欧州委、加盟国の柔軟な財政健全化策に基づく財政規律改革の方向性示す
(EU)
ブリュッセル発
2022年11月10日
欧州委員会は11月9日、EUの財政規律改革における欧州委の方向性を示す政策文書を発表した(プレスリリース)。新型コロナウイルス対策の財政出動によって政府債務残高が2021年にはEU全体でGDP比92%となるなど大幅に増加した。そのため、持続可能な財務政策に向けて債務残高の削減が重要な一方、経済成長や欧州デジタル化、欧州グリーン・ディール、ロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」といったEUの優先課題の実現に向けた投資や改革を引き続き実施する必要もある。そこで、欧州委は、現行の財政規律要件を維持した上で、全EU加盟国に一律に課する債務残高の削減基準を変更し、加盟国による財政健全化に向けたより柔軟な対応を可能にする、加盟国の債務残高の水準に応じて削減基準を課す枠組みを導入すべきとしている。
EUは、加盟国に対する財政規律要件として、(1)予算年次ごとの財政赤字をGDP比3%以内に抑えること、(2)債務残高がGDP比60%を超えないことを定めている。また、2007年後半からの金融危機を契機に財政規律を強化。債務残高がGDP比で60%を超える部分につき、毎年5%を削減し、債務残高を20年間でGDP比60%の水準に戻すことを求める債務残高削減基準を導入した。2020年3月以降は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、財政規律要件の適用を一時的に停止。この措置は2024年まで延長される見込みなものの、現状では多くの加盟国の債務残高がGDP比で60~90%の水準にあり、一部の加盟国では150%を超えている。こうした中で、欧州委は、加盟国への債務残高削減基準の一律適用は加盟国の財政政策に過剰な負担をかけるとともに、経済成長への悪影響が大きいとして、リスクに基づく監視枠組みの導入を提案している。
この枠組みでは、まず欧州委が加盟国ごとに歳出を調整する道筋を設定。GDP比で債務残高が特に多い加盟国に対しては、少なくとも4年間にわたる調整期間の終了までに、向こう10年間の債務削減の軌道で債務残高を継続的かつ妥当なレベルで減少させることを求める。また、債務残高が中程度に多い加盟国に対しては、調整期間の終了からさらに最大で3年間の猶予期間を認め、猶予期間の終了までに、向こう10年間の債務削減の軌道で債務残高を継続的かつ妥当なレベルで減少させることを求める。いずれの場合も、加盟国は財政健全化やEUの優先課題に資する投資や改革を推進することで、調整期間を最大3年間延長することができる。
財政規律の実施プロセスに関しては、加盟国は、欧州委が設定した道筋に基づき、財政政策や改革投資案を含む中期財政構造計画を策定する。欧州委は、加盟国が独自に同計画を策定することで、政策設計やその結果に関して加盟国の自律性を高めることができるとしている。欧州委は各加盟国の中期財政構造計画を審査し、その審査結果に基づいてEU理事会(閣僚理事会)が同計画を承認する。加盟国は調整期間中、同計画に沿った国家予算の編成が求められ、原則として4年間は同計画を改定することができない。また、加盟国は同計画の実施状況を毎年報告することが求められ、国家予算が同計画で承認された歳出額を超えた場合、過剰財政赤字是正手続きが発動され、加盟国が効果的な是正措置を講じない場合は、財政上の制裁措置が科される。
欧州委は、今回の政策文書に基づく法案の提案を検討しており、2024年度の加盟国予算の編成前に、財政規律改革に関して、加盟国間で合意形成をすべきとしている。
(吉沼啓介)
(EU)
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