特集:外国人材と働く 地元人材に、ロールモデル提示を
高度外国人材を地方で獲得(前編)
2023年2月16日
人材不足が叫ばれる昨今、人材の確保が非常に重要になっている。この状況下、優秀な外国人が定着・定住し、安心して働き続ける上での環境も大切になりそうだ。そのために、企業は何を考え、どのような対策を講じるべきなのだろうか。
これを探るためのセミナーが、2022年12月1日に開催された。題して、「新グローバル時代の人材獲得戦略 ―革新の源泉は高度外国人材―」。主催は静岡県の浜松経済同友会とジェトロ浜松。これに、eコモンズ(浜松外国人材定着サポート有限責任事業組合)が共催したかたちだ。ここで主に議論されたのが、高度外国人材の獲得だった。
その結果から、事業者が今後、高度外国人材獲得を検討する上で参考になりそうなポイントを前後編でまとめてみる。本レポートは、その前編。
2割強の日本企業が外国人材活用を念頭に
第1部として、ジェトロのビジネス展開・人材支援部国際人材でビジネス課課長を務める河野敬から、日本企業を取り巻く現状について、ジェトロの調査レポートや政府発表資料を基に説明した。
まず、日本企業のグローバル化の状況を解説した。ジェトロの調査によると、80%以上の日本企業が輸出拡大を望んでいる。海外投資の拡大を望む企業も、約50%ある(注1)。実際、売上高の海外比率が年々増加傾向にある(2000年頃には30%に満たなかったと推測。それに対し、2018年時点では約60%に伸びた)。このように、グローバル志向の日本企業は数多く、増え続けていると言えそうだ(注2)。
ジェトロの調査では、日本企業が海外ビジネスを進める上での課題についても取り上げられた。それらのうち人材面で最も多く挙げられたのが、海外ビジネスを担う「人材の育成」だった(注3)。加えて、イノベーションを実現するために、「人材」を課題として挙げる調査結果もみられる。当該調査では、その質と量、ともに追求すべきことが指摘された(注4)。人材ニーズへの対応策として、20%強の日本企業が外国人材の獲得を指摘している(注5)。一方で、ビジネスの国際化と人材の多様化は連動する課題だ。ビジネスの国際化を待たず人材が国際化する事例も、増えてきた。一般論として、外国人材ニーズは高まってきたと言えそうだ。
在留外国人は現在、約300万人いるとされる(注6)。資格別に内訳を見ると、「技能実習生」「特定技能1号」「高度外国人材」に分類される。技能実習生は、外国人採用の初期段階と言え、外国人材受け入れの基礎を築く段階だ。特定技能外国人は、技能実習生よりも人材のレベルが高い。うまく活用することで、経営戦略の幅が増えていくことにもつながるだろう。さらに高度外国人材受け入れる場合、日本人以上の活躍も期待しうる。新しい事業や価値の創出まで望めそうだ。
組織活性化や外部評価の向上も望める
高度外国人材の獲得には、人手不足の解消以上の効果も期待できる。この記事では、経済産業省の資料(注7)を基に、ジェトロで作成した資料(図1)で確認していく。
採用は、マトリックスの上段にある「会社の仕組みが改善」「新規事業・顧客開拓」を目指して実施されることが多い。ところが、採用後に経営者はマトリックスの下段の「組織活性化」「外部評価の向上」を成果として評価することが多い。これらは、無形の貢献と言えるかもしれない。無形とは言え、例えば「社内コミュニケーションが増えて雰囲気が明るくなった」「日本人社員がイキイキとしてきた」「日本人社員が英語を勉強し始めた」といった具体的な変化をしばしば伴うという(図2)。また、高度外国人材は、経営者に対して率直に意見を言ってくれることもある。実際、それを評価する経営者もいる。
このように、高度外国人材の採用には確実にメリットがある。
ただし、実際に採用していくためには、企業を認知してもらう必要がある。この点、ジェトロは伴走型支援や学生向けの合同説明会、自社を学生にPRできる企業データベース「高度外国人材関心企業情報(OFPリスト)」などのサービスを提供している。その活用が有益なことも多いだろう。
異なる側面からの課題として、外国人材や採用に取り組む企業を孤立させない取り組みも必要だ。そのためには、地域のまとまりも必要だろう。
キャリアの「ロールモデル」作成が効果的
セミナー第2部では、「外国人留学生採用の効果と課題および対応」に関する意見交換会が企画された。そのパネリストとしてジェトロ名古屋の高度外国人材活躍推進コーディネーター、今村由美が登壇。今村コーディネーターは、ジェトロで高度外国人材の採用支援をしている立場から、日ごろ中部地域の企業支援を通じて感じることを説明した。
まず、浜松は地域的に、修士号や博士号まで有する高度外国人材を採用する意欲が高いという認識が示された。しかしそうした人材は、残念ながら、名古屋や大阪、東京などに流出しているのが実情だろう。となると、地域在住の優秀な人材をいかに定着させるかがポイントとなりそうだ。
そのために取り組みたい課題は3つあると指摘。1つ目は、日本語の壁だ。次に、受け入れ態勢面での課題。特に総務や人事に関して、外国人材がマニュアルとして分かる資料が整備されていないところは、まず解決すべきだ。3つ目に、外国人材に示す「ロールモデル」がないことが挙げられる。
特に本質的な課題は3つ目だろう。キャリア志向が強い外国人材の獲得には、極めて重要と言える。ここで言う「ロールモデル」とは、主に「企業としての目標達成のために欠かせない人材像」をいう。示すべき人材のレベルとしては、感覚的には平均より少し上に位置する新入社員で十分だ(決して、「10年に1人」というほどの人材ではない)。こうしたロールモデル(図3参照)を提示することで、キャリア志向が強い外国人材を採用する際の指針にも、入社を促す上でのモチベーションにもなる。また、必要なスキルが明確になることで、人材育成の効率化や、結果として人材の定着にもつながるだろう。
ただし、この「ロールモデル」は一朝一夕に作ることができない。むしろ、人材を受け入れてコミュニケーションを繰り返しながら、修正を重ねて作っていくべきものだ。
では、具体的にどう作成していけば良いのだろうか。例えば、「期待される役割」「等級・役職」「給与水準」の3項目を採用後の年数に応じて作成するのが一案だろう(図4の縦軸)。また、期待される役割を文章化すると、どういった人材を採用したいかについて整理することにもつながる。
さらに、先に挙げた他2つの取り組み課題についても、簡単に補足しておく。
日本語の壁については、職場で求める日本語力の種類を把握すると効果的だ。日本語力の種類について、「聞く力」「話す力」「読む力」「書く力」に大別し、自社でどの力を求めたいか整理する。この「力」について、企業側と入社した人材にギャップがあると、双方でストレスになる。なお、入社後に日本語学校へ通学してもらうというのも選択肢として考えられる。だとしても、会社で必要な日本語・日本語力は、別途教える必要があることは念頭におかなければならない。解決策として有効なのは、日本人社員をうまく巻き込んでいくことだろう。例えば、社員による昼時間を利用した日本語講座や、日本語検定の勉強のアシスタントなどの協力がカギになりそうだ。
日本語の壁に取り組む中で、課題の2つ目とした受け入れ態勢にも取り組むこととなるだろう。こうして、外国人材の受け入れが整っていくことになる。
- 注1:
- 2021年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2.47MB)
- 注2:
- 2018年12月期~2019年3月期時点。2019年の世界貿易投資報告(2.21MB)
- 注3:
- 2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2.19MB)
- 注4:
- DX白書2021_第3部_デジタル時代の人材 (4.82MB)
- 注5:
- 2019年度日本企業の海外事業展開アンケート概要スライド(2.60MB)
- 注6:
- 「在留外国人統計(旧登録外国人統計)」(出入国在留管理庁)
- 注7:
- 令和2年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 100 選プライム/新 100 選 ベストプラクティス集(13.64MB)
- 執筆者紹介
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ジェトロ浜松係長
田辺 知樹(たなべ ともき) - 2011年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、大阪本部、ビジネス展開支援部などを経て現職。