特集:欧州が歩む循環型経済への道ポスト・コロナ、循環型経済推進など環境投資で経済復興に期待(欧州)

2020年6月4日

欧州委員会の環境政策「欧州グリーン・ディール」では、循環型経済確立がその中核として据えられるなど、その重要性が増している。その一方、新型コロナウイルス感染拡大は欧州市民の健康・生活のみならず、経済にも大きな痕跡を残した。欧州各国は同影響による経済損失の食い止めに注力せざるを得ない状況に陥っている。こうした環境の中、産業界・政界ともに、新型コロナウイルス終息後の経済刺激策として、循環型経済確立を含む環境分野への投資に期待を寄せている。

循環型経済確立を競争力の源泉として期待

経済協力開発機構(OECD)の2019年2月の予測によると、世界の化石燃料、金属や鉱物資源の消費量は2060年に1,670億トンとなり、2011年の2.1倍に拡大する。また、世界銀行は2018年9月に、一般廃棄物の量が2050年に2016年比で70%増になるとする試算を明らかにしている。温室効果ガス排出の約半分は資源の採取や加工時に起因するとされ、生物多様性への影響や水質汚染への影響に至っては9割以上がこれらに由来するという。このため、(1)使用する資源をより少なくする、(2)資源を使って生産された製品のライフサイクルを長くする、(3)資源自体をできるだけ再生可能なものにしていく、といった循環型経済確立を推進していくことが求められている。

循環型経済確立への取り組みは温室効果ガス排出を実質ゼロにする気候中立性の実現や資源効率化をもたらすだけでなく、経済の競争力強化の源泉にもなりうる。このような考え方から、欧州はその取り組みを積極的に推進している。欧州委員会は、気候中立を達成する目標の実現や資源効率化を実現するための行動計画「欧州グリーン・ディール」を掲げる。2020年3月に発表された循環型経済確立を目指す「新循環型経済行動計画」(2020年3月11日発表)を「欧州グリーン・ディールの中核」と位置付け、循環型経済確立への歩みを進めている(「 製品ライフサイクル全体で循環型経済を推進(EU)」参照)。

新型コロナウイルス感染拡大で足踏みも、経済活性化の起爆剤として期待

しかし、「新循環型経済行動計画」の発表に前後して、欧州各国で新型コロナウイルス感染が急速に拡大した。EUおよび欧州各国は、感染拡大防止のため、企業活動の停止を含めた人の行動制限措置、医療体制の強化やマスクなどの防護具の整備、事業停止に対する企業破綻や失業拡大を防ぐための政策実行に追われることになった。企業においても同様で、従来の企業活動を行えず、事業の停止も含めた従業員の感染防止対策、当面の資金の流動性確保などに追われた。イタリアとの協力で英国が議長国を務め、2020年11月に英国・グラスゴーで開催予定だった第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)も、新型コロナウイルス感染拡大を理由に2021年への延期が決定された。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は2020年4月10日、欧州委員会に宛てた書簡で、欧州産業界は、従来のビジネス活動ができず、雇用とサプライチェーンの維持に集中していることについて指摘。あわせて、「『欧州グリーン・ディール』のような長期的計画は、こうした十分な検討や対応がなされない状況下で拙速に構築されるべきではない」とし、影響性評価や環境関連規制策定に向けたパブリック・コンサルテーションの延期などを求めている。

ただし、欧州産業界は引き続き、循環型経済を促進していく意向を崩していない。ビジネスヨーロッパの4月10日の前出書簡でも、温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向けて循環型経済への移行に引き続きコミットしていくとした上で、「欧州グリーン・ディール」の実現は、エネルギー、環境・気候変動対策への資金を十分に確保し、経済刺激策と連動させるべきであるとしている。5月12日、ドイツ産業連盟(BDI)とイタリア経団連(Confindustria)、フランス企業運動(MEDEF)は連名で、EUレベルでの包括的な支援と出口戦略策定を求める声明を発表した。この声明の中で、各国政府とEUの関係機関に対し、「欧州グリーン・ディール」を通じて十分な予算を確保した上で、付加価値創出に向けたインフラやデジタル化などに積極的に投資を行うよう要請している。

政界も、循環型経済の実現に向けた取り組みの継続を打ち出している。欧州委員会で「欧州グリーン・ディール」を統括するフランス・ティーマーマンス上級副委員長は4月1日の声明で、COP26の延期に理解を示しつつも、EUとしての取り組みを遅延させることはないと述べた。このほか、「この危機を乗り越えるためには多くの投資が必要で、その投資先はオールドエコノミーではなく持続可能なニューエコノミーであるべきだ。さもなければ、その投資は将来的な展望を持たない無駄な投資となってしまうだろう」「欧州グリーン・ディールは危機の際に断念すべき『贅沢(ぜいたく)』ではなく、喫緊の課題である」と述べている(4月21日)。EU加盟国レベルでも、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相が5月18日にテレビ会談を実施。会談後の共同記者会見で新型コロナ危機に対する欧州再興のための仏独イニシアチブが発表された。このイニシアチブでも、デジタル化とともにグリーン化促進の加速がイニシアチブの柱の1つとして掲げられ、欧州がポスト・コロナの経済復興策として、循環型経済促進を含むグリーン化を大きな柱として重視していることが分かる。

欧州各国で進む循環型経済への取り組み

欧州の消費者は他地域以上に環境意識が高く、欧州市場では、環境負荷が小さい製品は、それが差別化につながる。逆に、環境配慮がなされていない、あるいはされていてもそれを打ち出していない製品は、競争が不利になる状況が形成されつつある。2020年3月に発表されたEUの世論調査(実施は2019年12月)によると、調査参加者の68%が自分の消費行動が欧州と世界の環境に影響を与えると回答している(図参照)。こうしたことを背景に、多くの企業あるいは業界団体が循環型経済に貢献するための取り組みを進めている。

図:アンケート設問「自分の消費行動が欧州と世界の環境に影響を与えると考えるか」に対する回答
アンケート設問「自分の消費行動が欧州と世界の環境に影響を与えると考えるか」に対する、 影響する、影響しないの回答割合はそれぞれ、 平均68%、28%、 マルタ83%、14%、 ポルトガル82%、13%、 アイルランド81%、16%、 英国80%、16%、 スペイン77%、22%、 フランス73%、23%、 スウェーデン73%、26%、 ギリシャ72%、26%、 キプロス71%、26%、 イタリア70%、25%、 デンマーク68%、30%、 オランダ67%、32%、 ハンガリー65%、32%、 スロバキア65%、25%、 ベルギー63%、35%、 ルーマニア63%、32%、 クロアチア62%、36%、 ルクセンブルク62%、32%、 フィンランド62%、36%、 ドイツ61%、35%、 スロベニア61%、39%、 オーストリア58%、40%、 ポーランド58%、36%、 ブルガリア51%、39%、 エストニア50%、44%、 リトアニア49%、45%、 ラトビア48%、48%、 チェコ43%、54%

出所:ユーロバロメーター(2019年12月調査、2020年3月発表)

欧州委員会の新循環型経済行動計画で定められた柱の1つが「持続可能な製品政策枠組み(規範としての持続可能な製品、消費者のエンパワーメント)」だ。ここで、循環型経済への移行のカギとなる分野として「バッテリーと自動車」「繊維」「包装」「プラスチック」など7分野に言及している(「製品ライフサイクル全体で循環型経済を推進(EU)」参照)。

これまでの取り組みとして、包装分野では、ドイツで2019年1月に、さらなる容器包装廃棄物の削減とリサイクル率の大幅な向上を目的に、新たな容器包装廃棄物法が施行されている。生産者(容器包装を利用する製造業者)には、リサイクル可能な包装材を利用することで、課される廃棄物回収のライセンス料が低減される金銭的インセンティブを導入。また、包装材を利用するすべての企業に対し、公的なデータベースへの登録を義務化することで監督を強化し、廃棄物回収にかかる費用を避け「ただ乗り」する事業者を排除し、公正な競争環境の確保を目指している(「循環経済に向けて廃棄物管理とプラスチック削減に取り組む(ドイツ)」参照)。

プラスチックに関する取り組みでは、フランスの取り組みが先行する。フランスでは循環経済法が2020年2月12日に施行され、2025年1月1日までにプラスチックのリサイクル率を100%にすることが目標として掲げられた。このほか、2040年までに使い捨てのプラスチック包装の市場投入(上市)を禁止する目標を設定し、プラスチックの削減を目指している(「循環経済法が2月に施行、循環経済型社会へ大きな一歩(フランス)」参照)。

また、EUの世論調査(先述)で80%が「自分の消費行動が欧州と世界の環境に影響を与える」と答えるなど、高い環境意識が確立されている英国では、メディアなどを通じた啓発活動や意識向上が進み、プラスチック梱包材のリサイクル率が上昇している。その一方で、家庭ごみのリサイクル率の低さが課題として指摘されている(「国民の分別意識が課題、廃プラリサイクルの現状(英国)」参照)。一方、英国には、2050年までに温室効果ガス純排出ゼロという目標を、世界に先駆けて法制化するなど先行する分野もある。「バッテリーと自動車」分野に関し、英国はガソリン車・ディーゼル車の新車販売を2040年までに禁止する方針を打ち出した。2018年7月にその達成に向けた戦略「ロード・トゥー・ゼロ」を発表。電気自動車(EV)などへの移行を進め、2050年までにほぼ全ての乗用車・商用車を排出ゼロとする長期目標を示した。このほか、新築住宅への充電設備設置義務付けや、高速道路などへの充電設備拡充に向けた方針も示している(「環境施策を強化、金融のグリーン化に向けた戦略も(英国)」参照)。こうした流れを受け、EV用バッテリーのリサイクルにも商機が広がっている。例えば、英国のスタートアップ、コネクテッド・エナジーはEVに使用されたバッテリーをリサイクルして作られる大型蓄電設備プロバイダーだが、日本企業がこれに投資するなどの動きがみられる。

繊維分野では、ファッション大国イタリアの取り組みを紹介する(「ファッション業界が模索するサステナビリティー(イタリア)」参照)。イタリアでは、ファッション産業を牽引する業界団体、イタリアファッション協会が、ガイドラインなどを提示し、サプライチェーン中の環境負荷低減や投入資源効率化などの取り組みを、会員企業とともに進めている。繊維分野で持続可能性をどうとらえるべきかについて解釈が多様化する中、国際的繊維展示会「ミラノウニカ」では、サステナビリティーをテーマとした企画展示が行われた。そこでは、持続可能性に向けた取り組みとして、「有害な化学物質を使用していない」「リサイクル原料が使われている」など10の項目が示された。個々の企業の取り組みが多様化する繊維企業にとって、参考基準になりそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
福井 崇泰(ふくい たかやす)
2004年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター対日ビジネス課、ジェトロ北九州、総務部広報課、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所(調査及び海外展開支援担当)等を経て現職。

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