EU、オーストラリア向けアストラゼネカ製ワクチン輸出を不承認、ロシア製の逐次審査開始
(EU、英国、オーストラリア)
ブリュッセル発
2021年03月08日
イタリア外務省は3月4日、英国のアストラゼネカ製の新型コロナウイルス対策ワクチン約25万回分のオーストラリアへの輸出申請を不承認したと発表した。欧州委員会は製薬会社によるワクチン供給の遅れを背景に、EU域内でのワクチン確保を目的として、1月30日からワクチンのEU域外輸出の許可制度(2021年2月1日記事参照)を導入しており、今回の発表は同制度導入後初の不承認の事例とみられている。
イタリア外務省は不承認の理由として、オーストラリアは感染状況などから許可制度における「脆弱(ぜいじゃく)でない」国であることと、イタリアおよびEUでのワクチン不足が継続しているとともに、アストラゼネカによるワクチン供給が遅れていること、今回の申請対象となったワクチン数がイタリアおよびEUへの供給数と比べて多いことを挙げている。欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は2月25日にも、アストラゼネカによるワクチン供給の遅延に不満を表明(2021年3月1日記事参照)しており、今回の決定も欧州委の同意の下になされている。オーストラリアは新型コロナウイルス感染拡大の抑え込みができているとして、EU理事会(閣僚理事会)の勧告により、EUへの入域制限が解除されている数少ない国の1つだ。日本の解除指定は1月28日に取り消されているが(2021年1月29日記事参照)、EUと比較すると日本国内の感染状況は依然落ち着いている点では、オーストラリアとの相対的な類似も見られる。3月末までの時限的措置となっている許可制度が延長され、アストラゼネカによるEUへのワクチン供給の遅延が継続する場合には、アストラゼネカは日本でも製造販売承認を申請していることから、販売承認後の日本へのワクチン輸出への影響も懸念される。
スプートニクVの審査開始
欧州医薬品庁(EMA)は3月4日、ロシア製のワクチン「スプートニクV」の逐次審査(ローリング・レビュー)を開始したと発表した。欧米以外の製薬会社が開発したワクチンとしては、初の審査開始となる。ただ、逐次審査はワクチン承認に向けた事前の審査段階であり、正式な条件付き販売承認の申請はまだ認められておらず、EMAは最終的な承認時期などは未定としている。スプートニクVをめぐっては、欧州委が主導するワクチン調達の遅れから、EU全加盟国によるワクチン共同調達の方針(2020年8月18日記事参照)にもかかわらず、ハンガリーが2月に、3月に入ってスロバキアも、国内の承認手続きに基づき購入を決定するなど、EU加盟国間での足並みの乱れが表面化している。
(吉沼啓介)
(EU、英国、オーストラリア)
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