欧州委、産業界の復興と自律性強化を目指す産業戦略の更新版発表
(EU)
ブリュッセル発
2021年05月07日
欧州委員会は5月5日、2020年のEUの新産業戦略(2020年3月16日記事参照)の更新版を公表した。この更新版は、新型コロナウイルス危機による環境変化を背景に、こうした危機からの教訓を新産業戦略に反映させるものだ。当初の新産業戦略で掲げた、気候変動やデジタル化に対応した社会への移行という優先課題を再確認しつつ、新型コロナ危機からの復興を底上げし、欧州委が推進する「開かれた戦略的自律性(open strategic autonomy)」(2021年2月9日記事参照)の強化を図る。
域内産業支援の方向性を鮮明に
今回の更新版は、新型コロナ危機などによる国際的なバリューチェーンの混乱を教訓に、戦略上懸念されるEU域外への依存に対する対応が必要だと指摘。欧州委の報告書によると、EUが輸入している5,200品目のうち、137品目を輸入依存度が高い品目として特定でき、こうした依存品目の52%は中国から、11%はベトナムから、5%はブラジルからの輸入によるとした。さらに、このうち34品目はエネルギー集約型産業に必要な原材料や医薬品の原薬などで、EU域内での多角化や代替はほとんど望めないことから、特に脆弱(ぜいじゃく)だとした。欧州委は今後、再生可能エネルギー、エネルギー備蓄、サイバーセキュリティーなどの分野における域外への依存についても分析する予定だ。また、原材料やバッテリー、原薬、水素、半導体、クラウドとその接続に必要な基地局やルーターなどの情報機器などのエッジ技術については、戦略上重要な分野として、EU加盟国や官民のパートナーと対応策の策定に向けた協議を続けるとした。
欧州委はこうした現状を踏まえ、バッテリー(2021年1月28日記事参照)、原材料(2020年10月1日記事参照)、水素(2020年7月10日記事参照)の各分野の官民協働のアライアンスを引き続き支援するとし、半導体と産業データ・エッジ・クラウドの2分野でも、2021年第2四半期(4~6月)をめどに新たなアライアンスの発足を目指すとした。また、民間の自助努力だけでは技術革新が難しい分野におけるEUの国家補助ルールの緩和策によって複数の加盟国による共同支援を可能とする「欧州の共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」の積極的な適用や、復興基金などのEU予算の活用などを戦略上重要な分野を中心に提案し、域内の産業支援の方向性を一段と鮮明にした。
このほか、欧州委は同日、EU域内市場に歪曲(わいきょく)的な効果を及ぼす外国補助金を規制する規則案(2021年5月6日記事参照)を公表。また、再生可能エネルギーやデジタル分野などにおける世界レベルの標準化の主導権を握るための戦略も、2021年第3四半期(7~9月)までに策定する予定とした。
(吉沼啓介)
(EU)
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