欧州委、エネルギー効率の低い建物3,000万棟の改装進める法改正提案
(EU)
ブリュッセル発
2021年12月17日
欧州委員会は12月15日、2030年の温室効果ガス55%削減(1990年比)を達成するための政策パッケージ第2弾(2021年12月16日記事参照)の一部として、建物のエネルギー性能指令の改正案を発表した(プレスリリース)。2010年に施行された同指令では、EU加盟国に建物のエネルギー性能証書の導入を義務付け、2018年の改正では、新築の非居住用建物(以下、オフィスビル)に電気自動車用充電設備の設置を求めるなどの補強がされていた。今回の改正案は、2020年10月の「リノベーション・ウェーブ戦略」(2021年3月16日付調査レポート参照)で示した方向性に基づき、現状では加盟国ごとに制度や運用に差があるエネルギー性能証書の改善や、全ての建物に必須となる最低エネルギー性能基準の設定による域内の建物全体のエネルギー効率の底上げなどが柱となっている。
改正指令案では、2025年末までにエネルギー性能証書で用いられる性能評価のカテゴリーを最高評価Aから最低評価Gの7段階に統一するなど、記載すべき最低限の要素の共通化を加盟国に義務付ける。A評価は、消費エネルギー量が非常に少なくて必要な全エネルギーを再生可能エネルギーで賄うことのできるゼロ排出の建物が該当、G評価は、各加盟国でのエネルギー性能最下層15%(評価導入時点)の建物が該当する。同評価基準に基づいて加盟国には、(1)オフィスビルと公的機関が所有するビルは2027年1月1日(以下、年初)までに最低でもF評価以上、2030年初までにE評価以上、(2)アパートなど居住用建物は2030年初までにF評価以上、2033年初までにE評価以上を、それぞれ全ての建物で満たすことを義務付ける。これをEU最低エネルギー性能基準として今回新たに設定した。欧州委は、G評価からF評価の基準を満たすために改修される建物はEU域内で約3,000万棟に上ると試算する。
また、改正案では、代替燃料インフラ規則案(2021年7月16日記事参照)を補完する目的で、建物に求められる充電インフラの設置要件も強化されている。例えば、新築または大規模改装実施のオフィスビルは、5台以上(現行指令では10台以上)の駐車スペースを有する場合、最低1基以上の充電設備の設置が義務付けられる。
建物の暖房設備での化石燃料使用に対する制限としては、2027年初以降、加盟国が化石燃料使用のボイラーの設置に対して、原則として公的な資金援助を行わないことが定められた。一部の加盟国が求めていた化石燃料使用ボイラーの新規設置禁止は、改正指令案自体には盛り込まれなかった。他方、各加盟国は、改正指令案で新たに5年ごとに策定を求められる「国別建物リノベーション計画」の中で、化石燃料を用いた冷暖房設備を遅くとも2040年までにフェーズアウト(段階的廃止)させる施策やロードマップ(工程表)を示すことが求められる。
改正指令案は今後、欧州議会とEU理事会(閣僚理事会)で審議する。欧州委は、建物の脱炭素には本指令だけでなく、7月に欧州委が設置を提案した建物および道路輸送を対象とする新たな排出量取引制度(2021年7月16日記事参照)など、「欧州グリーン・ディール」の他の政策を一体的に推進していく必要があると指摘している。
(安田啓)
(EU)
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