欧州委、エネルギー価格高騰に対する短中期の対応策発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年10月14日

欧州委員会は10月13日、EU域内でエネルギー価格が高騰する中で、EUと加盟国は早急に協調的対応を取るべきとして、短期・中期的な対策などをまとめた政策文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。新型コロナウイルス感染拡大により多くの家庭や企業の収入が減っており、これから本格的な冬を迎える欧州では、十分な暖房費を支払うことができないエネルギー貧困層(域内人口の約7%)を中心に、エネルギー料金の値上がりは深刻な影響を与えかねない。そこで、各加盟国はこうした層や小規模企業に焦点を当てた一時的な支援策を優先的に実施すべきだとしている。

現行の法的枠組みの中で実施可能な短期的な支援策として、欧州委が加盟国に提示する主な政策は以下のとおり。

  • バウチャーの提供やエネルギー料金の一部負担などを通じ、エネルギー貧困層に対する直接的な支援策〔財源に関しては、炭素価格の高騰で増加しているEU排出量取引制度(EU ETS)の収入も活用〕。
  • エネルギー料金の支払いが困難な家庭などを対象に、支払いの一時的な猶予やエネルギーの供給停止の回避策の実施。
  • エネルギー貧困層に対する一時的な減税策。
  • 企業や産業界向けのEU国家補助規制に合致した国家補助。

欧州グリーン・ディール推進が長期的な解決策と強調

欧州委は、電力価格の高騰の原因は天候不順による水力や風力発電の減少で電力価格が上昇することが一部あるものの、基本的には新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う天然ガスの世界的な需要増加やロシアからの天然ガスの供給不足にあるとし、一部から批判の上がっている再生可能エネルギー推進やEU ETSによる炭素価格の上昇が直接的な要因ではないと強調。むしろ、再生可能エネルギーに由来する電力価格は、化石燃料由来のものより安定的に低い水準で推移していることから、再生可能エネルギーへの移行はエネルギー供給のEU域外への依存を軽減し、将来の価格高騰に対する最大の保険になるとして、欧州グリーン・ディールを引き続き積極的に推進する考えを示した。

こうした中で、欧州委は中期的な対策として、ガスや水素市場の規制枠組みの提案や、域内に分散するガス貯蔵をより効果的に機能させるための規則改正の検討、エネルギー貯蔵の開発支援、ガス供給に伴うリスク分析と助言を地域別に行う加盟国間リスクグループの設置、ガスの予備備蓄の共同調達の検討などを進めるとした。また、加盟国に対しては、再生可能エネルギーへの投資強化とともに、その入札や許可プロセスの迅速化を求めている。

この政策文書は10月26日に臨時開催されるEU理事会(閣僚理事会)などで検討される。21、22日に開催の欧州理事会(EU首脳会議)でもエネルギー価格に関し協議する。

(吉沼啓介)

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