欧州委、2024年からの財政再建を加盟国に求める、エネルギー価格支援は停止へ
(EU)
ブリュッセル発
2023年03月10日
欧州委員会は3月8日、2024年の財政政策ガイダンスに関する政策文書を発表した(プレスリリース)。最新の冬季経済予測(2023年2月15日記事参照)によると、EU経済は前回の秋季経済予測(2022年11月18日記事参照)以上に健全な状態で2023年を迎えており、景気後退局面を脱することができるとしている。そこで、欧州委はこの政策文書で、EU加盟国が策定する2024年の財政政策に関して、EU理事会(閣僚理事会)で審議中の財政規律改革の方向性(2022年11月10日記事参照)を先取りし、持続可能な成長に向けて公共投資を続ける一方で、中期的な計画に沿った財政健全化にかじを切るべきとしている。
EUは加盟国に対する財政規律要件として、(1)予算年次ごとの財政赤字をGDP比3%以内に抑えること、(2)債務残高がGDP比60%を超えないことを定め、60%を超える部分については、毎年5%を削減し、債務残高を20年間でGDP比60%の水準に戻すことを求める債務残高削減基準を導入している。2020年3月以降は、新型コロナウイルス感染拡大と、ロシアによるウクライナ侵攻やそれに伴うエネルギー価格の高騰に対処すべく、財政規律要件の適用を一時的に停止。加盟国は家庭や企業向けに大規模な財政支援を実施している。一方で、こうした支援はEUの年間GDPの約1.2%相当に達するなど、加盟国の財政上の大きな負担となっている。こうした中で、欧州委は、冬季経済予測や昨今のエネルギー価格の落ち着きを踏まえ、財政規律要件の適用を2024年初から再開する方針をあらためて強調。広範囲にわたるエネルギー価格対策としての財政支援を恒久的に続けることはできないとして、財政健全化に向けて、脆弱(ぜいじゃく)な家庭や企業向けに限定した支援などを除き、財政支援を段階的に終了させるべきとしている。
具体的には、加盟国に対して、2024年の財政政策で財政規律要件(1)の順守を求めており、過剰な財政赤字を是正する手続きも、2023年の数値を基に2024年春から再開させる方針を示した。一方で、財政規律要件(2)に関しては、債務残高がGDP比で60%を超える加盟国に対して、継続的な債務削減への転換、あるいは債務残高の堅実な水準の維持を求めるものの、年間5%削減という基準への言及はなかった。
また、今回の政策文書は2024年の財政政策に関して、現行の財政枠組みの適用を前提としつつ、欧州委が2022年11月に発表した財政規律改革の方向性を踏まえるように、加盟国に求めている。ポストコロナやロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)を踏まえて、現行の財政枠組みのみを適用するのは適切でないと指摘。持続可能な成長に向けたグリーンやデジタル分野への公共投資を重視し、こうした公共投資の削減ではなく、歳出拡大の制限を通じて、財政健全化を実現すべきとしている。
財政規律改革の方向性について、欧州委は、EU理事会での協議がまとまりつつあるとして、3月14日の経済・財務相(ECOFIN)理事会で一定の合意を得た上で、3月23~24日の欧州理事会(EU首脳会議)後に法案として正式に提案予定だ。
(吉沼啓介)
(EU)
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