特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス欧州グリーンディールとの整合に意欲(トルコ)
再エネ開発に期待高まる
2022年11月2日
トルコ政府は2021年7月、「2021年グリーンディール・アクションプラン」を発表した。これは、EUの温室効果ガス削減目標への適合に向けたロードマップだ。このプランは、EUが直前に発表した「Fit for 55」にも対応して作成された。トルコはEU基準と調整しつつ、グリーンビジネスで積極的に取り組む構えだ。
本レポートでは、トルコのグリーン分野に関する取り組みや民間企業の具体的な対応策について、2回に分けて紹介する。前編では「欧州グリーンディール」(注1)との関係と、再生可能エネルギー(再エネ)の現状を取り上げる(注2)。
欧州グリーンディールに合わせ施策を構築
EUが2019年12月に発表した欧州グリーンディールは、持続可能なEU経済の実現に向けた成長戦略である。また、EU域内だけでなく世界全体で、環境・経済・社会面の大きな変化をもたらす狙いも見える。そのため、トルコにとっても極めて重要なものになった。その背景には、トルコにとってEUが、最大の貿易パートナーとなっていることがある(注3)。トルコとEUの関係は関税同盟だけでない。例えば、2005年から開始されたEU加盟交渉の枠内で、環境規制や個人情報保護法、消費者保護法などがEU基準に準拠するようになった。こうした動きが、多方面で進んできた。
そうした中、トルコ政府は、2021年7月に「グリーンディール・アクションプラン2021年(トルコ語)(3.18MB)」を発表。これはEUの2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標「Fit for 55」(2021年7月15日付ビジネス短信参照)発表直後のタイミングだった。EUのGHG削減目標に適合するよう、ロードマップを提示したと見られる。そうしたロードマップとして、(1)カーボンプライシング制度(注4)の導入によりトルコの各セクターに追加で発生するコスト、(2)経済への影響に関する調査および支援の検討、(3)気候変動関連の戦略策定なども、盛り込まれた。もっとも、ここに具体的な目標値は示されていない。
なお、「Fit for 55」では、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)の設置に関する規則案(2021年7月16日付ビジネス短信参照)が提示された。このメカニズムに対して、トルコ政府には当初から懸念があった。2020年4月に発表した声明の中でも、(1) CBAMは、トルコ・EU間の関税同盟と世界貿易機関(WTO)ルールに沿った形で運用されるべき、(2)トルコを含む新興国の輸出事業者(特に中小企業)の競争力を阻害しないことが必要、という考え方を示した。その理由の1つとして、トルコの輸出の中でEU向けの構成比が大きいことが挙げられた。これは、CBAMが対象にする主要品目(鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料)でも同様で、いずれも大きなシェアを占める(注5)。また、包括的な資金提供メカニズムの必要性も指摘された。これは、トルコ企業の「グリーンディール」に対応するための投資に向けて、トルコ企業の資金調達環境をEU企業と平等にする必要性を訴えたものだ。
また、この声明では、トルコ・EU各国のセクター同士の協力を模索し、再エネ導入と省エネを促進させることにも触れた。トルコ政府は、2021年10月に「パリ協定」を批准している(2021年10月13日付ビジネス短信参照)。その批准にあたり、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、2053年までに温室効果ガス(GHG)の実質排出量をゼロにすることを目標にすることを表明した。また、批准と同じ10月中に、環境都市計画省を「環境都市気候変動省」と改称。同省の管轄範囲を気候変動分野まで拡大するなど、グリーン分野への取り組みの強化に意欲を示していた。
資金調達に課題含み
グリーンディールには膨大な資金が必要とされている。そのためトルコ政府は、投資インセンティブ制度やグリーンファイナンスの基盤設立を通じて、トルコ企業への支援に努めている。パリ協定批准は、グリーンファイナンス導入に必要な措置だった。また、「グリーンディール・アクションプラン2021年」では、目標として、(1)トルコのグリーンファイナンス関連制度や優遇措置の要件をEU基準に準拠させること、(2)グリーン国債の発行や、EUおよびその他の国際的グリーンファイナンスへのアクセスを促進すること、が示された。
パリ協定批准後、トルコ政府がグリーンファイナンスのために外国金融機関・政府(注6)から合意を取り付けた調達額は、現時点までに31億5,700万ドルに上る。特にEBRDは、トルコの民間銀行と企業に対してグリーン投資資金を提供するのに積極的。2021年には、過去最高額の20億ユーロを融資済みだ。
再エネ開発に対する優遇を強化
トルコは国内に有力なエネルギー資源を有しない。その裏返しとして、鉱物資源の輸入が経常赤字の主因になっている。2021年は石油の92.8%、天然ガスの99.3%、無煙炭の97.1%を輸入に依存した。また、2021年の輸入総額のうち、エネルギー資源が18.7%を占めている。
それだけに、再エネ開発への関心は高い。実際、総電力量に占める再エネ電力の比率が、順調に伸びている(2017年時点で43.26%、2022年上半期で50.24%、表参照)。再エネ開発を促進し、エネルギー資源の対外依存から根本的に脱却することは、トルコにとってグリーンディール・アクションプランの達成だけでなく、慢性的な課題である経常赤字改善にもつながる重要な課題といえる。
電源 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
2022年 (上半期) |
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再生エネルギー | 43.26 | 44.71 | 45.22 | 48.00 | 50.02 | 50.24 |
水力 | 33.44 | 34.01 | 33.54 | 34.70 | 34.11 | 33.72 |
風力 | 7.95 | 8.35 | 8.85 | 9.80 | 11.42 | 11.65 |
太陽光 | 0.02 | 0.10 | 0.20 | 0.50 | 0.98 | 1.26 |
地熱 | 1.31 | 1.54 | 1.78 | 1.80 | 1.82 | 1.80 |
バイオマス | 0.54 | 0.71 | 0.85 | 1.20 | 1.69 | 1.81 |
火力発電 | 56.74 | 55.31 | 55.76 | 52.00 | 49.99 | 49.77 |
天然ガス | 32.28 | 30.93 | 30.53 | 28.80 | 27.64 | 26.94 |
石炭(国産) | 11.37 | 11.54 | 11.89 | 11.40 | 10.97 | 10.84 |
石炭(輸入) | 10.96 | 10.75 | 10.55 | 10.10 | 9.75 | 10.38 |
無煙炭 | 0.76 | 0.74 | 0.95 | 0.90 | 0.91 | 0.90 |
アスファルタイト | 0.50 | 0.49 | 0.48 | 0.50 | 0.44 | 0.43 |
燃料油 | 0.86 | 0.85 | 0.36 | 0.30 | 0.27 | 0.27 |
ナフサ (注) | 0.01 | 0.01 | 0.00 | 0.00 | 0.01 | 0.01 |
LNG(注) | 0.00 | 0.00 | 1.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
ディーゼル(注) | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
注:0.00%は0.01%以下の値を示す。
出所:エネルギー市場規制機構(EPDK)の統計からジェトロ作成
政府の「グリーンディール・アクションプラン2021年」では、再エネ普及促進に向け、2027年末までに風力と太陽光による発電量を毎年1,000MW(メガワット)ずつ増やすことを目標に挙げた。この両発電に関する投資には、既存の投資インセンティブ制度(注7)を適用して、付加価値税や関税が免除されてきた。さらに2022年3月からは、地域別投資インセンティブの枠組みでも優遇措置(注8)が導入されている。
このような動きに合わせて、ソーラーパネル、インゴット、ウエハー、セル、風力ブレード、タービン、風力発電用タワーなど関連分野への投資が進んでいる。例えば、韓国のCSウィンド、ドイツのノルデックス、シーメンスガメサなどの外資系企業が、トルコに生産拠点を設立。国内外向けの製造事業を展開している。
- 注1:
- 欧州グリーンディールでは、「2050年に気候中立(温室効果ガス排出を実質ゼロにする)の達成」という目標をEUとして掲げた。2030 年に向けて気候目標の引き上げ、それに伴って関連規制を見直すなど行動計画を取りまとめた。
- 注2:
- 後編は「民間企業も脱炭素に向け取り組む(トルコ)」を参照。
- 注3:
- 2021年は、トルコの総輸出額のうちEU27カ国向けが41.3%を占めた。
- 注4:
- 二酸化炭素(CO2)排出に価格を付け、市場メカニズムを通じて排出を抑制する仕組み。
- 注5:
-
当該品目についてEU向けの構成比(2021年)を見ると、以下の通り。
- 鉄鋼(HS第72、73類):39.3%
- アルミニウム(HS第76類):57.8%
- セメント(HS第2523項):15.3%
- 肥料(HS第31類):25.9%
- 注6:
- ここでいう外国金融機関・政府には、(1)世界銀行、(2)ドイツ環境・自然保護・原子力安全省、(4)フランス外務・国際開発省、(5)国連、(6)欧州復興開発銀行(EBRD)が含まれる。
- 注7:
- 投資インセンティブ制度の詳細はジェトロのウェブサイト(トルコ:外資に関する奨励)を参照。
- 注8:
- 風力・太陽光発電に関してⅠ~Ⅲ地域で投資する場合でも、本来ならⅣ~Ⅵ地域だけに認められる好条件のインセンティブが適用される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所 国際貿易専門家
エライ・バシュ - 2009年6月にトルコのチャナッカレ・オンセキズ・マルト大学教育学部日本語教育学科を卒業。その後、大阪大学に留学し、2014年3月に言語文化研究科言語文化専攻博士前期課程を修了。2015年3月からジェトロ・イスタンブール事務所で調査担当として勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ) - 1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊