築舘 弘和

PROJECT STORY 農林水産・食品担当

日本の農林水産物・
食品の輸出を加速するために、
顧客の真のニーズを掴む
「マーケットイン」への挑戦。

  • 築舘 弘和

    築舘 弘和

    Tsukidate Hirokazu

    農林水産物・食品部
    農林水産物・食品課
    課長代理
    2008年 入構

プロジェクトの概要

人口減少や高齢化を背景に、今後国内の食品市場が縮小する一方、日本と距離が近いアジアを中心に、世界の市場は更なる成長が見込まれている。そうした状況に対して、政府は農林水産物・食品の輸出拡大を推進してきた。輸出額は2012年の約4497億円から2021年には1兆円を突破。さらに2025年までに3兆円、2030年までに5兆円という政府目標が掲げられている。従来からJETROは農林水産物・食品の輸出支援を進めてきたが、今回新たな輸出支援の取り組みを開始し、目標達成に向けた動きが加速している。

PROJECT MISSION

農林水産物・食品の輸出促進がJETROのミッションのひとつである。特に政府目標として設定された輸出額の達成(2025年までに2兆円、2030年までに5兆円)に向けプロジェクトは長期にわたって継続されていくことになる。2021年は輸出額1兆円を突破した節目の年であり、具体的な取り組みも実施された。JETROが推進したのは「マーケットイン」の発想による施策で、それは事業者・生産者の輸出の取り組みに、新たな視座を与えるものだった。

PROJECT TIME LINE

  • 2021.05

    政府の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略フォローアップ」公表

  • 2021.06

    マーケットインの発想に基づく「専門家」配置の検討

  • 2021.08

    関係団体との意見交換を行う「全体会議」設置の検討

  • 2021.10

    「全体会議(1回目)」開催

  • 2021.12

    オンライン商談開催

  • 2022.02

    「全体会議(2回目)」開催

MY COMMITMENT

築舘は入構以来、農林水産物・食品の輸出支援業務に主に携わってきた。輸出先国・地域のマーケット情報、現地輸入規制・検疫などの情報を収集し事業者に提供することや、関係省庁や各種団体との連携支援、日本食の魅力を発信するプロモーションなど、多彩な活動を進めてきた。今回のプロジェクトで、これらに加え力を注いだのが、「国内での輸出の裾野拡大支援」と「海外での販路開拓支援」。特に海外での販路開拓支援は、築舘にとっても新たな取り組みだった。

「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換

日本の農林水産物・食品の輸出額は着実に拡大してきた。その背景には、訪日外国人の増加などを通じて日本産の農林水産物・食品の魅力が海外に広まったことや、アジアの経済新興国の消費者所得が向上し購買層が増えたことなどが背景にある。その追い風を受けて、国内の農林水産・食品事業者が様々な形で輸出事業に取り組み成果を上げてきた。それは新型コロナウイルス感染症拡大という逆風の中でも、輸出額が大きく減少していないことにも表れている。

他方、課題もいくつか挙げられる。そのひとつが日本食の人気が高まりつつあるが、実際には日本の農林水産物・食品への海外での認知度はまだ低い。輸出のハードルとして海外が要求する量や価格、品質、規格などを正しく理解し、継続的に商流を構築しなければ、販路を確立することは困難である。こうした中、政府は「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を打ち出した。それはこれらの課題解決を目指すものであり、そのキーワードとなるのが「マーケットイン」だ。

「今後、農林水産物・食品の輸入拡大を推進する上で最も重要なことは、海外のニーズを把握し、的確かつ迅速に対応することです。従来は、事業者が作りたいもの、作れるものを基準に輸出を考えていました。つまりプロダクトを作ってから、どのように販売していくかを考える。そのため、プロモーション活動が輸出促進の中心になっていました。今回のプロジェクトの核心部分は、このプロダクトアウトの考えから脱却し、顧客のニーズを反映させるマーケットインの考え方に転換すること。それは製品だけに留まりません。生産から現地販売までのバリューチェーン全体をマーケットインに変えていく必要があります。それが輸出拡大を加速させるカギを握っています。」

オールジャパンで取り組む「会議体」設置と海外拠点への「専門家」配置

築舘が最初に着手したのは、マーケットインの考え方に基づき関係団体との意見交換を行う「会議体」の設置だった。主要な輸出先国や地域において、政府関係省庁・機関と関係団体が連携し、輸出事業者を専門的かつ継続的に支援する体制を整備することが目的であり、「マーケットイン」の実践に向けた共有意識を醸成させていく場でもあった。

「参加したのは品目ごとの17団体。これら団体との顔の見える関係、風通しの良い関係を構築することで緊密な連携を実現し、輸出拡大の機運を高めることを目指しました。加えて重要なことは、マーケットインの考え方に関して共通意識を持つこと。関係者が多いためコミュニケーションを密にし、適切な情報発信や共有を行い、それぞれの意図や要望を汲み取るなど、全体調整、円滑な運営に力を注ぎました。会議体は、オールジャパンで輸出拡大に向けた重要な役割を担うものと位置付けています。」

この会議体開催とほぼ同時に進めていたのが販路拡大支援だ。JETROは、従来から、国内事業者と商社とのマッチング機会の提供や、海外バイヤーとのマッチングのための情報提供に取り組んできた。また海外においては、各国のJETRO駐在員が情報を収集し、事業者の販路拡大に向けた支援を進めてきたが、輸出意欲があっても中小企業が海外と繋がるのは難しく、輸出に関する知見・ノウハウがない、海外消費者のニーズが把握できない、海外とのコミュニケーションにおいて言葉の壁があるなどの課題があり、中小企業は輸出意欲があっても二の足を踏む場合が少なくないのが現状である。それらの課題を解決するために着手したことが「専門家」の配置である。

「今回の事業を通じて配置した専門家が、マーケットインの考え方を体現した施策の一つです。主要な国・地域において、現地の食品業界の経験者等を配置し、海外駐在員と二人三脚で海外バイヤーを発掘。バイヤーの先にはレストランやスーパーマーケット、小売店などの市場・消費者がいます。つまりバイヤーを発掘し関係性を構築することで、現地の生のニーズをキャッチすることができる。ビジネスチャンスの原石を見つけることができれば、国内事業者との商談マッチングへと展開する可能性が見えてきます。」国内の専門家とも連携を図り、国内事業者の課題解決に向けた取り組みを並行して進めている。

リアルとバーチャルの両面から事業者を支援していく

コロナ禍という状況で、商談フェーズは一気に活発化した。従来は国内外での商談会や海外見本市が開催されていたが、それらが全てオンライン化にシフトした。場所や時間の制約がなくなったことで、通常であれば出会うことがないバイヤーとの商談が実現するなど、販路拡大のチャンスが増えたのである。

「アジア、北米、欧州が重点地域でしたが、現在は、中南米や中東、アフリカなどの新興国においても、日本食に対する潜在的購買層が増えています。背景には各国の健康志向の高まりから日本食が評価されていること、またその美味しさが認識されつつあることが挙げられます。潜在的需要を掘り起こしていくべく、マーケットインへ転換していく必要があるのです。」

築舘の取り組みはまだ道半ばだが、既に販路拡大に成功した事例も生まれている。「今までなかった海外市場に新しい販路を築くことができてとても嬉しい」という感謝の言葉も届いている。長年この仕事に取り組んできたが、自身の業務を通じて市場開拓、販路開拓を支援できた時が、一番やりがいを感じる。かつて南アフリカに駐在していた時にそのことを実感した。

「日本の生産者と海外バイヤーをマッチングし、南アフリカの高級スーパーの棚に、日本産の味噌を陳列することができました。国内企業と海外バイヤーと接する中で新たな販路を開拓し、南アフリカと日本のネットワークを築くことができた手応えがありました。」そう語る築舘は、今後も輸出拡大強化に向けた取り組みを推進する新たな取り組みも模索している。マーケットインに続く新たなキーワードは「デジタル」だ。

「EC分野でも食品の取り扱いは増えつつあります。オンラインで引き合い、成約というシーンは今後確実に増えていく。ECの効果的な活用も輸出拡大の一助になります。JETROのECサイトでもビジネスマッチングの機会を提供しており、今後リアルとバーチャルの両面からさらなるビジネスチャンスを見出し、事業者を支援し輸出促進に繋げていきたいと考えています。その結果として日本の農林水産物・食品の拡大(政府目標の達成)に貢献していきたいです。」

MY FUTURE

これからも「食」の分野にアンテナを張り、変化していくビジネスニーズをとらえ、それに応えられるように日々準備をしていきたい。そして新しいプロジェクトにも積極的に取り組んでいきたい。海外の方に本物の日本食を味わってもらいたいという想いをもって、日本食の魅力を伝えていきたいと思っています。

入構理由

学生時代に海外に留学や旅行をしたことをきっかけに国際交流に興味を持ちました。特に食の分野に興味があったことから、当時の就職活動では日本の食や魅力を世界に広めたい、海外と日本の架け橋になる仕事がしたいと考えていました。JETROで働くことは「日本代表」になるというイメージがあり、自分のやりたいことを実現できる環境だと感じて入構を決めました。