電力産業法改正を公布、国内外で多くの訴訟の見込み

(メキシコ)

メキシコ発

2021年03月11日

メキシコ政府は3月9日、夕刻の官報で電力産業法の改正(2021年2月3日記事2月25日記事3月4日記事参照)を公布し、翌10日に施行した。改正施行令の付則3条に基づき、エネルギー規制庁(CRE)、国家エネルギー管理センター(CENACE)は180日以内に、電力市場に関連する細則、決定、指針、マニュアルなどを今回の法改正に合わせるよう変更することになる。

日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)のカルロス・サラサール会長は、3月10日早朝の大手テレビ局のニュース番組において、本改正で電力庁(CFE)の非効率な発電所の電力が優先されるため、電力コストが年間合計600億ペソ(約3,120億円、1ペソ=約5.2円)上昇するとし、産業用電力価格の上昇に加え、家庭用電力価格を低く抑えるための政府の補助金が増大することになり、国の将来にとって大きな害をもたらすと警告した。電力市場に投資を行った民間企業としては防衛措置をとらざるを得ないとし、各企業が司法に訴えることになるとコメントした。

国際仲裁による賠償責任は700億ドルに及ぶという試算も

メキシコ工業会議所連合会(CONCAMIN)は3月10日、電力産業法改正に関するビデオ会議を開催した。その中でCONCAMINエネルギー委員会のレグロ・サリーナス委員長は、改正法施行後、民間事業者からの庇護(ひご)訴訟(アンパロ、注)が相次ぐだろうと警告している(「レフォルマ」紙電子版3月10日)。憲法第103条および107条施行法(通称、アンパロ法)によると、国民や企業の権利を侵害する法律の差し止めを求める場合、発効から30歴日以内、あるいは、法律施行による最初の侵害行為から15歴日以内に訴訟を提起する必要がある。サリーナス委員長はさらに、野党議員が最高裁に憲法訴訟を提起することも予定されているとしている。

外国企業が多く参画する、発電事業投資に関連するルール変更の遡及(そきゅう)適用は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)や環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)など、メキシコが締結する数多くの貿易協定や投資保護協定に違反するとみられており、CONCAMIN経済調査委員会のホセ・ルイス・デ・ラ・クルス委員長は、国際協定の枠組みを活用した投資家の国際仲裁への付託が続発するとみており、国が敗訴した場合の損害賠償の合計額は700億ドルに及ぶと試算している。これは、メキシコの2020年のGDPの6.5%に相当する。

(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めを求める裁判制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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