日米政府高官、日系企業に人権尊重を呼び掛け、実務対応を含むセミナー開催

(米国、日本)

ニューヨーク発

2021年11月11日

ジェトロは11月9日(日本時間10日)、経済産業省と共催で「サプライチェーンと人権」をテーマに、米国の潮流と日本企業の留意点に関するオンラインセミナーを開催した。世界的に人権尊重を求める機運が高まる中、米国でも強制労働に依拠する製品の輸入差し止め措置が増加し、人権侵害の疑いがある外国企業への輸出管理が強化されている。今回のセミナーでは、米国政府の施策や企業活動における実務上の留意点などについて、日米両政府の高官や専門家が解説を行った。

経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策統括調整官の柏原恭子氏は、欧米における規制の動向を概観するとともに、人権デューディリジェンスの義務化を進めるドイツやEUの動向を紹介し、米国だけでなく国際的な動向を把握して、自社の事業経営に対するインプリケーションを考えることが重要だと述べた。また、日本政府としては、経済産業省に専門部署を新設し、情報提供(経済産業省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますジェトロ)を強化していると紹介した。柏原氏は「人権問題への対応はもはや待ったなしの課題」とする一方、人権に取り組むべき理由について、消極的なリスク回避だけではなく、環境問題と同様に、人権課題の解決が「企業の新たな事業機会になり得る」と述べた。

米国務省の民主主義・人権・労働局で首席次官補代理代行を務めるスコット・バスビー氏は、人権政策における企業への情報共有の重要性を強調した。米国政府が提供する情報では、国別人権報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます人身取引報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに加え、中国・新疆ウイグル自治区のサプライチェーンに関する勧告(2021年7月14日記事参照)や、外国政府による国内反体制派などの監視を目的とした契約取引に関するガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどが参考になるとして紹介した。バスビー氏は、米国の通商政策として、一般特恵関税制度(GSP)やアフリカ成長機会法(AGOA)の下では、米国が特恵関税で物品輸入を認める対象国となるための資格要件に人権尊重が含まれることや(注1)、米税関・国境保護局(CBP)による強制労働に依拠した製品の輸入差し止め(違反商品保留命令:WRO)などの動向(注2)に触れ、「米国は、企業が人権を支持する『頂点への競争(Race to the Top)』としての世界貿易を促進する」と述べた。

メイヤー・ブラウン法律事務所のシドニー・ミンツァー弁護士は、WROの発動はこれまでまれだったが、2016年の法改正(注3)以降、調査件数は約30件に急増し、事案によっては数千社に影響することを示した。WROの対象についても、中国以外の事例も多数あることや、対象が下流の製品にも及ぶ場合、サプライチェーンに重大な影響を与える可能性を指摘した。同事務所の村瀬悟弁護士は、内部告発やNGOからの情報提供が発端で、事前通知なく輸入が差し止められるケースがあると説明した。ミンツァー氏は、過去に担当した顧客の中で、WROを受けた後の対処として、情報収集に数カ月、CBPの回答に7カ月をそれぞれ要した経験から、WRO発動前に対策を進めるべきと助言した。ミンツァー氏は、連邦議会による規制強化(注4)の動きに触れつつ、米輸入者が強制労働に関する法令順守に協力的なサプライヤーを特定するのは数年単位の取り組みだと述べた。

(注1)GSPは2021年末で失効しており、更新のための法案が提出されているが、資格要件などをめぐって議論が対立しており、法案審議が停止している(2020年12月25日記事参照)。

(注2)CBPによる強制労働に依拠した製品への輸入差し止めに関する詳細は、2021年6月25日付地域・分析レポート参照。

(注3)2016年に成立した「2015年貿易円滑化・貿易執行法」では、強制労働に依拠した製品輸入に関して、「消費需要例外(Consumptive Demand Exception)」条項が廃止された。法改正前は、米国内の需要を国内生産で満たせない製品は差し止め対象から除外していたが、現在は同条項が利用できず、より厳格な取り締まりが実施されていると指摘されている。

(注4)議会では、新疆ウイグル自治区で生産された製品を原則として輸入禁止の扱いとする法案が上院(S.65外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と下院(H.R.1155外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)でそれぞれ可決・提出されている。ミンツァー氏は、上下両院の擦り合わせを経て2021年末または2022年の早期に議会を通過する可能性があるとの見方を示した。

(藪恭兵)

(米国、日本)

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