欧州理事会、エネルギー価格の高騰に対するさらなる対応策は示さず
(EU)
ブリュッセル発
2021年10月25日
欧州理事会(EU首脳会議)が10月21~22日、ブリュッセルで開催された。今回の欧州理事会では、新型コロナウイルス対策、デジタル化、移民政策、通商政策、対外関係などについて協議が行われたが、焦点となったのは高騰するエネルギー価格への対応策だった。
欧州ではエネルギー価格の高騰が続いており、その対応策のあり方をめぐり議論が続いている。欧州委員会は、欧州理事会の開催に先立ち、現行の法的枠組みの中で加盟国が独自に取りうる短期的な対策の提示に加え、EUレベルで検討することが可能な中期的な対策を提案(2021年10月14日記事参照)しており、今回の会合では、こうした欧州委の提案を中心に協議したものとみられる。
欧州理事会の終了後に発表された総括によると、欧州理事会は、加盟国に対して欧州委が提示した支援策を最大限活用するよう求めるにとどまり、より踏み込んだ対応策は示されなかった。また、欧州理事会は欧州委に対して、投機的な取引などの規制の必要性を評価すべく、ガス・電力市場やEU排出量取引制度(EU ETS)の市場の機能性についての調査を求めたほか、エネルギーの手頃な価格での安定した供給に向けた中長期的な対策の検討を求めた。スペインなどの一部の加盟国が求めていた、ガス備蓄の共同調達や卸電力市場の改革などの具体的な方向性は示されなかった。今回の欧州理事会では、エネルギー分野の加盟国ごとの特異性が強調されるなど、EUレベルでの対応の難しさがあらためて示される結果となった。
また、欧州委がエネルギー価格高騰の解決策として強調した、風力や太陽光発電といった再生可能エネルギーへの投資に関しては、エネルギー価格に関する将来的なリスクを考慮した上で、「エネルギーの移行」への投資を加速させるための方策の検討を、欧州投資銀行(EIB)に対して要請した。一方で、原子力や天然ガスの扱いをめぐり加盟国間で意見が割れていることもあり、投資対象にこれらのエネルギー源を含めるのか、あるいは再生可能エネルギーに限定するのかの言及はなかった。エネルギー価格の高騰への対応に関しては、10月26日に開催されるEU理事会(閣僚理事会)でも引き続き検討される予定だ。
EU域内外のさらなる移動の円滑化に向けた勧告の改正を示唆
新型コロナウイルス対策に関しては、ワクチンの接種率が低い水準で停滞している東欧諸国を中心に感染が再拡大していることを念頭に、ワクチンの接種率のより一層の引き上げが必要だとした。一方で、EU域内外のより円滑な移動を促進するためには加盟国間のさらなる調整が必要だとして、現行のEU理事会勧告(2021年5月21日記事、2021年6月15日記事参照)を改正する意向を表明した。欧州委に対しては、ワクチン接種などの証明書に関するEU共通の枠組みである「EUデジタルCOVID証明書」と域外国の発行する証明書との相互承認(2021年10月19日記事参照)に向けた作業を迅速に進めるように求めた。
(吉沼啓介)
(EU)
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