ウクライナは、EUに加盟できるのか
加盟国間で立場の違いをどう埋めるのかがカギ

2022年5月19日

ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月28日、EU加盟に向けた申請書に署名。EUに対してウクライナ加盟に向けた正式な手続きの即時開始を求めた。ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから5日目のことだった。3月3日には、ジョージアとモルドバも加盟を申請。ここにきて旧ソ連の元構成国からEU加盟に向けた動きが続いている。

こうした中で、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2月27日、現地メディアとのインタビューで、「(ウクライナは)われわれ欧州の一部だ。EUへの参加を望む」と発言。欧州議会は3月1日、議会本会議でのゼレンスキー大統領の演説を受けて、EU理事会(閣僚理事会)や欧州委に対して、ウクライナへの「加盟候補国」の地位付与に向けて行動を取るよう求める決議を採択した。

一方で、ウクライナへの加盟候補国地位の早期付与に否定的な見解もみられる。欧州理事会(EU首脳会議)のシャルル・ミシェル常任議長は同日、欧州議会での演説で「ウクライナに対する加盟候補国の地位付与は、EU拡大につながる難しい課題で、EU内には異なる意見がある」と述べた。さらに、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も3月11日、欧州理事会の非公式会合後の記者会見で、EU加盟プロセスが停滞している西バルカン諸国を念頭に「ウクライナだけを例外的に取り扱うことはできない」と言及した。

そこで、本稿では、まずEU加盟プロセスの基本的な手続きや加盟条件を解説しつつ、西バルカン諸国のEU加盟プロセスの現状を紹介する。その上で、ウクライナ加盟をめぐる動きとともに、加盟に向けた今後の課題や問題点を分析する。

EU加盟に求められる条件と手続きとは

EU加盟プロセスに関する最も重要な規定は、欧州連合条約(TEU)の第49条だ。TEUは、EUの基本条約の1つ。同条では、EU加盟申請の条件として、(1)欧州の国家であること(注1)、(2) TEU第2条で掲げたEU設立の基礎となる価値(注2)を尊重し、さらにこうした価値の推進にコミットする国家であること、を挙げている。加盟手続きに関しては、まず加盟を申請する国はEU理事会に加盟申請書を提出する。これを受けて、欧州委の諮問と欧州議会の単純多数決による同意の後に、EU理事会が全会一致で決定するとしている。このように、第49条には、加盟の条件と手続きについて、概要しか規定されていない。詳細は、欧州理事会での合意内容が考慮されることになる。

欧州理事会の合意として特に重要なのが、1993年にコペンハーゲン(デンマーク)で開催された欧州理事会の総括文書だ。この文書で欧州理事会は、さらなる統合深化を目指すEU体制の発足と、ソ連崩壊・東欧諸国民主化を経てEU拡大を見据えた中で、より具体的な加盟条件に合意した(一般に「コペンハーゲン基準」と呼ばれる)。この基準により、経済と政治両面で求められる条件を満たし、加盟国としての義務を履行できる国は「直ちに加盟が認められる」とした。その上で加盟条件として、(1)政治的基準、(2)経済的基準、(3)法的基準を示した。このうち(1)は、民主主義、法の支配、人権、少数者の尊重と保護を保障する安定した諸制度を意味する。 また(2)は市場経済が機能し、EU域内の単一市場や競争圧力に対応できる能力、(3)は政治、経済、通貨統合の目的の順守を含む加盟国としての義務を履行する能力とEU法の総体系(アキ・コミュノテール)を効果的に実施する能力を持つこと、とされる。また、欧州統合の深化の方向性を維持しつつ新規加盟国を受け入れる能力についても、EU側が考慮すべき要素として明記された。なお後述の西バルカン諸国に対しては、コペンハーゲン基準に加えて、EUが進める地域安定化政策「安定化・連合プロセス」の順守も求めている。より具体的には、地域内協力や良好な隣国関係、自由貿易地域の設定などを要する。この要件は、コソボ紛争などの地域紛争を受けて設けられたものだ。

加盟手続きは大きく分けて、「加盟候補国の認定」「加盟交渉」「交渉完了と加盟条約の締結」の3段階から成る。加盟手続きは、EU理事会での加盟国全会一致が原則だ。すなわち、各段階で全EU加盟国の賛成が必要になる。

(1)加盟候補国の認定

加盟を希望する国は申請書をEU理事会に提出する。EU理事会の要請に基づき、欧州委は申請国がコペンハーゲン基準を満たす能力が整っているか調査し、その結果を意見書として、EU理事会に提出する。欧州委の意見書と認定勧告を基に、EU理事会で加盟国は全会一致の決議で加盟候補国の認定を決定する。

ウクライナの加盟プロセス上、現時点で問題になっているのはこの段階だ。欧州委は今後、ウクライナに関して意見書を作成することになる。この意見書では、加盟申請国がコペンハーゲン基準を順守する能力がどの程度あるかが分析される。欧州委は、法の支配を保障する制度的な安定性など、特に政治的基準への一定程度の順守を重視すると言われる。この点に関して、加盟申請国が取り組むべき優先事項を特定する。政治的基準を中心としたコペンハーゲン基準の順守が一定の水準に達していると判断する場合、欧州委はEU理事会に対して加盟候補国の認定を勧告する。

(2)加盟交渉

加盟候補国の認定は、自動的な加盟交渉の開始を意味するわけではない。交渉開始には、認定後、さらに交渉開始条件を満たしているか、全EU加盟国の合意を得る必要がある。加盟候補国は、35章からなるEU法の総体系を全て受諾し、国内法にする必要がある。そのことから、欧州委は、加盟候補国がそのための法整備を実施済み、あるいはその計画があるかなど、加盟交渉の準備状況を各章ごとに審査する。EU加盟国の決定の下に、準備が整っている章から加盟交渉が開始される。EU加盟国と加盟候補国は、各章ごとに交渉の暫定的な完了に合意する必要がある。

(3)交渉完了と加盟条約の締結

全35章の交渉が終了し、全EU加盟国は加盟候補国が全ての加盟条件が満たしていることを承認した場合、加盟交渉は完了する。あわせて、欧州議会の同意も必要になる。

その後、全EU加盟国と加盟候補国が加盟条約に署名、批准することで加盟プロセスは完了。加盟条約に規定された日付に、正式なEU加盟国になる。

西バルカン諸国のEU加盟手続きも停滞

EU加盟プロセスは、全体的に停滞している。現在、加盟プロセスの中心となっている西バルカン諸国の場合、全ての国がEU加盟を目指しているのにもかかわらず、実現できたのはスロベニア(2004年加盟)とクロアチア(2013年加盟)に限られる。最も新しい加盟国のクロアチアの場合、2003年の申請から加盟までに10年強の時間を要した。現在進行する加盟プロセスで最も進んでいるモンテネグロ(2006年に独立)は2008年の加盟を申請。2012年に交渉が開始されているが、加盟交渉が完了したのは、35章中わずか3章にとどまる。西バルカン諸国以外では、トルコも1987年に加盟申請し、2005年に交渉が開始されている。しかし、交渉が完了しているのは1章だけで、そもそも交渉が開始されていない章も多い。いずれの国も、交渉完了からほど遠いのが現状だ。

加盟プロセスが停滞する原因の1つは、加盟申請国側の法改正や改革などの加盟準備の遅れだ。しかしそれだけではなく、既存加盟国側のEU拡大に対する消極的な姿勢や、既存加盟国と加盟申請国の2国間事情(注3)なども指摘される。前述のとおり、加盟プロセスでは、各段階での加盟国の全会一致の合意が必要だ。すなわち、1カ国でも反対すると、加盟プロセスは次の段階に進まなくなるわけだ。現に、北マケドニアは2004年に加盟申請しながら、国名問題を理由としたギリシャなどの反対にあい、2020年に至るまで交渉開始自体が決定されなかった。

表:西バルカン諸国の加盟プロセス
国名 加盟申請 加盟候補国の認定 加盟交渉開始の決定 交渉開始(最初の章)
モンテネグロ 2008年12月 2010年12月 2012年6月 2012年12月
セルビア 2009年12月 2012年3月 2013年6月 2015年12月
アルバニア 2009年4月 2014年6月 2020年3月 開始時期未定
北マケドニア 2004年3月 2005年12月 2020年3月 開始時期未定
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2016年2月 認定時期未定(現状では、潜在的加盟候補国の地位)
コソボ 申請時期未定(現状では、潜在的加盟候補国。EUの5加盟国が、コソボの独立未承認)

出所:欧州委員会資料を基に作成

ウクライナの加盟は、候補国認定段階で不透明

ウクライナのEU加盟プロセスで今後の焦点の1つになるのは、EU理事会がウクライナに対して加盟候補国の地位を付与するかだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領はEU加盟申請書で、加盟申請が「特別手続き」の下で検討されるよう、要請した。これに対し、3月11日の欧州理事会にて採択されたベルサイユ宣言によると、EU理事会は既に「迅速に」対応し、欧州委に対して意見書の提出を求めた。欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は4月8日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)で、ゼレンスキー大統領と会談。意見書作成に向け、質問状を手交した。その上で、ウクライナの加盟プロセスをできる限り加速させるとした。その際、「通常は数年かけて作成する意見書を、今回は数週間で作成する」と発言。これを受けてゼレンスキー大統領は、それからわずか10日後の4月18日、質問状の一部に回答。5月9日には、残りの部分も回答し、欧州委に提出したと発表した。

これは、西バルカン諸国の加盟プロセスと比べて、異例とも言える早さだ。なお、加盟プロセスには、各段階の時間的な目安や期限などは一切設定されていない。また、加盟プロセスを規定するTEU第49条にも、「特別手続き」や「ファストトラック」に関する言及はない。その理由は、加盟プロセスが高度に政治的な手続きだからだ。加盟国の一致した対応によっては、柔軟な対応を可能にしているとも考えられる。裏を返すと、ウクライナの加盟プロセスを、全加盟国が今後を通じて一致して進めることができるかは不透明と言える。

ポーランドを筆頭に中・東欧の8加盟国は、ウクライナに対して加盟候補国としての地位を即時付与し、加盟交渉を開始することを求めている。一方で、オランダやフランスなど、西欧の加盟国は、ウクライナ加盟プロセスの早急な展開には消極的だ。これら西欧の加盟国は、ウクライナが政治的基準などのコペンハーゲン基準で加盟候補国となるに十分なレベルに達しているのか疑問視していると指摘されている。ロシアからの長期的な地政学上の影響も懸念しているともみられる。また、フランスはかねて、EUのさらなる拡大にはEUの制度改革が必要との立場をとる。これは、加盟プロセスにおいて、コペンハーゲン基準だけでなく、EU側の「新規加盟国を受け入れる能力」を重視するものだ。と言うのも、EUでは、加盟国拡大を含む重要分野に関しては、加盟国の全会一致が必要とされるからだ(注4)。すなわち、事実上の拒否権が各加盟国に認められているとことになる。軽々に加盟国を増やすと、一部加盟国の反対によりEU全体の政策停滞を招く事態が頻発しかねない。加盟候補国の早期の新規加盟に懐疑的な加盟国は、EUの意思決定プロセスの課題を修正しないまま加盟国を増やすと、問題が一層深刻化することを危惧しているわけだ(注5)。

3月11日の欧州理事会で採択されたベルサイユ宣言でも、ウクライナのEU加盟や加盟に関する規定であるTEU第49条は明記されなかった。ウクライナは「われわれ欧州の家族」の一員とし、「パートナーシップ」を強化するとしながらも、ウクライナの加盟に関する方向性で、全加盟国が一致できていないことがうかがわれる。新規加盟プロセスには、既存加盟国の全会一致の合意が常に必要になる。こうした加盟国間の立場の相違は、加盟プロセス全体を通じて不安定要素として付きまとうとみられる。

それだけに、ウクライナが加盟候補国の認定を受けた場合、その象徴的な意味合いは大きいだろう(注6)。ウクライナはこれまでも、EU加盟に向けた明確な方向性をEU側に求めてきた。にもかかわらず、EUは十分にこれに応えてこなかったとされる。これは、西バルカン諸国の場合と比べても対照的だ。西バルカン諸国には、EU加盟国は2003年のテッサロニキ宣言で、当時の全ての独立国を「潜在的加盟候補国」として扱うとし、EU加盟の方向性を明確に示したと解釈できる。その一方で、ウクライナに対しては、2014年に署名されたEUウクライナ連合協定で、TEU第49条自体や加盟については明記しなかった(注7)。よって、EU理事会がウクライナを加盟候補国として認定する場合、それはEUがウクライナのEU加盟という方向性を正式に認めたということであり、ウクライナにとっては、EU加盟に向けた大きな一歩になる。

EUはウクライナと関係強化の見込み

これまでの考察を踏まえると、ウクライナ加盟プロセスの展望を予測するのは容易でない。加盟候補国の認定に当たっては、ウクライナ側が進める加盟準備の進捗もさることながら、加盟国の立場の違いをどこまで早期に埋めることができるのか、EUとしての政治的な意思が問われている。欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は、6月にも意見書を提出すると述べており、6月23~24日に開催が予定されている欧州理事会で、ウクライナが加盟候補国として認定されるかが、今後の焦点になるとみられる。ただ仮に、全加盟国がウクライナに対する加盟候補国の認定で一致できたとしても、直ちに加盟交渉を開始できることを意味するわけではない。また、交渉開始後も加盟までに何年にも及ぶ長期的な加盟交渉が予想される。こうしてみると、西バルカンの加盟候補国と同様に、候補国認定によって加盟への具体的な道筋がつくとは言い難い。しかし、今回のウクライナ情勢を受けて、EU加盟の是非を抜きにすると、全加盟国はウクライナ支持で一致している。その表れの1つが、EUがロシアに科した史上最大規模の制裁だ。全加盟国がウクライナに対する加盟候補国の認定で合意できるかは、依然、不確実な部分が多いが、いずれにせよEUのウクライナ支援は既定路線であり、EUはウクライナとの関係強化の動きを今後一層加速させるとみられる。


注1:
ただし、TEU第49条で規定されるEU加盟条件である「欧州国家」に関して、「欧州」の地理的な境界線が定義されているわけではない。
注2:
TEU第2条では、EU設立の基礎となる価値として、自由、民主主義、平等、法の支配、基本的人権の尊重が掲げられている。
注3:
既存加盟国と加盟申請国に発生した軋轢(あつれき)の例としては、(1)ギリシャと北マケドニア間の国名問題や、(2)ブルガリアと北マケドニアの言語・歴史などの問題などがある。ちなみに、(1)に関しては2019年に解決した。
注4:
EUで加盟国の全会一致が必要とされる重要分野は、共通外交安全保障政策(CFSP)、中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)、EUの拡大など。ただし、2009年に発効した現行のEU基本条約「リスボン条約」に基づき、多くの立法分野では特定多数決が採用されている。
注5:
経済政策を専門とするブリュッセルのシンクタンク「Bruegel」3月15日付記事参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注6:
EU政策を専門とするブリュッセルのシンクタンク「欧州政策センター(EPC)」3月14日付レポート参照PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.16MB)
注7:
ただし、 EUウクライナ連合協定では、「ウクライナは欧州の国家であり、自由、民主主義、平等、法の支配、基本的人権の尊重といった加盟国と共通の価値を共有し、かつ、こうした価値の推進にコミットする国家」であるとは規定した。すなわち、大枠としては、ウクライナがTEU第49条に示す要件に沿っていると認めている。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
吉沼 啓介(よしぬま けいすけ)
2020年、ジェトロ入構。

ご質問・お問い合わせ