裁判所が電力産業法改正の適用を暫定的に差し止め
(メキシコ)
メキシコ発
2021年03月15日
メキシコのフアン・パブロ・ゴメス・フィエロ経済競争・放送・通信行政担当第2連邦裁判官は3月10日、前日に公布された電力産業法の改正(2021年2月3日記事、2月25日記事、3月4日記事、3月11日記事参照)の適用を、暫定的に差し止めることをエネルギー省に命じた。
ジェトロが法律関係者から入手した公文書によると、同命令は風力発電事業者2社から提訴された庇護(ひご)訴訟(アンパロ、注)を受けたもので、公布された電力産業法の改正が憲法第25、27、28条に違反する可能性があり、自由競争に関する基本的権利を侵害し、電力の消費者にも悪影響を与えうるとし、法改正の適用を当面の間差し止めることを命じている。また、3月18日に公聴会を開くことを決定し、行政府と民間事業者の双方の主張や論拠を集めた上で、差し止めを最終的に決断する。アンパロでは、提訴した者にしか差し止め効果が及ばない場合もあるが、今回は、市場における競争条件を平等にする目的の下、全ての関係者に対して差し止めの効力が認められる。
今回の決定に対し、行政府は強い不満を表明している。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は3月12日の早朝記者会見において、裁判官が国のためではなく私企業に利する決定をしていると批判し、最高裁で合憲性を争うとともに、裁判官の働きを監視する権限がある連邦司法審議会に対し、決定を下した裁判官の行いを調査するよう要請すると語った(主要各紙3月12日)。他方、全国高等管区裁判官・初等地区裁判官組合は大統領の批判に対し、裁判官の唯一の責務は憲法を守ることで、実効的な法の支配を保障するための独立性を確保することだと反論している(「レフォルマ」紙電子版3月12日)。
最終的には最高裁の判断に
アンパロで暫定差し止めが行われた場合、公聴会を開いた後、最終的な差し止め命令を出すかどうかを決定し、その後もう一度公聴会を開いて対象行為(法律など)の合憲性についての判決を出す。しかし、行政府は最高裁で合憲性を争う憲法訴訟を提訴することができるため、最高裁の判断で合憲とされれば、それまでの差し止め命令は無効になる。従って、アンパロで差し止めが確定したとしても、最高裁における審理の行方に注目する必要がある。
国際商業会議所(ICC)メキシコ委員会のクラウス・フォン・ウォベサー(Claus von Wobeser)会長は、仮に憲法訴訟で法改正が合憲と判断された場合、次は国際仲裁が数多く提起されることになり、投資家に対するメキシコ政府の賠償額の支払いは、メキシコ新国際空港(NAIM)の建設中止(2018年11月1日記事参照)に伴い発生した賠償額よりもはるかに大きな額になるだろうと指摘している。
(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めを求める裁判制度。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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