特集:世界経済を展望するキーワード 特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向 EV:地域やエンジンで、サプライチェーン構築に違い

2021年10月28日

自動車メーカーは、世界的なエコカー市場の拡大に合わせ、EVなどのサプライチェーンの構築を進める。現地生産と域外からの輸入との関係から、主要市場における近年のEVなどの生産供給状況を概観する。

米国のPHEVとHEVは、日本など域外からの輸入大

世界の電気自動車(EV)の新車登録台数(2020年)は約300万台だったが、欧州や中国を中心に今後も急拡大するとみられている(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。その背景の1つとして、EV導入を加速化させる政府の方針がある。例えば、米国のバイデン大統領は2021年8月、2030年までに新車の半数以上をバッテリー電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)にするとの目標を表明している(2021年8月6日付ビジネス短信参照)。そして、こうした政府の動きに呼応するかのように、自動車メーカーは2021年に入り、EV戦略を新たに打ち立てたり、従来の目標を引き上げたりしている(表1参照)。

表1:自動車メーカーのEV戦略(一部)
企業 EV戦略(カッコ内は発表時期)
フォルクスワーゲン(VW)
  • 〔VW、欧州〕2030年までに新車販売の70%をBEV(2021年5月)
  • 〔アウディ〕2026年から新モデルの販売はBEVのみ(2021年6月)
  • 〔アウディ〕2033年までに脱内燃機関車(2021年6月)
BMW
  • 〔BMW〕2030年までに新車販売の50%をBEV(2021年3月)
  • 〔Mini〕2030年代の早めまでにすべてをBEV(2021年3月)
ダイムラー
  • 〔メルセデス〕2022年までに全セグメントでBEVを提供(2021年7月)
  • 〔メルセデス〕2025年以降のプラットフォームはBEV向けのみ(2021年7月)
GM
  • 2035年までに脱内燃機関車(2021年1月)
  • 2025年までに30種類のEV(2020年11月)
フォード
  • 〔欧州〕2030年までに新車販売をBEVもしくはPHEV(2021年2月)
  • 2030年までに新車販売の40%をEV(2021年5月)
浙江吉利控股集団
  • 〔ボルボ〕2030年までにすべての車種をBEV(2021年3月)
タタモーターズ
  • 〔ジャガー〕2025年からEV専業ブランドに刷新(2021年2月)
トヨタ
  • 2030年までにBEVとFCEVで年間新車販売台数200万台(2021年5月)
ホンダ
  • 2040年に新車販売のすべてをEVもしくはFCEV(2021年4月)

出所:各社ウェブサイトなどを基に作成

急拡大するエコカー市場をねらって自動車メーカーは生産供給体制を急ぐものの、その体制の構築は、メーカー各社の戦略や既存の生産・販売ネットワークなどによって異なる。販売国や周辺国に生産拠点(エコカーの完成車組み立て工場)を持つ場合もあれば、遠く離れた国から輸入する場合もある。自動車メーカーは、どのようなサプライチェーンを構築して、急拡大するEV市場を攻略しようとしているのか。経済連携協定など経済的な結びつきが強い、主要市場とその周辺地域を1つの経済圏と捉え「域内」、それ以外の地域を「域外」として、欧州、中国、米国の主要市場と日本における新車販売台数と、それぞれの国・地域の「域外」からの輸入比率の変化を追うことで、主要市場におけるEV(完成車)サプライチェーンの構築状況を概観してみる。

具体的には、欧州、米州(米国)、アジア(中国、日本)をそれぞれの「域内」とし、それ以外をそれぞれの「域外」と捉え、新車販売台数に占める域外からの輸入台数を同輸入比率として整理した。また、エンジンタイプによってもサプライチェーンの構築は異なると考え、BEV、PHEV、ハイブリッド車(HEV)、そして参考用として、ガソリン車の4つのエンジン別で表した(図参照)。

図:新車販売台数と域外からの輸入比率(エンジン別、国・地域別)

BEVの新車販売台数(千台)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は136、200、360、746、492 。中国は468、816、834、931、941。 米国(2021年上半期除く)は104、207、234、240。 日本は18、26、21、15、8。 域外からの輸入比率(%)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は9.3、12.1、19.0、14.8、15.5 。中国は4.2、2.1、6.3、1.1、0.5 。 米国(2021年上半期除く)は7.1、4.2、15.1、12.5 。 日本(2020年、2021年上半期除く)は6.1、4.2、10.8 。
PHEVの新車販売台数(千台)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、 欧州は153、186、200、619、537 。中国は111、265、226、228、199 。 米国(2021年上半期除く)は104、207、234、240。 日本は36、23、18、15、11 。 域外からの輸入比率(%)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は6.0、11.3、15.2、7.4、3.4 。中国は5.6、2.3、6.1、5.0、4.6 。 米国(2020年、2021年上半期除く)は66.1、46.1、71.1 。 日本は8.3、16.2、13.0、17.5、15.9 。
HEVの新車販売台数(千台)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、 欧州は456、627、957、1448、1286。中国は163、250、289、357、306。 米国(2021年上半期除く)は363、338、381、455。 日本は1385、1432、1472、1348、755。 域外からの輸入比率(%)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は19.0、17.6、15.8、10.3、2.0。 中国は4.2、1.8、1.3、0.7、0.4。 米国(2021年上半期除く)は50.4、43.8、51.2、45.6。 日本は0.0、0.0、0.0、0.1、1.1。
ガソリン車の新車販売台数(千台)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は7786、8750、9216、5750、2754。中国は23930、22347、20075、18621、8593。 日本は1623、1559、1507、1381、690。 域外からの輸入比率(%)については、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年上半期の順に、欧州は4.5、4.4、3.7、3.2、4.8。中国は3.4、3.3、3.0、3.0、3.9。 日本は14.8、16.2、15.0、11.3、12.4。

注1:「域外」は欧州「欧州(主にEU)以外」、中国と日本「アジア以外」、米国「米州(主にカナダ、メキシコ)以外」。
注2:欧州については、トルコやモロッコなどは「欧州以外」に含まれる。欧州の輸入比率にはEU域内での輸入は含まれない。
注3:数値が不明、もしくは輸入台数が新車販売台数を上回る場合は対象外とした。
注4:輸入後販売されるまで日数のズレが生じるが、ここでは輸入年と販売年が一致するとして整理している。
出所:欧州自動車工業会(ACEA)、中国自動車工業協会(CAAM)、米国エネルギー省、日本自動車販売協会連合会(JADA)、日本自動車工業会(JAMA)、国際エネルギー機関(IEA)、グローバル・トレード・アトラス、CEICなどから作成

域外からの輸入比率をエンジン別と国・地域別にみると、BEVでは国・地域間でそれほど大差はないものの、PHEVとHEVでは米国が、域外からの輸入比率が高い。米国の域外からの輸入のうち、年によっても異なるものの、PHEVで6割程度、HEVで7割程度がそれぞれ日本からの輸入である。在米国のトヨタやホンダは日本からPHEVやHEVを輸入している。トヨタ(レクサスを含む)は、エンジン別・地域別の輸出台数を発表していないが、北米におけるPHEVやHEVを含めた「電動車」の販売台数(2020年)を38万6,649台としており、この中に、日本からの輸出が含まれていると考えられる。

テスラやVW、中国でBEVの生産能力を拡大

新車販売台数と域外からの輸入比率の関係性をみると、中国のBEVや、欧州のPHEVとHEVは、いずれも2019年ごろから新車販売台数が増加傾向にある一方で、輸入比率は下がってきており、域内での生産供給体制を高めている。

中国におけるBEVについては、世界最大のEVメーカーであるテスラ(米国)が米国と中国で、2020年に50万9,737台を生産。同社の中国における新車販売台数は13万7,000台、と報じられている(2021年4月9日付「グローバルタイムズ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同社の上海工場の生産能力は2021年に入り年産45万台以上に拡大しており、米中合わせた生産能力は年産105万台以上となる。2021年1~9月には、米中合わせて62万4,582台を生産し、2020年実績をすでに超えている。

フォルクスワーゲン(VW)は2021年1~9月、中国で前年同期比3倍増の4万7,200台のBEVを販売。生産台数拡大に向けた動きでは、EVに特化したプラットフォームを採用する最先端工場として、2020年 9 月に中国・広東省の仏山工場、10月に上海工場を相次いで稼働させた。両工場のEV生産能力は年間で計60万台に達する。

欧州におけるPHEVについては、BMW(MINIを含む)が2020年に、欧州で13万5,000台以上のPHEVを販売した、と報じられている(2021年1月13日付「インサイドEVs」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同社のレーゲンスブルク(ドイツ)工場では2020年から、スポーツ用多目的車(SUV)の「X1」「X2」のPHEVの生産を開始している。また、同社はディンゴルフィング(ドイツ)工場(2020年の生産台数は23万2,000台)で、PHEVを含めたEVの生産比率を2021年に前年比で倍増させる計画だ(2021年7月2日付同社プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

欧州におけるHEVについては、トヨタが2020年、欧州で52万9,054台のHEVを販売(レクサスを含む)した。10万7,623台(2020年)を販売したHEVの「ヤリス」(日本名は「ヴィッツ」)は、同社オネン(フランス)工場で生産している。同社は2020年7月、同工場に3億ユーロを投じて、「現地生産と生産能力の最大化をさらに強化する」(同社プレスリリース)と発表している。同社のヴァウブジフ(ポーランド)工場では、オネン工場で生産する「ヤリス」向けなどのパワートレイン(動力を伝える装置)の生産をしているが、2021年第4四半期には、オネン工場で生産する新タイプの「ヤリス(クロス)」(HEV)向けのパワートレインの生産ライン(年間の生産能力17万5,000台)を立ち上げると発表しており、欧州におけるHEVの生産能力の増強を進めている。

中国新興メーカー、欧州向けのBEV輸出を拡大

一方、欧州におけるBEVについては、2019年以降、新車販売台数が伸びている点は、先述の中国のBEV、欧州のPHEVやHEVと同じだが、2019年以降、域外からの輸入比率がそれほど減少せず、やや横ばいで推移している。欧州での生産については、VWが2021年1~9月に、欧州で前年同期比2.2倍増の20万9,800台のBEVを販売。同社は2020年9月から、ドイツ・ツヴィッカウ工場でSUVタイプのBEV「ID.4」の生産を開始している。

ルノーは2020年、欧州で前年比倍増の11万6,196台のBEVを販売し、うち10万815台(前年比2.1倍増)は、ブランド別で欧州最大の販売台数となったコンパクトBEV「ZOE」だった。同社のフラン工場(フランス)で生産(2020年は9万2,621台)していた「ZOE」の生産能力を2022年までに倍増させる予定(2018年6月発表当時)だったが、同社が2020年5月に発表したコスト削減などの再建計画(2020年6月4日付ビジネス短信参照)により、同工場はバッテリーや中古車の修理などリサイクルを行う循環経済型工場への切り替えが進められている。一方、同社のEV生産は、フランス北部の別工場がその中心となる見込みで、2025年までに年間生産能力40万台に引き上げる計画だ。

2020年や2021年上半期の欧州の輸入先をみると、中国や米国からが目立つ。2019年以降、欧州のBEVの域外からの輸入比率がそれほど減少していないのは、テスラによる米中(の生産拠点)からの輸入と、台数は少なくとも中国などの新興メーカーによる欧州向け輸出などが、背景にあるとみられる。テスラはドイツのベルリン郊外に、「モデルY」の生産工場を建設中(注1)だが、現在は欧州に生産工場を持たないため、米国や中国から輸入している。また、中国から欧州への輸出について、台数は少ないものの、中国の新興メーカーによる事例がみられる(表2参照)。

表2:中国から欧州へのBEV輸出例(一部)
企業 動向
2020年 河南速達電動汽車(SUDA)
(中国・河南省)
天津港からドイツのデュッセルドルフ向けに200台のBEV「SA01BC」を輸出(2020年5月)
愛馳汽車(Aiways)
(中国・上海)
BEV「U5」500台をフランスのコルシカ島向けに輸出(2020年6月)
テスラ 上海工場で生産したセダンタイプのBEV「モデル3」を欧州向けに輸出(2020年10月)との報道あり(2020年10月28日「インサイドEVs」)。
小鵬汽車(Xpeng Motors)
(中国・広州)
SUVタイプのBEV「G3」100台を欧州最初の販売国であるノルウェーに輸出し、購入者への引き渡しを開始(2020年12月)。
2021年 比亜迪(BYD)
(中国・深圳)
SUVタイプのBEV「Tang」100台をノルウェー向けに輸出を開始(2021年6月)。
上海蔚来汽車(NIO)
(中国・安徽省)
SUVタイプのBEV「ES8」をノルウェー向けに初めて輸出(2021年7月)
テスラ 上海工場で生産したSUVタイプのBEV「モデルY」を欧州向けに輸出(2021年7月)。同月の欧州向けの輸出台数は8,210台との報道あり(2021年8月16日「グローバルタイムズ」)。

出所:各社ウェブサイトや報道などを基に作成

中国のエコカー市場、現地生産が定着

中国はどのエンジン別でみても、輸入比率は相対的に低い。中国はそもそも域外に限らず、アジアも含めた国外からの輸入比率自体が低いのが特徴だ。輸入先のほとんどが日本であるHEVを除けば、BEV、PHEVともに国外と域外の輸入比率はほぼ同じ程度であり、そもそも輸入依存度が低い。

自動車メーカー各社は、世界最大市場である中国では、地産地消戦略を前提としている。中国では2018年から、EVを含む新エネルギー車に対して、外資出資比率の制限(注2)が撤廃されたため(2018年4月19日付ビジネス短信参照)、外資単独でも中国内での生産が可能となっており、テスラの上海工場が外資単独出資による初の生産工場として稼働している。また、「乗用車企業の平均燃費と新エネルギー車クレジットの並行管理弁法」(2018年4月施行)により、乗用車を3万台以上、生産または輸入・販売する企業は、2019年から一定比率の新エネルギー車を生産または輸入・販売することが求められ(2017年11月13日付ビジネス短信参照)、同法は2020年から本格導入されている。これらが、中国国内でのエコカー生産が進む背景にあるといえる。

なお、自動車の輸入増に大きく寄与する自由貿易協定(FTA)が(中国と他国・地域間で)存在しないこと、継続する米中貿易摩擦なども、中国におけるエコカーの地産地消に拍車をかけている可能性がある。中国は一部の国・地域と発効済みのFTAを持つが、中韓FTA(2015年発効)は中国側が自動車を開放しておらず(調査レポート「韓国の FTA 調査-韓中 FTA、韓米 FTA を中心に-」(2018年3月)参照)、他にもASEAN中国自由貿易協定(ACFTA)(2005年発効)では乗用車(完成車)が高度センシティブリストに掲載されるなど、輸入比率上昇につながる要素は限られる。中国の自動車に係る一般関税率は15%と高く、FTAによる関税率の低減がなければ、中国国外からの輸入は価格面で不利にはたらきやすい。また、米国からの輸入の場合は、トランプ前政権時代の2018年から続く追加関税措置(25%の追加関税)の対象となっている(注3)。

日本については、新車販売台数でみるとHEVが突出しており、域外からの輸入比率はどのエンジン別でも大きな変化がない点が特徴的だ。

LCAの観点も含めたサプライチェーン構築を

これまで、新車販売と域外からの輸入をベースに、主要市場へのEVの供給状況をみてきたが、EVのサプライチェーン構築を進めるにあたっては、グローバルリスクと地域別リスクの双方への対応が求められ、場合によってはサプライチェーンの見直しも検討する必要がある。新型コロナ感染拡大により、操業規制や移動規制、また、それに伴う原料・部品供給不足が生じたことで、新型コロナ感染拡大初期(2020年5~6月)には、「地産地消」「分散化」「輸出対応」など、サプライチェーンの見直しに言及する海外進出日系企業が一部でみられた(2020年9月3日付地域・分析レポート参照)。日系企業に限らず、例えばドイツ系企業からも、コロナ禍で国内外のサプライチェーンの分断が指摘されていた(2020年10月8日付地域・分析レポート参照)。

新型コロナ感染拡大だけでなく、世界的な半導体不足、コンテナ不足や価格高騰、米中貿易摩擦などは、グローバルサプライチェーンに大きな影響を与えている。EV関連でのグローバルサプライチェーンへの影響については、例えば、フォルクスワーゲン(VW)傘下のシュコダ・オート(チェコ)が、半導体不足を理由に、2021年10月18日から年末までチェコ3工場(注4)の生産規模を縮小もしくは生産停止予定と報じられ、EVの生産計画に影響が出ている(2021年10月7日付ロイター紙外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、テスラは、中国の上海工場を「輸出ハブ」(同社情報)として、米国向け輸出のため拡張する計画だったが、継続する米中貿易摩擦(中国の自動車に対する米国の追加関税措置)を背景に、同工場の拡張計画を断念した、と報じられている(2021年5月11日付ロイター紙外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

アジアでは香港(2019年 3 月以降)やミャンマー(2021年 2 月以降)情勢の不安定化、北米では米国南部における記録的な寒波(2021年 2 月)、欧州では英国のEU離脱(ブレグジット)(2020年 1 月末)、中東ではスエズ運河コンテナ船座礁事故(2021年 3 月下旬)など、各地での出来事が周辺地域でビジネスを展開する日本企業の活動やサプライチェーンにまで影響を及ぼした(「ジェトロ世界貿易投資報告2021年版」第Ⅱ章第2節参照)。EVのサプライチェーン構築でも同じことが言える。例えば、英国自動車製造者販売者協会(SMMT)は、英国・EU間の通商・協力協定(TCA)の暫定適用が開始された2021年1月の自動車生産台数(EVを含む)が前年同期比27.3%減(生産台数は8万6,052台)となった要因の1つとして、英国のEU離脱を指摘している。エコカー(BEV、PHEV、HEV)だけでみると同18.9%増だったものの、翌月(同25.3%増)の伸びに比べると、一時的にやや精彩を欠いたようにも映る。

さらに、グローバルそして地域的なリスクなどの外的要因以外にも、自社や業界で導入すべき考え方が、EVのサプライチェーン構築にも大きく関係し得る。走行中に排出するCO2(二酸化炭素)だけでなく、部品の生産、組み立て、廃車など自動車の生涯を通して排出されるCO2の排出量全体から環境への影響を定量的に評価する、自動車のライフサイクル・アセスメント(LCA)という考え方がある。このLCAもEVのサプライチェーン構築において、今後重要な視点になり得る。EVの生産段階におけるCO2排出や、販売地への移動におけるCO2排出、そして、EV充電で必要となる電気の生産時のCO2排出など、EVの生産から廃棄までのライフサイクル全体でみたCO2排出削減への取り組みが求められる中、どこで生産してどこで販売するのがEV事業全体としてのCO2排出削減につながるのか、という捉え方次第で、EVのサプライチェーンの構築にも大きな影響を与えるといえる。

これらの点を踏まえると、急拡大するEVにおいても、(域外からの輸入を前提とした)地域横断でのグローバルサプライチェーンと、地域内に集約したサプライチェーンのいずれに偏ってもリスクを伴うと考えられ、EVのLCAも含めた柔軟な対応が可能なサプライチェーンの構築が望ましいといえる。


注1:
当初の想定(2021年7月ごろ稼働)より遅れ、2021年末ごろに稼働予定と報じられている(2021年10月8日付「ブルムバーグ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注2:
中国における外資系自動車メーカーによる自動車生産は、従来、地場の中国メーカーとの合弁形態(外資の出資比率は50%以下)のみ可能としていた(合弁企業数は2社まで)。2022年までには、自動車の外資規制が撤廃される予定(2018年4月19日付ビジネス短信参照)。
注3:
中国は2019年1月から、米国製の自動車・同部品に対する追加関税(最大25%)の賦課を暫定的に一時的に停止中(詳細は「中国の対米通商関連政策」を参照)。
注4:
チェコのムラダー・ボレスラフ工場で、2020年11月からSUVのBEV「エニヤックiV」の生産を開始している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

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