上院が電力産業法改正法案を可決、野党は共同で違憲提訴へ
(メキシコ)
メキシコ発
2021年03月04日
メキシコ政府が国会に提出し、2月24日未明に下院を通過した電力産業法改正法案(2021年2月3日記事、2021年2月25日記事参照)が3月3日未明に上院を通過し、公布のために行政府に送付された。全ての野党に加え、与党・国家再生運動(Morena)の議員1人が反対票を投じたが、連立与党のその他の議員は賛成し、賛成68、反対58で可決された。下院からの送付法案に上院は修正を一切加えることなく、また、野党や経済界が要請していた公聴会を開くこともなく、管轄する3委員会で法案の承認を済ませた後、直ちに本会議を開催して強行採決した。
上院で十分な審議時間も確保せずに採決したことに対して、野党は強い不満を示し、国民行動党(PAN)や制度的革命党(PRI)、市民行動党(MC)、民主革命党(PRD)の野党4党が共同で、最高裁判所に憲法訴訟を提訴するとしている(3月3日付主要各紙)。
経済界も相次いで訴訟意思を表明
日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)のカルロス・サラサール会長は3月3日、CCEが開催した「メキシコの未来のための電力」と題したオンラインフォーラムで、国にとってより良い決定を導くために民間部門の意見が全く考慮されず、議論を提起する機会も与えられなかったことに強い遺憾の意を表し、国の将来のために多額の投資を行った投資家としては、何らかの防衛措置を取らざるを得ないとして、各企業がアンパロ訴訟(注)など必要な法的手段を講じる可能性を示唆した。北部の重要な工業州であるヌエボレオン州の製造業会議所(CAINTRA)のアドリアン・サダ・クエバ会頭も、同法改正により産業用電力価格が大きく上昇することを想定し、電力の大口利用者である製造企業による訴訟が連邦政府を襲うだろうとし、会議所に加入する中小企業に対し、司法に訴えるためのアドバイスを行うことを明らかにしている(3月3日付主要各紙)。
国会を通過した電力産業法の改正は、2月3日に最高裁判所第2小法廷の違憲判決が出た2020年5月15日付エネルギー省令に基づく「国家電力系統(SEN)の信頼性・安全性・継続性・品質に関する政策」の内容(2020年5月18日、2021年2月8日記事参照)に似ているが、野党や連邦経済競争委員会(COFECE)により今回の改正についての憲法訴訟が提訴された場合に、同様に違憲とされるかどうかは確実ではない。前述のエネルギー省令は最高裁判所の第2小法廷で5人の裁判官が審理したが、立法府が定めた法律に関する違憲判決の場合、審理は大法廷で11人の裁判官による審理となり、8人以上の同意を得なければならない。現政権下で大統領の指名により就任した裁判官が複数いるため、違憲判決が出るかどうかは予断を許さないという声もある。
(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めを求める裁判制度。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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