特集:外国人材と働く青森県で進む外国人材の活用(製造業)

2019年3月26日

青森県では人口減少が加速し、人口10万人当たりの在留外国人は全国最下位である。県内企業においても労働力不足は深刻で、外国人材の活用を選択肢として考えなければならない状況になっている。

2月8日に、ジェトロ青森と青森県などは弘前市で、外国人材を活用する企業の先行事例などを紹介するため、「外国人材と働くことを考える」セミナーを共催した。今回は、セミナーで登壇した県内企業の外国人技能実習生の活用事例などについて紹介する。

青森労働局によると、県内で働く外国人労働者は、この10年間で約3倍の3,137人(2018年10月末時点)となっている。国別内訳は、ベトナム(40.5%)、中国(29.9%)、フィリピン(8.7%)の3カ国で全体の79.1%を占める。また、産業別内訳では、製造業が半数を占め、そのほかでは農林業8.9%、卸・小売り7.9%、建設業5.9%、公務5.4%などが高い割合となっている。県内の外国人雇用事業所数は、過去最高の620カ所(2018年10月末時点)で、事業規模別では、従業員30人未満の事業所が全体の半数近くを占めている。

技能実習生との普段からのコミュニケーションが大切

魚卵加工品メーカーのオカムラ食品工業は、従業員約100人で、デンマーク、マレーシア、ベトナムに養殖や問屋業を手掛ける子会社を持ち、ミャンマー、シンガポールにも外食産業などを展開し、現在、県内の工場2カ所でベトナム人技能実習生を受け入れている。


オカムラ食品工業におけるイクラ加工実習(オカムラ食品工業提供)

千葉哲也・製造部第二工場長によると、当初は企業単独での受け入れを目指したが、申請手続などの煩雑さから断念。その後、断念する原因となった手続き業務を委託できる国内の受け入れ管理団体と契約することで課題をクリアし、2017年からベトナム人受け入れをスタートさせた。

2019年2月現在、外国人技能実習生16人を雇用しており、うち6人は第一工場でカズノコ、タラコ、シシャモ卵の加工品製造を、10人は第二工場でサケ・マス卵(イクラ、スジコ)加工品製造を担当している。工場で取り扱うのは自然の原材料のため、エックス線や金属探知機では取り除ききれない異物が発生する。機械でチェックした後の最終目視確認作業を技能実習生が行っている。ほかにも、イクラ・カズノコ・スジコの加工実習、備品洗浄などの業務にも従事できるよう、ローテーションで業務を割り振っている。同社は今後、優良実習実施企業の認定を受けて、外国人技能実習生を増やしていきたい考えだ。

一方、パン・和洋菓子製造とコンビニチェーンの展開を行う工藤パンは、従業員数580人で、青森市内に2カ所工場があり、現在ベトナム人技能実習生69人を雇用している。工藤恭裕・代表取締役会長によると、7~8年前から慢性的な人員不足で時間外労働が増加しており、派遣社員を多く採用した時期があったが、時給が高額でかつ長続きしなかった。このような状況下、2015年、「日本人材協同組合」(弘前市)を通じて、ベトナム人技能実習生10人を初めて採用した。

実習生採用の特長として、(1)原則3年間の雇用契約期間中は途中退職しない、(2)若い人材が確保できる(ベトナムの平均年齢30歳、日本46歳)、(3)派遣社員よりも経費が低額(初期費用はかかるが3年雇用すればコストは割安)の3点を挙げた。同社では、技能実習生の採用が決まると、会長自らがベトナムへ出向き、できる限り家庭訪問を実施。来日までの期間も可能な限り激励のために訪問し、来日時は空港への出迎えなども行っている。また、外国人の受け入れのため社内体制整備にも注力しており、実習生入社後1カ月の研修期間中に工場見学の機会を設け、ベトナム語の資料を使った研修も行っている。さらに、専属の通訳兼管理者を、日本人材協同組合へ派遣依頼し、常駐させている。


実習生による工藤パン工場見学(工藤パン提供)

技能実習生は、工場での菓子パン成形、フライヤー操作、パン仕分けなどを担当している。工藤会長は「技能実習生は、まじめで手先が器用、また仕事の理解がとても早く、日本人でも1カ月ほどかかる仕事を1週間程度で習得する人もいる。これまで大きなトラブルはなく、会社としては助かっており、普段からのコミュニケーションを大切にし、企業側が実習生に感謝の気持ちで接することが大切である」と述べた。

パートナー(監理団体)の選択がポイント

両社ともに、外国人材へのケアとして挙げたのは、会社の行事を通じて、職場以外でも親睦を深めている点だ。前述のセミナーの聴衆からは「両社の事例から、外国人に対して丁寧な対応が肝要だと理解した」というコメントが多く寄せられた。もう1つのポイントは、受け入れ機関の選択で、外国人との文化・言葉の違いは大きく、受け入れる際の監理団体は非常に重要となる。

地元の弘前市からセミナーに参加した監理団体である日本人材協同組合の奥﨑正志・理事長は「これまで2,500人以上の外国人を技能実習生として受け入れてきた。 最初は中国人のみだったが、現在はベトナム、ミャンマー、カンボジア、マレーシアからで年間250人ほどに上る。今後は、ミャンマーやカンボジアからの受け入れを強化すると共に、モンゴルからの受け入れも検討している。19歳~23歳の技能実習生が現場の活性化につながっている事例を踏まえ、今後は若い実習生の増員を検討している」と述べた。

また、奥﨑理事長は、技能実習生の受け入れに当たっての課題と傾向、その対策として、途中帰国と失踪のリスクはないとは言えないことを指摘しつつ、「雇用契約を順守し、不当労働や人権侵害とみられないよう気を付ける必要がある。(外国人材は)まず、技能実習生の受け入れから始めてみることを推奨する」とアドバイスした。


セミナーのパネルの様子(ジェトロ撮影)

セミナー全体では、外国人を採用するメリットとしては、人手不足の緩和、職場の活性化、新しいアイデアが生まれるなどが挙げられ、課題としては、担当者負担が大きい、期限付きの労働力である、失踪リスクのほか、書類作成・手続きが負担になるという意見があった。

外国人労働者を上手に活用している企業の共通点としては、担当者と外国人材自身の並々ならぬ努力は言うまでもないが、まずは経営トップの覚悟、そして外国人を受け入れる現場の同僚としての面倒見の良さも試されていると言える。日本人のみならず、外国人にも「選ばれる職場」を意識した取り組みが求められている。

執筆者紹介
 ジェトロ青森 所長
 木村 慶一(きむら けいいち)
1993年、ジェトロ入構。インド、米国(ニューヨーク、アトランタ)駐在などを経て、2018年1月より現職。青森県産品の輸出支援を行っているほか、県5カ年計画(基本計画)、国際戦略等の外部審議員も務めている。

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