VNPT-IT-電子政府、教育、医療でDXに貢献
ベトナムDXのキーパーソンに聞く(1)

2021年2月22日

ベトナム政府は2020年6月、「2025年までの国家DXプログラムと2030年までの方向性」を発表。国家レベルでDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する姿勢を打ち出した。本シリーズでは、地場大手IT企業幹部や、成長著しいスタートアップ創業者などのキーパーソンへのインタビューを通じ、ベトナムでのDXの最新動向や日本企業との協業に向けたヒントを探る。

第1回は、ベトナム最大級の国有・通信事業者、ベトナム郵政通信総公社(VNPT)。そもそもは郵便・通信事業から始まった企業だ。しかし現在は、第4次産業革命の波に対応するためイノベーション創出やDXに注力している。同社が考えるグローバル戦略や日本企業との協業の狙いについて、VNPT傘下にあるIT事業会社VNPT-ITの最高経営責任者(CEO)、ゴー・ディエン・ヒー氏に聞いた(2020年12月1日)。

電子政府など規制分野で強み

質問:
最近の注力分野は。
答え:
特に力を入れているのは電子政府(e-Government)。2019年12月、行政サービスをオンライン上で提供する「国家公共サービスポータルサイト」を開設した。中央政府から地方省、村レベルに至る行政サービスが利用可能で、手続きの簡素化、不透明な手数料徴収による汚職の防止などが期待されている。また、国民を番号で識別し情報管理するシステム(日本で言うマイナンバー制度に相当)の開発を、公安省と進めている。

VNPTが開発した「国家公共サービスポータルサイト」、各種行政手続きが可能(VNPT-IT提供)
ベトナム政府が進めるスマートシティと電子政府化とは、密接な関係がある。スマートシティの開発は現在、ベトナム各地で進められている。VNPTは各業務システムを統合する「インテリジェント・オペレーション・センター(IOC)」を20以上の省・市で導入してきた。
このほか、教育や医療分野にも注力している。例えば、全国2万9,000の小中高等学校の児童・生徒、800万人の大学生が利用しているスマート教育システム「VNEDU」や、医療管理システム「VNPT HIS」などを展開。VNPT HISは、全国の6割に当たる7,000の医療機関で活用されている。

VNPTのEラーニングを受講する学生。「新型コロナ禍」でベトナムでは遠隔教育が拡大(VNPT-IT提供)
質問:
DXを進めていく上での課題は。
答え:
電子政府などの取り組みを進めていく上で、ルールが未整備であることが挙げられる。2018年、ベトナム政府はグエン・スアン・フック首相をトップとして、電子政府推進のための委員会を設立。海外の専門家を招くなどして、ルール整備を進めている。
電子政府、教育、医療など、VNPTの重点分野は規制の多い領域だ。しかし、前述の委員会にも参画するなど規制改革に向け働きかけている。特に規制改革を必要とする分野で、日本企業にとって良い協業パートナーになると言える。

先端的なAI技術で日本企業との協業を目指す

質問:
海外展開の計画は。
答え:
ベトナムでのビジネスモデルを、他のASEAN諸国で展開している。例えばミャンマーでは、地場企業との合弁で通信会社を設立した。そのほかラオスでは、電子政府関連のサービスを提供している。通信設備や教育関連製品の輸出も増えつつある。
日本市場については今後、主にAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の分野での受託開発で参入していきたい。日本において一般的なITアウトソーシング分野では、既にベトナム系のFPT(注)が優勢だ。そのため、先端的なAI技術に特化して展開する戦略を持っている。2018年には、AIエンジニア100人超からなる「VNPT Innovation Center」を設立した。安価な人件費だけでなく、確かな技術力で海外市場への拡大を狙いたい。
質問:
日本企業との協業の狙いは。
答え:
自社で経験のない新たな分野に取り組む際、他社との協業による参入が必要になる。例えば農業分野では、2019年11月、日本のオプティムとスマート農業に関する業務提携を交わした。このほか医療分野では、遠隔診療(テレヘルス)は経験がない。新型コロナウイルスの影響でニーズが高まる中、日本企業との協業が考えられる領域だ。
さかのぼれば固定電話の時代、携帯電話への移行時にも、NTTなど日本企業との連携を経験してきた(表参照)。外国企業の中でも、日本企業との協業には特に期待を寄せており、日本とベトナム、両市場での展開を目指していきたい。
表:VNPTと日本企業との協業事例
発表年月 協業先 協業内容
2019年11月 オプティム AIサービスおよびスマート農業分野における業務提携
(ベトナムにおける「OPTiM AI Camera」サービスの導入、ピンポイント農薬散布テクノロジーおよびピンポイント施肥テクノロジーを活用したスマート農業事業の展開)
2019年7月 日商エレクトロニクスベトナム(NEV)
イオンモールベトナム
ベトナム社会におけるデジタル化、ICT活用の促進に向けた協力
(VNPT、NEVによる商業分野におけるデジタルソリューションの提供、イオンモールベトナムによるデジタルマーケティング実践の場としてのショッピングモール活用機会提供)
2018年1月 NTTベトナム
NTT東日本
日本の教育ICTソリューションを使ったトライアル実施
(ハノイの私立小学校における日本式教育ICTソリューションの試験導入)

出所:各社プレスリリースよりジェトロ作成

質問:
日本企業へのメッセージは。
答え:
常に顧客への奉仕の精神を忘れず、顧客から期待され、信頼される企業を目指している。ベトナムでは、「個々だと私たちは一滴。共にあれば私たちは海」という詩が知れわたっている。VNPTと日本企業とが手を取り合い、ともに未来のDX時代を築いていきたい。

VNPT-ITCEOゴー・ディエン・ヒー氏(ジェトロ撮影)

注:
FPTは、ソフトウエアアウトソーシング事業を展開するベトナムの先進企業。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
新居 洋平(あらい ようへい)
2010年、ジェトロ入構。展示事業課、麗水博覧会チーム、ミラノ博覧会チーム、ジェトロ広島を経て、現職。

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