大統領が電力産業法改正法案を国会提出、電力庁による発電を優先
(メキシコ)
メキシコ発
2021年02月03日
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は2月1日、連邦下院に電力産業法の改正法案を提出した。行政府が提出した優先法案であるため、国会は30日以内で審議を終わらせる必要がある。法案の内容は、主に以下の5つで、電力市場における電力庁(CFE)のプレゼンスを強化する目的がある。
- 電力事業法による許認可付与はエネルギー省が定める国家電力系統(SEN)の計画指針に従う
- クリーンエネルギー証明書(CEL)を発電所の所有者や操業開始日にかかわらず付与
- 電力基礎サービス供給業者(CFE‐SB)の競売制度による電力調達義務を廃止
- 法律を順守していない自家発電事業に対するエネルギー規制委員会(CRE)による許認可の取り消し
- CFEが独立発電事業者(IPP)との間で締結している電力調達契約の合法性と収益性の精査
法案に記載した目的によると、1.は、発電事業の経済性のみならず、エネルギー省の指針に沿っているかどうかが許認可付与に影響するよう法改正する。これにより、公共電力調達源として、優先順位の第1にCFEの水力発電、第2にCFEのその他の発電、第3にCFEと契約したIPPの発電、第4に民間再生可能エネルギー発電、第5に民間天然ガス・コンバインドサイクル発電という順位をつけ、CREによる発電事業許可付与に反映させる狙いがある。2.は2013年末の憲法改正と2014年8月公布の電力産業法によるエネルギー改革で導入されたCEL(地域・分析レポート2017年12月25日参照)を改革以前に操業していたCFEの発電所にも付与する目的。3.は競売制度や電力卸売市場以外の電力調達方法をCFEに与える。大統領は、エネルギー改革が民間企業にのみ利する内容になっており、民間企業が法律を乱用することにより、CFEが不当に高い電力を買わされていると主張しているが、法案の中にそれを裏付けるデータは一切ない。CREの公開データによると事実は全く反対になっており、最も発電コストが高いのはCFEの発電所であり、CFE‐SBが調達している最も安価な電力は、民間の再生可能エネルギー発電所から長期電力競売を通じて調達している電力である(地域・分析レポート2020年3月24日参照)。
憲法や国際協定に違反するとの声も
今回の電力産業法改正案には、AMLO大統領の国営企業を重視するエネルギー政策(2020年9月29日記事参照)による数々の規則変更が今まで法改正を伴っていなかったために、裁判で民間発電事業者に相次いで敗訴してきたことから、法律を改正することで政策を実現する狙いがあるとみられる。しかし、現行メキシコ憲法は電力政策の立案や公共送配電事業を国家独占としながらも、発電事業は民間に開放している。民間事業者を発電事業で差別することは、憲法第28条が定める独占禁止や自由競争の原則に反するという見解もある。野党・制度的革命党(PRI)は、法案が成立した場合は直ちに憲法訴訟を提起するとしている(「レフォルマ」紙2月2日)。また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)や、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の投資の章や国有企業の章に違反するとの声もあり、米国企業やカナダ企業の投資もあることから、投資家対国の紛争解決(ISDS)のメカニズムで争われる可能性もある。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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