欧州委、EU域外国の補助金に対する規則を提案
(EU)
ブリュッセル発
2021年05月06日
欧州委員会は5月5日、EU域内市場に歪曲(わいきょく)的な効果を及ぼす外国補助金(域外国政府による資金的貢献)に対処する規則案を取りまとめ、公表した。2020年6月に欧州委が公表した、外国補助金に関する白書(2020年6月18日記事参照)を土台として法制化を進めたもの。一定規模以上の企業買収など市場シェアの拡大や公共調達への入札に対して事前の通報を義務付けるほか、欧州委の職権による調査権限を認める内容だ。
欧州委による幅広い救済措置を可能に
規則案によれば欧州委は、以下の3つの場合に、業種を問わずEU域内市場で経済活動を行う特定の企業または産業への外国補助金による影響を審査する。
(1)市場集中(concentration):被買収対象企業もしくは、合併する企業の少なくとも1社のEU域内における売上高が5億ユーロ以上、かつ域外国政府による資金的貢献が5,000万ユーロ以上の場合、買収企業は株式取得などの実行に先立ち、当該外国補助金に関し欧州委に通報する。欧州委は1次審査を25営業日以内に行い、必要な場合より詳細な2次審査を90営業日以内に行う。
(2)公共調達:EU域内で実施される、概算額で2億5,000万ユーロ以上の公共調達に入札する企業が域外国政府による資金的貢献を受けている場合、欧州委に通報する。欧州委は、1次審査を60営業日以内、2次審査を200営業日以内に行う。
(3)職権による審査:上記の基準額に満たない市場集中案件や入札参加、その他の新規および拡張投資で、外国補助金による歪曲効果が疑われる場合、欧州委は利害関係者からの通報に基づき、もしくは独自の判断で対象企業に報告を求め審査を行うことができる。
いずれの場合も、500万ユーロに満たない外国補助金は歪曲効果を及ぼさないとみなされる。審査の結果、外国補助金によるEU域内市場への歪曲効果が、投資がもたらす経済効果を上回ると判断する場合、欧州委は歪曲効果を解消するための救済措置を課すことができる。規則案では、通報された買収や公共調達での落札の禁止、資産の売却や市場における特定の行為の禁止など幅広い救済措置を可能とする。
欧州委は、特定国を標的にする意図はないとしたが、同時に公表された影響評価報告書では、中国国有企業を当事者とする複数の事例が紹介されているほか、EUの主要な貿易相手国の中で中国の補助金拠出額が突出して大きいことを挙げており、同国を意識しているのは明らかだ。また欧州委は、規則案はEUが日本や米国と3極で重ねてきた協議などを補完するもので、多国間での補助金の規律化にも引き続き取り組んでいくとしている。規則案は今後、EUの通常の立法手続きに基づき、EU理事会(閣僚理事会)および欧州議会により審議される。
(安田啓)
(EU)
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