特集:外国人材と働く外国人材の活用は着実に進行(福島)
ジェトロがセミナーで先行事例を紹介
2020年12月2日
外国人材活用のニーズは、福島県内でも高まっている。この状況を受け、ジェトロ福島は2020年8月26日、「外国人材を活用する事とは」をテーマにしたセミナーを実施した。同セミナーに登壇した、高度外国人材を採用している企業2社の先行事例を紹介する。
福島県内の外国人労働者が5年で2倍以上に
福島県で働く外国人が急増している。福島県生活環境部国際課の「福島県の国際化の現状 」によると、2019年時点の福島県内の外国人労働者数は9,548人。2014年の3,386人から5年間で2.8倍となった(図1参照)。うち、高度外国人材と呼ばれる「専門的・技術的分野の在留資格」を有する外国人数も、2014年の484人から、2019年には1,215人と2.5倍になった。また、外国人を雇用している県内の事業所数は、2019年に1,719事業所。2014年の806事業所と比較して2.1倍に増加している。
一方でジェトロ福島は、福島県貿易関係企業名簿に掲載される企業を対象に「高度外国人材活躍推進にかかる意識調査アンケート」実施した。その結果によると、外国人の雇用を既に行っている事業者と雇用に関心のある事業者を合わせると、全事業者の57%と半数を超えた(図2参照)。
企業が抱える様々な課題を解決する方策の1つが、外国人材活用だ。ジェトロ福島がこのセミナーを開催したのには、こうした背景がある。セミナーでは、具体的な先行事例として、企業2社が講演した。
ダイバーシティ経営を模索(事例1)
光大産業は福島県本宮市に所在し、家庭用木製品を製造販売する。同社は、2020年7月に高度外国人材を採用した。国内外の営業を担当する根本実和取締役が、それまでの2年間の道のりと採用活動を通して得た気付きについて語った。
光大産業は、東日本大震災以降、海外への輸出に力を入れてきた。現在では北米、欧州、アジアなどに販路がある。年々、海外からの受注量が増えて売り上げを伸ばすにつれ、輸出を事業の柱にするには国内営業との兼任では務まらなくなり、専任の海外営業担当者の必要性を実感し始めた。「初めはビジネスレベルに英語が使える日本人の登用を考えたが、思うように採用活動が進まなかった」と、根本氏は振り返る。また、「縮小傾向の国内市場だけではなく海外に目を向けるにあたり、会社として多様性を認め、ダイバーシティ経営に取り組む重要性を感じた」という。そのような中、高度外国人材について知った。これをきっかけに、日本人に固執する必要がないことに気付いた。本格的な高度外国人材採用活動のきっかけだ。
インターンの活用を通じた受け入れ体制の整備
まずは、外国人受け入れについて社内の理解を深め、社内体制を整える必要がある。そのため、経済産業省が主催する国際化促進インターンシップ事業に2年連続で応募した。それぞれ約2カ月半、インドネシア人とベトナム人のインターンを受け入れた。これによって、一度も海外に行ったことがない社員の、異文化に対する理解が深まった。例えば、英語でコミュニケーションをとることへの心理的な抵抗がなくなり、自発的に英語の習得を始めるなどの変化が社内に生じた。また、社内の業務としても、インターンのアイデアが生かされた。例えば、これまでになかった視点に基づく新商品の開発、カタログやホームページの多言語化の実現、作業の効率化についてのアイデアしなど、具体的な成果があった。
さらに、根本氏は、外国人を受け入れたことによって「採用活動を行う上で、どれくらいの日本語能力を求めるかの感触が分かった」と明かす。日常会話はボディーランゲージでも通用するが、業務内容を理解して遂行するには一定程度の日本語力が必要になる。そのため、自社で求める日本語能力を明確にして、選考の過程で基準に達してない時は採用を見送るなど、シビアに判断する。これにより、活躍が見込める人材の確保ができた。
多方面からの人材へのアプローチ
本格的な採用の検討にあたっては、まず、どのような人材を確保したいのかを明確にした。その後、採用活動の手段を調査するにあたって、ジェトロの伴走型支援を活用した。根本氏は担当コーディネーターと共に、(1)海外での採用活動は実施しない、(2)日本に在住し一定の日本語レベルや習慣を理解している人材を対象とする、(3)人材の発掘にはエージェントなどを使わない、という採用スタイルを支援開始時に決めた。面接を経て最終的に採用したのは、ジェトロの高度外国人材活躍推進ポータルサイトに登録された光大産業の企業情報を見て直接応募があった高度外国人材だ。ジェトロのサービスの利用以外にも、東日本国際大学(在いわき市)のキャリアセンターを訪問して留学生の紹介を受けたり、ハローワークに求人を掲載したり、JETプログラム(注)キャリアフェアに参加したりと、さまざまな活動を行った。
当該外国人材(バングラデシュ出身のコリム・モハマド・フォズルル氏)は、2020年7月に入社した。入社後はまず、生産に使用する資材の入荷記録の作成や在庫管理のための基幹システムへの入力作業など、会社の日常的な業務の習得に努めている。今後に向けて、光大産業の海外業務の担当者として成長し活躍してくれることを期待している。
日本人との共存は可能(事例2)
フクデンの武藤靖典代表取締役社長は、外国人材と働く上での心構えについて紹介した。
フクデンはいわき市に所在し、各種自動化設備(産業機械)の開発設計・製造・販売や機械加工部品、製缶・板金部品を製造・販売する。中国人の特定技能人材1人とベトナム人の高度外国人材4人を雇用している。中国人の特定技能従業員は、もともと技能実習生として3年間勤務していた。本人の継続意思に基づき特定技能1号に在留資格を切り替えて、引き続き働いている。高度外国人材の採用の経緯は2パターンある。4人に共通するのは、ベトナムの工学系大学を卒業したことだ。うち2人はその後、日本国内の学校で学ぶことになり、そこで採用した。もう2人は現地の日本語学校の紹介を受けて、現地採用した。
受け入れ時点で、日本で3年ほど生活していたベトナム人2人は、日本語での会話は問題なく日本の生活習慣にも慣れていた。しかし現地採用のベトナム人2人は、日本語があいさつ程度。日常会話も難しかった。その様な状況であったが、ファクトリーオートメーションやコンピュータを用いた設計の業務を担当させる際に、「相手の国の文化・習慣を理解した上で根気よく教育していった。その過程を通じて、『中国人だから、ベトナム人だから』ということではなく、日本人と共同して仕事ができると感じた」と、武藤氏は語る。
日本の常識は海外では非常識
外国人と働く上で必要な心構えが2点ある。いずれも、問題が発生する度に解決してきた経験から分かってきたことだ。
1つ目のポイントは、会社の社長や幹部が外国人材の母国の文化や習慣を理解することだ。そうすれば「外国人材との共存は可能」と、武藤氏は強調する。文化や習慣の違いによって仕事のやり方は異なる。例えば、日本人は計画を立ててその通りに実行することを重んじる。しかし東南アジアの国では、納期が近くにならないと実行しないことが多い。そのような国の人からは、日本人はせっかちで慌てがちに見えているそうだ。武藤氏は、心構えとして「文化や習慣に起因するギャップを会社の経営者、幹部、指導者が十分に理解した上で丁寧に説明していくことが必要」と指摘した。
2つ目は、外国人材と働く中で問題や改善点があればあきらめずに説明することだ。言葉の違いや文化の違いから食い違いが発生した場合、「相手の言うことが、日本人には言い訳に感じられることもある。それでも、繰り返し丁寧に説明していくことを心掛けることが重要」と訴える。一番やってはいけないのは「日本はこうだから」と上から目線でものを言うことだ。また「前にも説明したのに」というのも厳禁。常に相手と向き合い、粘り強く溝を埋める努力が必要という。
そして最も重要なのは、「長い目で外国人材を見守り、大きな問題が発生すれば会社の経営陣も一緒に解決していく覚悟」と、武藤氏は秘訣(ひけつ)を明かす。
フクデンは、今後を見据えてチャイナプラスワンを検討。ASEANへの拠点進出を視野に入れている。海外戦略を考える際、「現地の製造拠点を任せられる人材が不可欠であるため、今から外国人材を受け入れて、ものづくりや文化を理解してもらっている」という。ベトナム人社員4人は、フクデンが一緒にものづくりをし、将来的にチャイナプラスワンをベトナムにするかどうかを判断するための材料にもなっている。
県内企業の高度外国人材の活用の関心の高まりを受け、地元自治体も企業と域内の外国人材の就職サポートや生活支援の検討を始めた。また、福島県に優秀な人材を集めて専門知識の習得してもらい、その後は地元企業に就職するまでサポートする学校法人もある。これらテーマについては、改めて取り上げたい。
- 注:
- 語学指導などを行う外国青年招致事業(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略。外国青年を招聘(しょうへい)して地方の自治体や教育現場に配置し、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図るのを目的とする。
- 執筆者紹介
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ジェトロ福島
大野 真奈(おおの まな) - 2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部を経て2019年7月から現職。