上海の封鎖管理が物流や貿易などサプライチェーンに影響(中国)
2022年4月15日
上海市政府は2022年3月28日から、黄浦江を挟んで市内を東部(浦東、浦南地区および周辺地域)と西部(浦西地区)に分けて2段階で封鎖の上、新型コロナウイルスのPCR検査と抗原検査を実施している(2022年4月1日付ビジネス短信参照)。東部、西部とも、封鎖管理の終了予定時期を迎えても封鎖管理は終わらず、日系企業の操業や物流に大きな影響が出ている(2022年4月7日付ビジネス短信参照)。4月9日に上海市政府は追加的な市内全域のPCR検査を実施し、感染者の発生状況などによって市内を「封控区」「管控区」「防范区」(注1)の3つに分けて管理を行うと発表した。これで、上海市全域での封鎖管理解除に向けた指針が示されたことになる。
香港からの輸入症例増加が今回の感染拡大に
今回の上海市での感染拡大は、香港の感染拡大によって香港から中国本土への入境者の隔離など、香港からの陸路渡航の玄関口となる広東省深セン市の負担を結果的に上海市も担うことになったことが関係していると考えられる。 香港では、2022年1月にオミクロン株による感染拡大の第5波が到来(2022年2月24日付ビジネス短信参照)、感染予防のため、公務員は1月25日から在宅勤務を開始するなどの措置を取っていた。香港と隣接し、往来の窓口となる深セン市は1月25日、香港からの入境者に対して、香港政府指定検査機関での24時間以内のPCR検査陰性証明の所持と、入境後の集中隔離を14日間、健康観察を7日間行う「14+7」に変更すると発表した(注2)。
2月以降も香港で感染は拡大し、2月13日から19日の感染事例数は1日平均3,000例を超えた。こうした感染拡大から逃れようと、香港からの旅客が向かったのが上海だった。上海は浦東国際空港に世界各国・地域から国際航空便を受け入れており、国外からの入境者に2週間の集中隔離を求めている。しかし、上海市内の隔離ホテルのキャパシティーは常に逼迫した状態だったため、上海市を経て江蘇省や浙江省、安徽省へ向かう入境者に対しては、2021年9月以降、上海市で3日間の集中隔離、その後、3省の集中隔離拠点で11日間の集中隔離などの措置が取られていた。
上海市の新型コロナ輸入症例のうち、香港からの輸入症例は2022年1月にはわずか3例だったが、2月13日以降、感染症例が毎日確認されるようになり、18日には1日で10例を超え、2月中に計353例を確認するに至った。国際旅客便については、同一便から5例以上の感染事例が確認された場合、2週間の運航停止とする措置が取られているが、香港からの便に対して運航停止措置は実施されなかった。また、香港から中国本土に入境する搭乗に際し、キャセイパシフィック航空や香港航空などが48時間以内のPCR検査陰性証明を求めたのは、2月23日以降の搭乗からだった。上海市側でも入境者の隔離施設を確保していたが、体制が不十分な隔離施設から市中感染が発生することとなった。同市政府は3月15日の記者会見で、隔離施設からの市中感染拡大を認め、隔離施設の華亭賓館に対して調査を行うと発表した。華亭賓館は1986年に開業した5つ星ホテルだが、2月16日に営業を終了し、2年間の改修に入る予定だった。
上海市の感染拡大と市の対応
上海市での新型コロナ市中感染事例(輸入症例は除く)は、2022年1月26日の1例以降、2月28日まで感染ゼロの状態が続いていた。ところが、3月1日に1例を確認して以降、5日を除いて毎日感染事例が確認されるようになり、10日には1日の感染事例数が10を超えた。市東部が封鎖管理となった28日の感染事例は100近くに上った。
また、無症状感染者(中国では感染者とカウントしていない)も急激に増加した。上海市は毎日の感染者数発表の中で、これまで含めていなかった無症状感染者の数を2月16日以降発表するようになった。無症状感染者数も最初は国外からの輸入症例がほとんどだったが、2月24日に市内の無症状感染を1例確認して以降、感染事例が毎日確認され、3月3日に1日10例を超えた。翌4日には市内の無症状感染者数が輸入症例数を上回り、13日に100例超、24日に1,000例超、4月4日には1万例超、7日には2万例超と、急速に増加した(図1参照)。
こうした感染拡大に対し、上海市は3月12日、市民に不必要に市外へ出ないよう要請するとともに、上海市に出入りする場合は48時間以内のPCR検査陰性証明を求めると通知した(2022年3月15日付ビジネス短信参照)。さらに、市内全ての小・中学校で授業をオンラインに切り替える対策を講じた。市では3月1日から12日までの12日間で1,000例超の感染事例(無症候感染を含む)を確認していたが、この期間は第13期全国人民代表大会(全人代)第5回会議(3月5~11日)と重なっていたため、対応が後手に回った可能性もある。上海市政府は3月15日、会見で都市封鎖やロックダウンを実施する考えはないと述べた。都市封鎖を避けるために翌16日から2日間、重点地域で2回のPCR検査を実施、18日には非重点地域でも3日間で1回のPCR検査を実施すると発表し、結果として市内全域で感染者を特定するためのPCR検査が行われた。しかし、その後も感染者数は収まる傾向がみられず、ついに27日、上海市を東西に分けて封鎖管理を行うと発表した(2022年3月29日付ビジネス短信参照)。封鎖管理の支援に当たり、人民解放軍2,000人を含む2万5,000人以上が上海周辺や湖北省、海南省などから駆け付けた。4月2日には国務院の孫春蘭副首相が上海入りし、12日時点でも封鎖管理の指揮に当たっている。
月日 |
上海市の香港からの 1日の入境感染者数 ( )内は2022年1月からの累計 |
上海市の1日の感染者数(無症状を含む) ( )内は2022年1月からの累計 |
主な動き |
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2月16日 | 2(15) | 10(819) | 上海市が無症状感染者の発表開始 |
3月1日 | 27(383) | 56(1,408) | 上海市で1月26日以来の市内感染を確認 |
3月12日 | 7(621) | 79(2,414) | 上海市民に対して不必要に上海市から出ないよう要請、上海市に出入りする場合は、48時間以内のPCR検査陰性証明を求めると通知。さらに上海市内の学校をオンライン授業に切り替え。 |
3月15日 | 2(645) | 213(2,968) |
|
3月16日 | 5(650) | 179(3,147) | 上海市は3月16、17日に市内の感染重点地域で2回のPCR検査を実施 |
3月18日 | 11(665) | 392(3,811) | 上海市は3月18日から3日間で市内の非重点地域で1回のPCR検査を実施 |
3月27日 | 2(701) | 3,514(18,121) | 上海市と東西に分け、都市封鎖を行うと発表 |
出所:上海市および関係部署の発表を基にジェトロ作成
上海は中国の貿易窓口、物流の大動脈
2020年の新型コロナ感染拡大初期には、中国全土で工場の生産などの経済活動が止まったため、上海市の役割や機能といったことに焦点が当たることは少なかったが、今回は上海市が封鎖管理となったことで、その果たしている役割の大きさがあらためて浮き彫りになった。
上海市の2021年のGRPは4兆3,215億元(約86兆4,300億円、1元=約20円)で、中国全体の3.8%を占める(表2参照)。比較的大きな比率に見えるが、同じく華東地域の江蘇省、浙江省、安徽省と比べると、特別大きいわけではない。貿易総額も4兆610億元、中国全体の10.4%と比較的大きな位置を占めるが、江蘇省、浙江省のほうが金額、占める割合ともに大きい(注3)。しかし、輸出入の窓口という観点に立ってみると、上海市の重要性が際立ってくる。
税関総署の統計で税関別の貿易額をみると、上海市を管轄地域とする上海税関の貿易額は2021年に7兆5,743億元で、中国全体の19.4%を占め(図2参照、注4)、江蘇省、浙江省、安徽省をそれぞれ管轄する南京税関、杭州税関、寧波税関、合肥税関の合計をも上回る規模にある。上海税関の取り扱い規模が大きい要因として、華東地域の輸出入貨物が物理的に上海に運ばれ、上海税関を通して輸出入されている可能性が挙げられる。
コンテナ貨物については、自動化された港湾として巨大な取扱量を誇る洋山港を擁する上海港が2021年のコンテナ取扱量も世界第1位で12年連続トップとなっている。コンテナ取扱量は4,703万TEU(20フィートコンテナ換算)で、中国全体の16.6%を占める(図3参照)。
項目 | 上海市 | 江蘇省 | 浙江省 | 安徽省 | 全国 | ||||
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面積(万㎢) | 0.63 | 0.1% | 10 | 1.0% | 10 | 1.0% | 14 | 1.5% | 960 |
人口(万人) | 2,487 | 1.8% | 8,475 | 6.0% | 6,457 | 4.6% | 6,103 | 4.3% | 141,178 |
GDP(億元) | 43,215 | 3.8% | 116,364 | 10.2% | 73,516 | 6.4% | 42,959 | 3.8% | 1,143,670 |
第一次産業付加価値額(億元) | 100 | 0.1% | 4,722 | 5.7% | 2,209 | 2.7% | 3,361 | 4.0% | 83,086 |
第二次産業付加価値額(億元) | 11,449 | 2.5% | 51,775 | 11.5% | 31,189 | 6.9% | 17,613 | 3.9% | 450,904 |
第三次産業付加価値額(億元) | 31,666 | 5.2% | 59,866 | 9.8% | 40,118 | 6.6% | 21,985 | 3.6% | 609,680 |
貿易総額(億元) | 40,610 | 10.4% | 52,131 | 13.3% | 41,429 | 10.6% | 6,920 | 1.8% | 391,009 |
輸出額(億元) | 15,719 | 7.2% | 32,532 | 15.0% | 30,121 | 13.9% | 4,095 | 1.9% | 217,348 |
輸入額(億元) | 24,892 | 14.3% | 19,598 | 11.3% | 11,308 | 6.5% | 2,825 | 1.6% | 173,661 |
社会消費品小売総額(億元) | 18,079 | 4.1% | 42,703 | 9.7% | 29,211 | 6.6% | 21,471 | 4.9% | 440,823 |
出所:国家統計局、各省市の発表を基にジェトロ作成
封鎖管理の期間中も税関や港湾関係者は勤務を継続しており、空港や港湾での貨物輸出入などは行われている。しかし、トラック運転手が封鎖区域から出られない、あるいは港湾の出入りに通行許可証が必要といった状況で、輸出する貨物を港湾まで運ぶことができない、または輸入しても貨物を港湾から自社倉庫まで運び出せないといった事態が生じている。このように物流機能が制限されているため、一部自動車メーカーでは日本に必要な部品を届けることができず、工場の稼働停止を余儀なくされているという。また、日本から必要な部品が届かず、中国の工場が稼働停止に追い込まれるケースもあり得る。
上海市の封鎖管理は経済、とりわけ物流を通じてサプライチェーンに大きな影響を与えている。封鎖期間が延びるほど影響が拡大し、中国経済のみならず、日本経済や世界経済にもサプライチェーンの混乱を及ぼす懸念がある。
- 注1:
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「封控区」「管控区」「防范区」は次のとおり。
「封控区」:直近7日間に感染者が報告された小区(マンション群、団地単位)。住民は7日間の封鎖管理、その後7日間の自宅健康管理となり、封鎖管理期間中は住居から出ることができない。自宅健康管理期間中は住居から出られるが、小区を出ることはできない。
「管控区」:直近7日間に感染者が報告されていない小区。住民は7日間の自宅健康管理となり、小区を出ることはできない。
「防范区」:直近14日間に感染者が報告されていない小区。行政区域内(街道、鎮)での適切な活動は可能。「封控区」「管控区」への移動は避ける。 - 注2:
- 香港入境者の隔離について、2022年1月25日以前は14日の集中隔離期間の後半7日間について、自宅が隔離条件を満たしていれば自宅隔離を可能とする「7+7+7」を行っていたが、この実施を取りやめ、最初の14日間が集中隔離に変更となった。深セン市における香港からの入境症例数(累計)は、2020年の新型コロナ発生以降、2022年1月31日まででわずか4例だったが、2月5日以降は感染事例が相次いで確認され、2月11日には1日で10例を確認、輸入症例数(累計)が2月15日に55例、21日には103例となり、増加傾向をたどった。深セン市は香港からの感染拡大の大きな圧力に直面し、市内の隔離ホテルのキャパシティーが逼迫するに至った(「澎湃新聞」2月22日)。また当時、陸路で香港から深セン市に入境する者の人数を制限していたという報道もある。
- 注3:
- 上海市の貿易額は同市に登記する企業の貿易額を指す。
- 注4:
- 上海税関が取り扱う貿易額は、日本の2021年の貿易額(約167兆円)の91%に相当する。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
高橋 大輔(たかはし だいすけ) - 1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月よりジェトロに出向し現職。