米上院で新疆ウイグル自治区の禁輸法案可決、大統領署名から180日後に施行見通し
(米国、中国)
ニューヨーク発
2021年12月23日
米国連邦議会上院は12月16日、中国の新疆ウイグル自治区が関与する輸入を原則禁止する法案(H.R.6256)を可決した。ジョー・バイデン大統領が署名すれば、パブリックコメント募集などを経て、法成立から180日後に禁輸措置が有効となる。
本法案をめぐっては、これまで複数の法案が提出、審議されていたが(2021年12月10日記事参照)、法案間の調整が行われた結果、超党派の支持を得て今回の可決に至った。輸入禁止措置は法成立から180日後に施行され、8年間有効(注1)となる。新疆ウイグル自治区で一部でも生産・製造・採掘された製品は全て強制労働に依拠しているとの前提の下、米税関国境保護局(CBP)によって輸入が差し止められる。ただし、製品が強制労働に依拠していないとの明確な証拠に基づき、輸入者が規則を順守し、CBPの情報照会に対応したと判断される場合は、輸入が認められる(注2)。
本法案の成立後には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の下で設立された強制労働執行タスクフォースが30日以内に、強制労働により生産された物品などの輸入を禁止するための最善の方策に係るパブリックコメント募集を行い、運用計画を策定する。運用計画には、強制労働に該当する主体・施設や製品(分野)のリスト化、CBPへの提言・支援、輸入者へのガイダンス策定が含まれる。ガイダンスには、輸入製品が強制労働に依拠していないと証明する際に必要な証拠の類型(type)、性質(nature)、程度(extent)のほか、人権デューディリジェンスやサプライチェーン管理に関する情報を盛り込むとしている。パブコメの募集は最低45日間行われ、その後公聴会が開催される。
米現地の通商弁護士は留意すべき点として、法案に救済措置であるデミニミス(僅少の非原産材料)規定がないことを指摘する。米国の通商法では、規制に抵触する原材料・部品の金額または数量が製品全体に占める割合が少数の場合、関税や輸入規制の適用を免除する手続きが設けられることが多いが、今回はデミニミス規定が盛り込まれていない。よって、新疆ウイグル自治区以外で製造される製品を含めて、わずかでも同自治区が製品に関与していれば、輸入が禁止される。また、加工などが同自治区内でない場合でも、タスクフォースが指定する主体が関与する製品は対象となる。
上院で法案成立を推進していたマルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ州)は、米国がこれまでアパレルや太陽光発電などの分野で強制労働を黙認しながら中国に依存してきたとして、「中国への経済依存を終わらせる時だ」と賞賛した。また、法案が可決されたことで、それまで上院で膠着(こうちゃく)していた、在中国米国大使候補のニコラス・バーンズ氏の承認が完了している(2021年12月21日記事参照)。
なお、下院で審議されていた、米上場企業に新疆ウイグル自治区との関連(有無)の報告を義務付ける条項は、今回見送られた。同条項については、米商工会議所が報告のための検査・監査が実務上困難として反対していた。他方、同自治区の強制労働に加担する外国の個人・主体のリスト化については、上下両院の法案のまま盛り込まれた。大統領は今後180日以内にリストを議会へ提出し、掲載主体に米資産の凍結や米国ビザの発給(入国)禁止などの制裁を課す。
(注1)大統領が、中国政府が新疆ウイグル自治区での強制労働を撤廃したと判断した場合は、議会の所管委員会に報告した時点で、輸入禁止措置は無効となる。
(注2)CBPによる強制労働に依拠した製品への輸入差し止めに関する詳細は2021年6月25日付地域・分析レポート参照。
(藪恭兵)
(米国、中国)
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