から非常に高額な給与を提示されてもそのオファーを断り、大学院への進学など、自身の夢の実現を選ぶ学生もいた。同年の「JAPAN DAY」終了後の学生アンケート結果からも、必ずしも給料だけで就職先を選ぶわけではないことがわかる。例えば、「やりがいや自身の成長の可能性を重視する」というコメントが見られた。
今後のグローバル競争下、日本企業にとっても高度人材活用が重要になる。登壇したアナンド氏は、米国企業などが提示する高額給与で就職先を決めるのではなく、日本に留学して文化や技術力に関心を持ち、日本で働いて着実にキャリアを上げていくことを選択した好例だ。そうした高度人材がロールモデルとなり、インドの高度人材が日本就職にさらなる関心を高めていくことを期待したい。
- 注:
- グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社。
- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション・知的財産部スタートアップ支援課
瀧 幸乃(たき さちの) - 2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課、ジェトロ・ベンガルール事務所、イノベーション・知的財産部イノベーション促進課などを経て、現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ベンガルール事務所
遠藤 豊(えんどう ゆたか) - 2003年、経済産業省入省。産業技術環境局、通商政策局、商務情報政策局等を経た後、日印政府間合意に基づき設置された日印スタートアップハブの担当として2018年6月からジェトロ・ベンガルール事務所に勤務。