ロシア産ガスの供給削減を受けて、ガス備蓄を強化する規則がスピード成立
(EU、ロシア)
ブリュッセル発
2022年07月04日
EU加盟国に対して一定のガス備蓄を義務付けるEU規則が7月1日に施行した。この規則により、エネルギー需要が増加する冬季に備え、ガス地下貯蔵施設を有する18の加盟国は、原則として2022年11月1日までに自国内のガス貯蔵施設の備蓄上限の8割(2023年11月以降は9割)を備蓄することが義務付けられる。
これらの加盟国は、備蓄目標の達成に向けて、必要に応じて、関連事業者に対して財政的なインセンティブや補償を提供するなど、あらゆる手段をとることが求められる。また、貯蔵施設を持たない加盟国は、自国のガス年間消費量の15%相当以上について、毎年11月1日までに自国内の事業者と他の加盟国の事業者の間に供給に関する取り決めがなされることを確保する必要がある。
さらに、ガス地下貯蔵施設は、エネルギーの安定供給の観点から重要なインフラとして、当該施設の認定制度も創設する。当該施設事業者は、当該施設の所在する加盟国当局から、原則として2024年1月2日までに認定を受ける必要がある。ロシア国営企業ガスプロムを念頭に(2022年3月11日記事参照)、2021年と2022年の3月31日の各時点での備蓄が備蓄上限の3割未満と非常に低い水準だった一定規模以上の事業者に関しては、リスク要因となり得ることから、より早期に審査を受ける必要があるとして、2023年2月1日までに認定を受けることを義務付けている。エネルギーの安定供給へのリスクなどを理由に、加盟国当局が認定をしない場合は、事業者は当該施設の売却などが求められる。
ロシア産ガスの供給削減に強い危機感、需要削減も視野に
この規則は、欧州委員会が3月に提案したもので(2022年3月24日記事参照)、提案から3カ月での異例のスピードでの成立となった。背景にあるのは、今冬に向けてのガス供給に対する危機感だ。今回の規則は、ロシアのウクライナ侵攻という地政学的な状況の中で、ガス供給における今後の混乱に備えるものであるものの、欧州委は、現在の備蓄水準は56%超と例年同時期よりも高いとして、現時点では安定供給上の差し迫ったリスクはないと強調している。しかし、既にガスプロムを含むロシアから12の加盟国に対する天然ガスの供給が削減されており、ロシアからEUへのガス供給は前年同時期の半分程度に落ち込んでいる。そのため、欧州委は、今後数カ月のうちに供給状況はさらに悪化すると予測しており、さらに深刻な混乱が生じる可能性もあるとしている。
欧州委は、今冬の最悪のシナリオも想定した準備の一環として、加盟国に対する指針として、産業別の需要削減の基準などを含めた「需要削減調整計画」を速やかに発表するとした。
(吉沼啓介)
(EU、ロシア)
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