欧州委、ロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」の詳細発表
(EU、ロシア)
ブリュッセル発
2022年05月20日
欧州委員会は5月18日、ロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」の詳細に関する政策文書と関連改正法案を発表(プレスリリース)した。欧州委は3月、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア産化石燃料への依存を2022年末までに大幅に低下させ、2030年よりも早い段階で脱却を目指すリパワーEUの概要(2022年3月11日記事参照)を発表。今回発表した詳細では、再生可能エネルギーへの迅速な移行により脱却を実現できるとして、2030年の温室効果ガス削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」(2021年7月15日記事参照、2021年12月16日記事参照)を土台とした上で、以下の追加政策を示した。
省エネ:欧州委は、天然ガスや石油需要の5%減に向けた短期的な行動変容の促進策と、中長期的な効率化策に関する政策文書「EU省エネルギー」を発表。また、Fit for 55の一部として提案したエネルギー効率化指令案(2021年7月20日記事参照)における2030年までの効率化目標について、2020年比で9%から13%への引き上げを提案した。
エネルギー供給の多角化:欧州委は天然ガスなどのエネルギー輸入元の多角化と、供給国とのパートナーシップ構築に向けたEU対外エネルギー戦略を発表。また、加盟国によるエネルギー輸入の際に加盟国間の調整を実施する「EUエネルギープラットフォーム」を設置した。今後、自主的に参加する加盟国を代表して、欧州委が輸入交渉・契約を直接実施する「共同購入メカニズム」の設置を検討する(2022年3月24日記事参照)。
再生可能エネルギーへの移行の加速:まず、Fit for 55の一部である再生可能エネルギー指令案における2030年のエネルギーミックスに占める再エネ比率目標について、40%から45%への引き上げを提案。具体策としては、迅速な展開が可能な技術の1つとして太陽光発電(PV)を強化するEU太陽光戦略を発表。現在の2倍以上となる320ギガワット(GW)以上のPVを2025年までに新設。2030年までに約600GW分の新設を目指す。再生可能エネルギーを用いた水素の大規模展開も重視するとして、2030年までの域内生産目標を、現行目標の約2倍となる年間約1,000万トンに引き上げるとともに、同量を域外から輸入するとしている(2022年5月9日記事参照)。また、2030年までに350億立法メートル分の持続可能なメタンガスの生産を目指すメタンガス行動計画も発表した。
欧州委は、リパワーEUの目標達成のためには、Fit for 55の実現に必要な投資に加えて、2027年までに2,100億ユーロの追加投資が必要と試算。財源としては主に、復興基金の中核政策「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(2021年2月15日記事参照)を挙げた。RRFは返済不要の補助金と融資からなるが、2,250億ユーロ分の融資枠がまだ残っているとして、加盟国は新たな融資を申請できるとした。また、RRF枠内での補助金の200億ユーロ増額や、他のEU予算からの組み換えにより、融資分と合わせて全体で約3,000億ユーロの資金投入が可能としている。欧州委はRRFの改正案を示しており、加盟国に対して、リパワーEUの目標に合わせた改革案と投資計画を国別復興計画に組み込むことを求める方針としている。
(吉沼啓介)
(EU、ロシア)
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