欧州委、排出量取引制度(ETS)改正案を発表、道路輸送や建物も対象に

(EU)

ブリュッセル発

2021年07月16日

欧州委員会は7月14日、2030年の温室効果ガス削減目標である1990年比で最低55%削減に向けた政策パッケージ「Fit for 55外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2021年7月15日記事参照)の一環として、EU排出量取引制度(EU ETS)の改正指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と、航空業界へのEU ETS適用を改正する指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。この改正案は、2021年からフェーズ4に移行した現行のEU ETSで、削減目標が1990年比で最低40%となっていることから、これを同55%に引き上げるものだ。主な改正点は、毎年の排出上限の削減率の引き上げや、現行EU ETSの適用対象である欧州経済領域(EEA)内の航空便に対する無償割り当ての段階的廃止など、現行のEU ETSの対象分野での削減強化と、現行のEU ETSで対象になっていない分野への適用拡大だ。

毎年の排出上限の削減率を約2倍に

まず、現行EU ETSの適用対象となっている分野(火力発電などの発電、鉄鋼・セメント・石油精製などのエネルギー多消費産業、EEA内の航空便など)に関しては、毎年の排出上限の削減率を現行の2.2%から4.2%に引き上げる。また、2021年から今回の改正案の施行までの削減率も4.2%とし、施行時に当該削減分を一括適用する。無償割り当てに関しては、当面は現状を維持する。ただし、無償割り当てを受けるために必要な削減要件を厳格化するほか、炭素国境調整メカニズム(CBAM、2021年7月16日記事参照)が導入された場合には、CBAMの適用分野に対する無償割り当てを2026年から10年間、段階的に削減、廃止する。EEA内(注)の航空便に関しては、排出上限の削減率の引き上げに加えて、無償割り当ても2024年から段階的に削減し、2027年からオークション方式の有償割当に完全に移行する。

適用分野を海運、道路輸送、建物に拡大

また、今回の改正案では、新たに海運、道路輸送、建物にも適用を拡大する。海運に関しては、大型船舶(総トン数5,000トン以上)に対して、旗国にかかわらず、現行のEU ETSを2023年~2025年までの段階適用を経て、2026年から完全適用する。EU域内の港湾間を運行する場合とEU域内の港湾での停泊時は全排出量が、EU域内と域外の港湾間を運行する場合とEU域内の港湾での停泊時は排出量の50%が適用の対象となる。ガソリン車などの道路輸送と化石燃料を用いた暖房を利用する住宅などの建物に関しては、現行のEU ETSとは別の取引制度を設置し、燃料の供給業者を対象とし、2026年から本格適用を開始する。さらに、EEA内外間の航空便に関しても、EU域内を拠点とする航空会社を対象に、国際民間航空機関(ICAO)が採択した「国際民間航空のためのカーボン・オフセットと削減スキーム(CORSIA)」の運用を開始する。

今回の改正案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(注)EEA内を離着陸する航空便と、EEA発スイス・英国着の航空便が対象。

(吉沼啓介)

(EU)

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