EU、炭素国境調整メカニズム(CBAM)設置規則案で政治合意、水素も適用対象に
(EU)
ブリュッセル発
2022年12月14日
EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月13日、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)の設置に関する規則案に関して、関連法案との兼ね合いから条件付きであるものの、暫定的な政治合意に達したと発表した(EU理事会プレスリリース)。
CBAMとは、EUが、EU排出量取引制度(EU ETS)などの温室効果ガス削減規制を強化する中で、いわゆるカーボンリーゲージ(規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸入増加)対策として、EU域内の事業者がCBAMの対象となる製品を域外から輸入する際に、域内で製造した場合にEU ETSに基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるものだ。
欧州委員会は2021年7月に、CBAM設置規則案(2021年7月16日記事参照)を発表。EU理事会は2022年3月に、欧州議会も2022年6月に(2022年6月27日記事参照)、それぞれ立場(position)を採択し、両機関による交渉が進められていた。EU ETSの改正案(2021年7月16日記事参照)において提案されている、無償割当の段階的廃止と同時に実施される予定である、CBAM対象製品を輸入する際の炭素価格の支払いの開始時期など、CBAM設置規則案は一部確定していない部分もあるものの、規則案は両機関による正式な採択を経て、2023年10月から移行期間として対象製品を輸入する事業者に対する報告義務が適用される見込み。なお、今回合意された規則案のテキストは2022年12月13日時点で未発表だ。
適用範囲を拡大、水素や間接排出も対象に
今回の政治合意において最も注目すべきは、規則案の適用範囲の拡大だ。欧州委案では、規則案の適用される製品に関して、特にカーボンリーゲージのリスクが高いセメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力としていたが、今回の政治合意では、欧州議会の要求に応じて、これらの製品に加えて、水素が新たに加えられた。EUでは、電化が難しいセクターにおける脱炭素化に向けたエネルギー源として水素を重視しており、欧州委は2022年5月に発表したロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年5月20日記事参照)において、域外からの水素の輸入量を2030年までに年間約1,000万トンにまで引き上げるとしていることから、影響は大きいとみられる。
また水素のほかに、塊成化された鉄鋼石、フェロマンガン、フェロクロム、フェロニッケルなどの前駆体材料の一部や、鉄・鉄鋼製のねじやボルトなどの対象製品を原料とした製品の一部も、新たに対象に加えられた。さらに、欧州委案では対象製品の生産時に排出される温室効果ガス(直接排出)を適用対象としていたが、今回の合意では、直接排出に加えて、対象製品の生産に使用される電気などの生産時に排出される温室効果ガス(間接排出)も、特定の条件の下で適用対象とするとしている。
このほかに、欧州委は、欧州議会が求めていた有機化学品やポリマーなどを今後、対象範囲に含めるかを、移行期間が終了する2025年末までに検討することも確認された。
(吉沼啓介)
(EU)
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