EU、天然ガス供給倍増でアゼルバイジャンと合意、供給先多角化のみでは不十分との指摘も
(EU、アゼルバイジャン)
ブリュッセル発
2022年07月20日
欧州委員会は7月18日、EUへの天然ガス供給量の拡大に関する覚書をアゼルバイジャンと締結したと発表した(プレスリリース)。EUは現在、年間80億立方メートル以上の天然ガスを、南ガス回廊(Southern Gas Corridor)を経由してアゼルバイジャンから輸入している。今回の覚書では、EUは2027年までに、現在の2倍以上の年間200億立方メートル程度をアゼルバイジャンから輸入することで合意した。また、2023年には輸入量は年間120億立方メートルに増加する予定だとした。今後のEUへの輸入増加に向けて、南ガス回廊のインフラ整備のため投資拡大が必要となるとした。
EU加盟国は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシア産化石燃料依存からの早期脱却で合意(2022年3月14日記事参照)。欧州委は、EU域内のガス消費に占めるロシア産天然ガスの割合は45%以上と依存度が高いとして、特にロシア産天然ガス依存の解消に向けた計画「リパワーEU」の詳細を発表した(2022年5月20日記事参照)。この計画の中では、省エネや再生可能エネルギーの推進と並ぶ柱の1つとして、エネルギー供給先の多角化を挙げている。また、ロシアは既にEUへの天然ガス供給量を大幅に減らしており(2022年6月28日記事参照)、直近では、ロシアとEUをつなぐ最大規模の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」を7月21日まで保守整備を名目に停止させており、21日以降も不透明な状況が続くなど、EUでは需要が拡大する冬季に向けて、ロシアに代わる天然ガス供給の代替先の確保が急務となっている。
欧州委は3月、米国との間で、2022年に150億立方メートル分、その後は2030年まで少なくとも年間500億立方メートル分の米国産液化天然ガス(LNG)の追加供給を受けることで合意(2022年3月28日記事参照)。6月15日にはイスラエル産天然ガスをパイプライン経由でエジプトに輸出し、エジプトで液化させた上でEUに輸出するとの覚書をイスラエル・エジプトの両国と締結。同月23日にはノルウェー産天然ガスの追加供給に向けた協力強化で、ノルウェーとも合意している。
IEA、エネルギー供給多角化のみではロシア産天然ガスの穴埋めは不十分、需要抑制策を提言
一方で、国際エネルギー機関(IEA)は7月18日の声明で、EUのエネルギー供給先の多角化について、一定の進歩がみられるものの、いまだ不十分として、需要抑制策が必要と提言した。アゼルバイジャンやノルウェーからの天然ガスの輸入量が最大限まで拡大し、北アフリカからの輸入が2021年水準で推移するなど、最良の条件が整ったとしても、供給先の多角化だけでは、ロシア産天然ガスの穴埋めをすることはできないと指摘。EUが現在強化しているガス備蓄(2022年7月4日記事参照)について、冬季までに法定水準を超える備蓄上限9割の達成に向けて加速させ、産業界や家庭におけるエネルギー需要自体を減らす措置も、加盟国間で協調的に実施する必要があるとしている。
(吉沼啓介)
(EU、アゼルバイジャン)
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