EU復興基金が正式に始動、共同債券の発行を全加盟国が承認
(EU)
ブリュッセル発
2021年06月02日
EU理事会(閣僚理事会)は5月31日、EU復興基金の財源となるEU名義の共同債券発行に必要な独自財源決定(2021年2月15日記事参照)の全27加盟国による批准が完了したと発表した。これによりEUは、補助金・融資を合わせて最大7,500億ユーロに上る復興基金の財源を市場から調達することが法的に可能となった。独自財源決定の規定に従い、同決定は6月1日に発効した。
EU議長国ポルトガルのアントニオ・コスタ首相は「6月1日、『次世代のEU』が始動する。全加盟国の政府と国内議会が、強い連帯と責任の意思を示した結果だ」と批准プロセスの完了を宣言し、各加盟国が復興基金の中核部分「復興レジリエンス・ファシリティー」による支援を受けるために提出した「復興レジリエンス計画」(以下、復興計画)の承認プロセスを速やかに進めるべきだと述べた。
5月末時点で22加盟国が復興計画を欧州委に提出
復興基金は、復興計画を欧州委員会が正式に受理したのち2カ月以内に審査し、EU理事会の承認を経て予算執行が可能となる。欧州委によれば、5月末時点で22加盟国(注)が復興計画を提出済みだ。提出された復興計画では、イタリア(2021年5月10日記事参照)やポーランド(2021年5月17日記事参照)などは補助金だけでなく融資も欧州委に申請しているが、フランスやドイツ(2021年5月10日記事参照)、ハンガリー(2021年5月21日記事参照)など、補助金のみを申請し、融資枠は活用しない方針の加盟国も少なくない。
復興計画では最低37%以上を気候変動対応に、最低20%以上をデジタル化対応に割り当てることが条件付けられている。フランスとドイツが復興計画の提出を共同発表した際には、同計画の中核的な要素として、水素、マイクロエレクトロニクスおよび通信技術、クラウド・データ処理の領域で「欧州の共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」を両国で立ち上げ、他の加盟国にも参加を呼び掛けるとしている。欧州委は5月に更新した新産業戦略(2021年5月7日記事参照)の中でもIPCEIの積極適用を掲げており、グリーン化・デジタル化の推進において加盟国間の連携を強化したい意向だ。
欧州委は独自財源決定の批准完了を受けて6月1日、4月に発表した資金調達戦略(2021年4月16日記事参照)をより具体化した2021年中の債券発行計画を発表。今後、6月下旬以降、4月22日に一番乗りで復興計画を提出したポルトガルを皮切りに、欧州委が各計画の審査を終え、秋以降にまず補助金部分の13%が承認プロセスを終えた加盟国に拠出されていく見込みだ。
(注)復興計画が未提出のEU加盟国は5月末時点で、ブルガリア、チェコ、エストニア、マルタ、オランダの5カ国。
(安田啓)
(EU)
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