湖北省の日系企業、中期的な事業拡大意向が4割(中国)
ビジネス環境に関する実態把握から
2022年8月17日
ジェトロでは年に数回、中国の武漢日本商工会の協力の下、湖北省進出日系企業を対象に、同省のビジネス環境に関する実態把握を行っている。今回は2022年7月1日から11日に実施、100社から回答を得た(武漢日本商工会の会員企業は160社、回答率62.5%)。本稿では、同結果を概観しながら、7月時点の同省進出日系企業の実態や事業展開の意向などを紹介する。
2022年は上海市都市封鎖など背景に、規模縮小を考える企業が4割
今回の回答企業の属性をみると、企業所在地別では武漢市が圧倒的に多く、全体の8割を占めた(図1)。業種別では製造業が67%(図2)、企業規模別では、大企業が66%を占めた(図3)。
「2022年の事業について」は、55%が「おおむね年初計画どおり」と回答した一方、「当初予定から規模を縮小」とした企業の割合は37%だった(図4)。規模縮小の背景としては、新型コロナウイルス対策に伴う上海市の都市封鎖などを要因とする「材料調達難」「生産停止」「売り上げ減少」を挙げる企業が多数見受けられた(2022年4月15日付地域・分析レポート参照)。「当初予定から規模を拡大」と回答した企業は3%にとどまった。
中期的には規模拡大を考える企業が4割
「2025年以降の中期的事業展望について」は、回答企業の41%が「現状を維持する(見込み)」、37%が「規模を拡大する(見込み)」、6%が「規模を縮小する(見込み)」と回答した(図5)。一部の地域で新型コロナウイルス感染の再拡大による厳格な防疫規制などが取られるケースもある中、自動車関連企業を主とする当地日系企業の4割以上が現状維持、4割近くが規模拡大を選択したことは、湖北省を中心とした中国ビジネスの成長に一定の自信を持っている表れと思われる。
「今後の中国事業での改善・見直しについて」(複数回答可)では、「カーボンピークアウト、カーボンニュートラルへの対応(工場のグリーン化など)」が51%となった。「工場の自動化、倉庫の自動化」(47%)、「部品や材料などの調達先のさらなる多様化」(43%)、「現地調達率のさらなる引き上げ」(42%)の回答が4割を上回ったが、上海市の都市封鎖などで受けた影響を踏まえて、各社がサプライチェーンの最適化を模索する動きが加速したと見受けられる(図6)。
自由な往来の実現が喫緊の課題
「湖北省政府、地元政府への要望」(複数回答可)については、88%の企業が「日本との定期航空便の早期再開」と回答した(図7)。武漢市と日本の間の直行便については、2020年以前は毎日定期便があったが、新型コロナ感染拡大以降、チャーター便を除いて運航していない。2022年7月現在、日本から武漢市へ移動する場合、遼寧省大連市や山東省青島市など中国の他都市を経由、もしくは香港やシンガポール、ソウルなどを経由した上で武漢市への直航便に搭乗する必要があり、コストや所要時間の増加が大きな足かせとなっている。
次いで「新型コロナ感染症対策(隔離措置など)の緩和」が8割を占めた。湖北省は中国国内でも厳格な防疫措置が適用された。2022年7月現在は緩和傾向にあり、国外から湖北省に来訪する場合も、7日間の集中隔離と3日間の健康観察が課されるのみとなったが、一部の国で入国時の隔離措置が撤廃されている状況と比較すると、依然厳しいとの見方がある。また、湖北省から他省に行く場合に48時間以内のPCR検査の陰性証明に加え、到着時のPCR検査が求められるため、省をまたぐ移動の準備は非常に煩雑だ(2022年6月9日付ビジネス短信参照)。こうした観点からも、新型コロナ関連規制の緩和を求める声は今なお根強い。
前述以外に、人件費上昇に対する支援や、就労許可・居留証、日本総領事館の設立、法規執行の透明性、現地職員確保、グリーン化補助金などに関心を示す企業が多かった。
「新型コロナ規制が緩和される場合、進めたい取り組み」(複数回答可)については、9割の企業が「国内外への出張(一時帰国含む)」、8割が「日本本社との往来再開」と回答した。また、19%の企業が「投資の拡大・多様化」を検討していると回答した(図8)。
RCEP協定利用は少数にとどまるも、関心高く
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関する設問(複数回答可)では、「RCEPを利用した輸出入を開始している」企業は13%にとどまったが、27%が「RCEPに関心はある。利用は検討している」と回答。4割超の企業が「どんなメリットがあるのか知りたい」と回答しており、湖北省の日系企業の多くがRCEPに関心を持っていることがうかがえた。一方、22%が「国内取引のみであるため関心はない」と回答している(図9)。湖北省は内陸にあるため、中国国内取引のみを行っている企業も少なくない。
新型コロナ規制の影響受けるも、今後の取り組みは総じて前向き
湖北省進出日系企業の事業展開で、2022年は上海市の都市封鎖などの影響を一定程度受けた。こうした状況にはあるが、2025年以降の中期的事業展望に対する各社回答からは、投資規模を拡大していく余地があると捉えている様子がうかがえた。また、今後の中国事業での改善・見直しについてみると、中国政府が力を入れて進めるカーボンニュートラルに向けた対応や、少子高齢化を踏まえた工場の自動化など、当地でのビジネス環境の変化を踏まえて、それらに積極的に対応する姿勢を示すものが多い。
政府への要望事項で回答企業の多くが要望として挙げた日本との直行定期便の再開や、新型コロナ規制のさらなる緩和、その他、許認可やグリーン化支援など各種ビジネス環境の改善の取り組みが進めば、日系企業は当地でのビジネスに今後さらに前向きとなることも十分考えられる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき) - 2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・武漢事務所
李 成一(り なるひ) - 2017年、ジェトロ・武漢事務所入所。事業・調査部門において、日系企業の内販拡大支援および調査、対日投資等を担当。