通関手続きが迅速化・簡素化、次の課題は企業の根拠法令認知度か(インドネシア)
インドネシアの通関問題(1)

2019年8月9日

インドネシアは以前から通関手続きが煩雑で時間を要すると言われてきたが、近年、政府は通関の迅速化・簡素化に取り組み、所要時間の短縮を図ってきており(2017年4月12日付ビジネス短信参照)、在インドネシア日系企業は手続きが改善されたと認識している。

しかし、税関から原産地証明書を否認される、HSコードや関税評価額の不一致を理由に追徴課税をされる、というような通関上の問題は解決されていない。こういった問題を避けるためには、頻繁に改正される通関制度の根拠法令を企業側がしっかりと認識する必要がある。最近のインドネシアの通関問題について報告する。

日系企業も輸入通関手続の改善を実感

インドネシア政府はここ数年、輸出入を行う事業者のためにさまざまな通関便宜を供与してきている。例えば、通関優先パートナー(MITA)や認定事業者(AEO)に認定された企業は税関の審査・検査を受けず、関税の一括納付ができるなどの便宜を与えられる。近年、税関の審査・検査を受けない通関ステータス(グリーンライン、MITAライン)を与えられる輸入申告の割合が増えており、2018年には80%を超えた。その結果、通関所要日数も大幅に短縮されている。

表1:2018年度の輸入申告に占める通関ステータスの割合
通関ステータス 内容 割合
レッドライン 開披検査 13.06%
イエローライン 書類審査 5.73%
グリーンライン 審査・検査なし 65.07%
MITAライン 審査・検査なし 16.14%

出所:インドネシア財務省関税総局年報(2018年度)

表2:タンジュンプリオク港における通関ステータスごとの通関所要日数
通関ステータス 内容 通関所要日数
レッドライン 開披検査 4.4日
イエローライン 書類審査 2.6日
グリーンライン 審査・検査なし 0.000005日(約0.4秒)
MITAライン 審査・検査なし 0.0000346日(約3.0秒)

出所:インドネシア財務省関税総局年報(2018年度)

ジェトロが毎年実施している「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」で、「通関等手続きが煩雑」または「通関に時間を要する」と回答した在インドネシア日系企業は、いずれも2014年度には60%程度だったものが、2018年度には40%台に減少。また、2018年度の日系企業実態調査で、「輸入通関手続きは、迅速性(電子化含む)、簡素化、効率化の観点から過去2~3年で改善しているか」という質問に対し、「やや改善している」または「改善している」と回答した日系企業は47.9%と半数近くを占めている。これらの結果は、ここ数年のインドネシア政府による通関の迅速化・簡素化の取り組みが日系企業に認識されていることの表れといえよう。

通関制度の根拠法令が頻繁に改正

しかし、前述の調査で「通達・規則内容の周知徹底が不十分」と回答した在インドネシア日系企業の割合は、2014年度から2018年度にかけてやや減少したものの、依然として40%台を占めている。先述したMITAやAEO、保税物流センター(PLB)などの通関便宜の導入に当たり、財務大臣規定や関税総局長規定などの制定や改正は度々行われている。しかし、法制化から施行の期間が短いことから、改正そのものを知らなかったという声が企業から聞こえる。

直近の数カ月だけをみても、インドネシアの通関関連の法令改正は頻繁に行われている。2018年12月、商業大臣規定2018年第110号によって鉄鋼関連製品の輸入手続きが厳格化された(2019年1月11日付ビジネス短信参照)。1月には商業大臣規定2019年第5号でタイヤの輸入規制を改定、2月には、財務大臣規定2019年第11号によって経済連携協定(EPA)特恵関税の適用手順が一部改正された(2019年3月1日付ビジネス短信参照)。

これらの規定は、公布から極めて短期間のうちに施行されている。特に、財務大臣規定2019年第11号は2月6日に法制化、わずか2週間後の2月21日に施行された。他の関連規定をみても、おおむね法制化から1カ月以内に発効している。これでは新規定を十分に理解する時間もなく、新制度への対応が追い付かないことが大いに懸念される。

ウェブサイト検索で新規程の原文入手を

このような動きに対応するにはまず、新設または改正された通関関連の規定をいち早く把握することが必要だ。税関をはじめとする行政当局が貨物の審査・検査や徴税などの強い権限を行使するのは全て根拠法令に基づく。従って、根拠法令を読み込み、制度をしっかり理解することが通関トラブル解決に向けた重要な一歩となる。税関関連では、インドネシア関税総局(DGCE)が公式ウェブサイトで法令集のページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を開設している。また、法務人権省の公式ウェブサイトでは、全省庁の所管法令を対象とする法令検索ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が設けられている。これらのウェブサイトによって、規定の原文は容易に手に入る。

当該内容が分からなければ、税関に照会できるプラットフォームも整備されている。最近ではDGCEが「Bravo Bea Cukai外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を開設し、企業などからの通関に関する質問を一元的に受け付けている。電話またはメールで、2言語(インドネシア語、英語)で対応してくれるので、これもぜひ活用したいところだ。

そのほか、ジェトロでは、こうした制度改正の動きをフォローしており、そのポイントを概説するとともに、重要な規定については日本語訳を作成して情報発信を行っている。それらの情報を整理・発信しているインドネシアのビジネス情報ページメールマガジン(ジェトロ・ジャカルタ・ニュースレター)なども活用してほしい。

インドネシアの通関問題

  1. 通関手続きが迅速化・簡素化、次の課題は企業の根拠法令認知度か(インドネシア)
  2. インドネシアの通関制度のポイントと最新動向
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
佐々木 新平(ささき しんぺい)
1992年、旧大蔵省門司税関入関。1994年に大蔵省へ出向後、国際協力銀行マニラ駐在員(2002~2004年)、インドネシア財務省(2006~2008年)、内閣官房TPP政府対策本部(2014~2017年)などを経て、2018年から現職。

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