特集:変わりゆく世界の勤務環境―アフターコロナを見据えた働き方とは新型コロナ危機でハイブリッド型労働が拡大(フランス)
労使協議で恒常的テレワークを導入する日系企業も

2022年9月8日

フランス政府は、新型コロナウイルス感染者数が減少したとして、2月2日から在宅勤務の義務化を終了〔2022年2月24日付フランス政府発表(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 〕。屋内のマスク着用義務や、テレワークを推奨する企業向けの衛生プロトコル(注1)も3月14日から適用を中止した〔労働・完全雇用・社会復帰省ウェブサイト参照(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 〕。政府は、同日以降のテレワーク実施について、状況に応じて企業が労使協議により実施条件を定めるよう求めている〔フランス政府ウェブサイト参照(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 〕。これに先立ち、テレワークに関する全国職際協定(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(349KB)(Accord National Interprofessionnel:ANI、注2)が2020年11月26日に締結されていた(2020年12月1日付ビジネス短信参照)。

新型コロナでテレワークが急速に普及

フランスでテレワークは、新型コロナウイルスのまん延により急速に普及した。専門家で構成し経済の生産性・競争力に関する政策を分析する全国生産性評議会(CNP)が5月16日に発表した「アフターコロナの生産性と競争力の分析レポート(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」によると、2019年に週1回テレワークする従業員は4%にすぎなかった。しかし、2021年11月には21%に増加。毎日テレワークした者も、6%に上った。ちなみに、従業員数250人以上の企業では、36%の従業員がテレワークを経験した。これに対し、従業員数10人未満の零細企業では9%と低かった。

「ラ・トリビュ-ン」紙の5月18日付記事によると、CNPは、テレワークが長期的にフランス企業の生産性に有益という見解を示した。新型コロナ危機の中、急速拡大したことによりGDPの低下を抑えることができただけでなく、より長い視点で効用を認めたかたちだ。同紙によると、CNPレポートの報告責任者バンサン・オシユ氏は、(1)恒常的なテレワーカーは、新型コロナ危機前に約5%にとどまっていたのに対し、20年後の2042年には25%まで増加する、(2)これにより、5~9%生産性が向上する、と見積もっている。

経営者の63%がハイブリッド型労働拡大を予測

調査会社のマラコフ・ユマニスは2021年12月、テレワークに関するアンケート調査(フランス語)を実施した。調査対象者は、451人の経営者、1,602人の従業員だ。

その結果によると、経営者の63%が、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッド型の労働が今後拡大していくとみている。同じく84%が、そうした労働形態を自社に導入することを望んでいるとした。経営者は、ハイブリッド型労働が「社会的要求に応える」(81%)もので、「従業員の生産性向上」(69%)、「労務管理方法の刷新」(67%)、「人材の確保と定着」(64%)、「欠勤の低減」(60%)につながるとみている。

一方で、ハイブリッド型の労働が可能な従業員のうち、82%がこの形態の労働を希望している。

ただし、その環境整備には課題がありそうだ。従業員の56%、経営者の80%が、現状の労働環境がハイブリッド型に十分適していないとした。従業員は、「(オフィスでの労働がさらに効率よく仕事に集中・電話できるようにするための)個別、隔離された空間」(37%)や「社交的なスペースや情報交換の場」(33%)を望んでいる。

だとしても、経営者は総じてハイブリッド型労働の導入に前向きな様子だ。「労働スペースの再編成」(80%)、「テレワークの柔軟化」(72%)について用意があるとした。さらに、労働のハイブリッド化を成功させる優先課題として、「従業員とのコミュニケーション」(49%)、「生産性の測定」(40%)、「職業上のリスク防止」(34%)、「モバイルデジタルツールへのアクセス」(33%)を挙げた。

管理職はテレワークに消極的

このように、従業員や経営者のテレワークに対する熱意は高まっている。対照的なのが、管理職だ。マラコフ・ユマニスのテレワーク調査によると、テレワーク支持率は、2019年時点で54%あった。それが、2021年末には48%に低下しているのだ。

そういう管理職も、テレワークに一定の効用は認めているようだ。テレワークは「従業員の自立性向上」「欠勤率の低下」「従業員の満足度の向上」(いずれも23%)に寄与しているという。その一方で、「交流の減少」(37%)、「チームの結束維持」「従業員のメンタルヘルス管理」の難化(それぞれ36%、34%)などの弊害含みだ。総じて、人事管理難を懸念しているようだ。 その上で、管理職の半数が、「労働のハイブリッド化が進み、労働スペースはますますフレキシブルになる」と予想している。

日系企業もハイブリッド型労働を積極導入

ジェトロ・パリ事務所は6~7月、在フランス日系企業を対象に、テレワークの現状に関してアンケート調査を実施した。

対象企業数は13社。そのうち、テレワークを実施している企業は11社に及ぶ。ただし、企業によって実施可能な日数は異なる(週1~4日)。実施していないと回答した2社は、従業員5人未満の駐在員事務所だった。製造業では、生産部門は対象外。また、「実態として、駐在員やマネジャーは毎日出勤している」と回答する企業もあった。

では、新型コロナ収束後も、恒常的にテレワーク化していくのだろうか。この点について、「労使協定によって既に導入済み」なのが4社、「導入の方向で協議または検討中」が5社、「他の欧州事務所と協議しながら、今後の働き方を検討中」が1社だった。そうではなく「導入や労使協議の予定はない」企業も3社あった。

テレワークのメリットとしては、「通勤時間の削減とプライベートの充実」「人材の確保」「災害時の事業継続」「オフィスコストの削減(通勤用車の燃料費削減を含む)」「働き方の多様化で介護、育児などが必要な者が働きやすい」などが示された。反対にデメリットとしては、「労務管理の煩雑さ(労働時間の管理、活動予定・内容の把握)」「コミュニケーションの減少」「オフィススペースの余剰感」「精神が不安定な人材のケア」「不要なビデオ会議の増加」が挙がった。

この調査では、新型コロナ危機による労働環境の変化についても聞いた。その結果、「オンライン会議が通常化」し、その帰結として「紙の使用量が大幅に削減された」「個室や会議室の増設ニーズが高まっている」とのコメントがあった。


注1:
政府は、2020年5月から企業向けガイドラインとして「衛生プロトコル」を発表。新型コロナ感染状況に応じて随時内容を変更することで、従業員の安全確保を図ってきた。
注2:
ANIは、全国・全業種を対象にして労使間で講じられた協定。その狙いはテレワークの実施を成功させ、グッドプラクティスを追求するところにある。個別企業の労使協議に向け指針を示したもの。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
奥山 直子(おくやま なおこ)
1985年からジェトロ・パリ事務所勤務。フランスの規制関連の調査を担当

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