バイデン米政権、南部国境からの不法入国者増への対策公表
(米国、メキシコ、キューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラ)
ニューヨーク発
2023年05月11日
米国の国土安全保障省(DHS)と司法省は5月10日、米国への合法的な入国を促すための新たな規則を公表した。
バイデン政権は、新型コロナウイルスに関する国家緊急事態と公衆衛生緊急事態を5月11日に解除することに伴い、トランプ前政権時から導入されていた国境措置「タイトル42」(注1)も終了させる予定だ(2023年5月8日記事参照)。これにより、即時の強制送還リスクが低減するとの見方が広がり、メキシコと接する南部国境沿いから不法入国者が既に増加している(ロイター5月9日)。DHSは5月2日、国防総省に対して、国境監視などを目的に1,500人の追加要員の派遣を要請するなど対応に動いた。ジョー・バイデン大統領も9日、当面の間、南部国境近辺は混乱に見舞われると認めつつ、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(AMLO)と電話会談を行い、事態の解決に向けて協力することを確認した。
今回の新規則は、DHSが1月に発表した対策案に基づくもので、合法的な入国手続きを経ない者に対して、亡命申請の適格性に一定の制限を課すことなどが核となっている(2023年1月6日記事参照)。具体的には、米国への合法的な入国経路を取らず、本国で迫害または拷問を受ける合理的な恐れがない者は、亡命申請の資格がないと推定し、本国へ送還できるとしている。ただし、臨時入国許可取得のために米国へ渡航する適正な許可を受けていたり、税関・国境警備局(CBP)の入国手続き用アプリ「CBP One」にアクセスでき、事前の面談予約を提示できたりするような場合には、その推定は適用されない。また、同伴者のいない子どもに対しても、推定は適用されない。メキシコとの関係では、同国は引き続き人道的見地から、米国国境で「タイトル8」(注2)に基づいて入国を拒否されたキューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラからの入国者を受け入れることを発表した。そのほか、国務省が中南米の主要な都市に、約100カ所の地域処理センターを開設し、入国手続きを受け付けるなどの対策を講じる予定と発表している。
DHSのアレハンドロ・マヨルカス長官は、新規則に基づいて入国者が合法的な経路を取ることに期待を示しつつ、連邦議会に対してバイデン大統領の移民改革法案に取り組むよう促した(2021年1月21日記事参照)。しかし、共和党が多数派を形成する下院では5月11日に、共和党議員が起草した「国境安全法案(H.R.2)」(注3)の投票が行われる予定だが、ホワイトハウスは同法案が可決されても大統領が拒否権を発動するとの声明を出している。そのため、新法を通じて事態に対処できる見込みはない。このまま不法入国者が増えれば、債務上限問題(2023年5月10日記事参照)と並んで、深刻な政争の火種となりそうだ。
(注1)合衆国法典(USC)第42章は、行政府に対して、入国者を経由した感染症の拡大を防止するため、移民の入国を制限する権限を与えている。トランプ政権時の2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大を理由に発動され、亡命申請者を米国内に滞在させず、即時に本国へ強制送還する根拠となった。
(注2)USC第8章は、行政府に対して、許可なく入国した者および米国滞在の法的根拠を確立できない者を強制送還することに加え、将来的な移民手続きも禁じるなどの権限を与えている。
(注3)トランプ前政権で着手された南部国境沿いの壁建設の再開をDHSに義務付けることや、非米国市民に対する亡命適格要件を制限するなどが含まれる。バイデン政権は、米国の移民制度を改悪するものと批判している。
(磯部真一)
(米国、メキシコ、キューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラ)
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