PROJECT STORY 越境ECビジネス
成長著しいEC市場への挑戦と、
若手職員の成長戦略。
目指したのは、一挙両得。
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久保田 夏帆
Kubota Kaho
デジタル貿易・新産業部
EC・流通ビジネス課
2018 年 入構 -
芦崎 暢
Ashizaki Toru
デジタル貿易・新産業部
EC・流通ビジネス課 チームリーダー
2018 年 中途入構
プロジェクトの概要
世界各国におけるEC市場の急速な拡大をにらみ、JETROは国内企業の海外における販売サポートとして「JAPAN MALL」事業を立ち上げた。無料でデータベースに商品を登録してもらい、それらを通じ、世界のECや商社のバイヤーに商品の魅力を伝え、企業の海外展開を支援する。入構3年目の久保田夏帆は、数多くの品目の中から化粧品と食品を担当。リーダー芦崎暢の指導のもと、個社の成功はもとより「オールジャパン」でのシェア獲得を目指している。
PROJECT MISSION
海外の主要ECサイトを通じて日本商品の販売を支援する「JAPAN MALL」は、対象国・地域を年々拡大している。近い将来には世界50以上の連携先での事業化を目指す。
既に北米、中南米、東南アジア、オセアニア、中東、欧州、アフリカなど40以上のEC事業者と連携を実現した。
今後は取り扱い品目の増大やマーケットインの着想など新たな取組みにも着手していく。久保田は、世界中のバイヤーやECとの情報交換を行いながら1社でも多くの成約を目指す。
PROJECT TIME LINE
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2018.04
久保田入構
JAPAN MALLプロジェクト開始
久保田が担当に着任 -
2020.04
2020年度の参加日本企業公募開始
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2020.05
海外バイヤーへの商品紹介、
海外バイヤーでの商品選定 -
2020.07
海外バイヤーと日本企業の商談会
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2020.09〜
海外ECサイトでの販売・プロモーション、企業への販売結果フィードバック
OUR COMMITMENT
1社でも多くの日本企業のEC輸出・販路開拓を成功させることが求められる。特に日本企業の輸出や投資がまだ少ない地域・国への展開に挑戦していく。
長期的には世界のEC市場で日本の存在感を増やし、競合の枠を超えてオールジャパンで売り場をつくり、市場シェアを獲得していく。現在、久保田の主担当は化粧品と食品だが、モールの品目が増えるにつれ役割も増えていく事になる。
『日本のプレゼンス向上』を目的に2018年誕生
「アジアの化粧品と言えば、今やK-beauty(韓国)が世界を席巻しています。日本の化粧品は残念ながら、以前と比べると特に若年層を中心に相対的にプレゼンスが低下していると言われています」。久保田は忸怩たる思いをそう吐露する。「でも『JAPAN MALL』を通じ、日本の高品質な化粧品を世界の消費者に知ってもらえれば、十分に逆転も可能だと信じています」。
「JAPAN MALL」とは、海外の有力ECサイトを通じた日本商品の販売促進を目的に、JETROが2018年にローンチした事業だ。企業が登録する商品の情報をデータベース化し、売れ筋日本商品の創出を目指す。2020年の時点で、食品や加工食品、アルコール、化粧品、日用品、生活雑貨等を取り扱う。商品は原則的にEC側の買い取りで返品リスクは極めて少なく、メーカーは低リスクで海外の消費者に商品をリーチできる。
「ポイントは、JETROが一気通貫システムで取り組んでいること。メーカーとECやバイヤーを引き合わせてそれで終わりではなく、商品の選定、マッチングのサポートから販売戦略、ECサイトでの発売後のプロモーションまでもまとめて支援します。販売の傾向からサイトに出すバナーの時間帯を工夫したり、週末のキャンペーンを考えたり、キャンペーン全体のキービジュアルを選定したりと、デジタルマーケティングには詳しくなりました」。
化粧品は肌に直接塗布するものなので、現地の輸入規制が厳しい商品だ。また国・地域により消費者の肌の色や肌質、気候など状況も異なる。そうした細かい条件を目の当たりにし、海外進出を諦めてしまうメーカーが多くあるという。「そうした部分もひっくるめてJETROが支援しています。目的は『日本のプレゼンス向上』。それ一つです。」
「私は進みますが間違ったら止めてください」
チームリーダーの芦崎暢は、業務に取り組む久保田の姿勢を見ながら一考を持っていた。今回は自分が前面に出ず、久保田のサポートに徹する。それが彼女の成長につながる。そう考えた。言わば、芦崎だけが知るもう一つのプロジェクトだ。
「若い久保田は経験こそ少ないが何事にも熱心だ。しかしまだ遠慮がちな面もある。業務を一任することでその殻を破ってもらおう」。JETROでは若い職員に業務を一任することは珍しくない。しかも「やりたい」と挙手をした者に任せる傾向がある。だが「JAPAN MALL」は大きな新規プロジェクトだ。入構2年目の職員に、国内はもとより海外企業との調整、予算の管理、プロモーションの施策などを一切任せることは可能なのか。
「もちろん横でずっと見ながら折々で軌道修正はしていきます。最後まで久保田に担当してもらい、途中で投げ出さずにやり抜いてもらう。それが、例え今後このプロジェクトを離れたとしてもきっと生きてくる。そう考えました」。
2年目ながら一人で出張にも出かけた久保田。「もちろん色々と不安はありますが、今は本当にすべて自分で進めているのでマインドが変わったと自覚しています。自ら動くようになりました。『私はどんどん進みますが間違ったら止めてくださいね』という感じ(笑)。手取り足取りではこうはいかなかっただろうと思います」。
そうした久保田の変化は各所で成果を見せ始める。タイでは、日系の化粧品卸企業がEC販売に着手。競合関係にある企業各社との協業で、日本商品の販売・PRを実現した。ECのメリットを活かし、これまでリーチできなかった郊外の消費者へ日本の商品の魅力を伝えることに成功した。またマレーシアでは美容系ECサイトがコロナ禍での在宅需要を受けて、これまで取り扱いがなかった日本のお菓子に興味をもち、初めての販売に成功。クウェートではドバイ事務所と現地の弁護士に依頼し、日本企業側に不利な内容だったバイヤーとの契約書の見直しも支援した。すべて自身が主導したものだ。
「すべての商談に同席し、企業とバイヤーのメールもCCに入れてもらって常に関わって行く。『これは私の仕事だ』と言う思いはあります」
オールジャパンで市場シェアを開拓していく
「JAPAN MALL」は対象国を着々と拡大しており、それに伴い取り扱い品目も増大している。各国のバイヤーの目線・ニーズをインプットし、対応できるメーカーをJETROが探し支援する。まさにマーケットインの発想だ。
こうした視点からオールジャパンで市場シェアを開拓していくには、民間企業だけでは難しい。利益追求が求められ、競合との勝ち負けも絡む。公的な立場のJETROがECモールを事業化した意義はここにある。ライバルは国内ではなく外にいるのだ。
「K-Beautyの壁は厚いですが、諦めることなく挑戦を続けていきたい。現在、『JAPAN MALL』の化粧品は東南アジア各国のECがメインのターゲットで、今後は化粧品の本場とも言うべき欧州市場のECにも挑戦していきたい。メイドインジャパンの化粧品は欧州でも受け入れられる高い品質が十分にあります」。
「企業には『JAPAN MALL』を卒業していただくことが理想」と久保田は語る。これを機に商流ができ、自走できるメーカーが増えれば、JETROは次なるサポートやチャレンジに踏み出せる。それがベストシナリオであるという意味だ。そうなるためにも、まずは立ち上がったばかりの「JAPAN MALL」自身が足場を固めなければならない。
一方、久保田の成長を真横で見続けてきた芦崎。本来は人に任せず自分で動きたいタイプと自己分析をする。このプロジェクトでのオブザーバー的なポジションはかなり苦しい選択だったようだ。本人の言葉を借りれば、「泣く泣く我慢した」。
「しかし彼女は私が言うまでもなく、現地企業や日本企業と関係を構築し、細やかに情報共有しながら厚い信頼を獲得していきました。自分の考えをしっかり主張する姿勢も強くなり、このプロジェクトを通じてとても頼もしい存在になりました。もう十分独り立ちしていますよ」。
芦崎が密かに考えたもう一つのプロジェクトは、見事にコンプリートしたようだ。
MY FUTURE (久保田)
イスラム圏、特に中東での日本企業の市場開拓に貢献したい。中東は地理・文化的に日本から隔たりがあります。そんな地域に日本企業に進出してもらうには、輸出規制などの当地のビジネス情報の調査・発信が重要と考えます。駐在もしたいですね。
入構理由 (久保田)
大学ではアラビア語・イスラム思想を専攻。将来は日本とイスラム圏の経済連携に貢献する仕事がしたいと考えていました。公的な立場でスケールの大きな取り組みができ、また現場に近いところで日本企業の支援ができるJETROを希望しました。