上院が炭化水素法改正法案を可決、野党はPEMEX優遇の加速を懸念

(メキシコ)

メキシコ発

2021年04月27日

メキシコ上院は4月22日、炭化水素法改正法案を賛成65票、反対47票、棄権6票の賛成多数で可決した。同法案は、石油精製品に関する許認可の付与に新たに「エネルギー省が定める貯蔵能力」の要件を付け加え、「国防、エネルギー安全保障、国家経済にとって差し迫った危険が存在する場合」に許認可を取り消すことを認める内容で、石油精製品の流通・販売における国家の権限を強めるもの(2021年4月16日記事参照)。

上院のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、与党・国家再生運動(Morena)のリカルド・モンレアル・アビラ上院議員が「国家の安全とエネルギーの主権が保証される。市場原理をゆがめるものではなく自由競争を阻むものでもない」と述べた一方で、野党・国民行動党(PAN)のソチル・ガルベス上院議員は「ガソリン盗難の撲滅には反対しないが、許認可の取り消しは容認できない」とし、(石油製品市場の発展のためには今回のような法改正ではなく)「企業の投資意欲を向上させ、競争を促すような政策を実施する必要がある」とした。産業界からも反発が出ており、メキシコ経営者連合会は4月25日、「炭化水素法改正は憲法違反で、自由競争を阻害し投資減退を招く」と題するプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、ホセ・メディナ・モラ会長は「電力産業法改正時と同様に、すぐさま多くの企業が庇護(ひご)訴訟(アンパロ、注1)を起こすだろう」と、同日の記者会見で述べた。

「PEMEXを保護し続ければ、国民にとって非常に高くつく」との見方も

行政府が提出した法案に加え、 石油公社(PEMEX)のガソリンなどの燃料販売におけるドミナント規制(注2)を解除する法案が4月21日、下院において賛成301、反対147、棄権2で賛成多数により可決した。同法案はMorenaの議員によって提出された後、24時間のうちに承認され、上院に送られた。法案がそのまま成立した場合、エネルギー改革以前の、PEMEXによる寡占状態に逆戻りする可能性が高まる。

同ドミナント規制は、2014年のエネルギー改革時に、民間企業の参入を促し適正な燃料価格を実現することを目的として、エネルギー規制委員会(CRE)によってPEMEXに課されたもの。2014年8月11日に施行した炭化水素法の付則13条を変更することで、PEMEXに対する同規制を取り消す。ロペス・オブラドール大統領のイニシアチブにより、電力産業法改正(2021年3月11日記事参照)や炭化水素法改正など、国営企業の優遇につながる法改正が続いており、本法案も同様だ。連邦経済競争委員会(COFECE)のハナ・パラシオ委員長は自身のツイッターで、PEMEXが2020年時点でガソリン市場では86.8%、軽油では72.2%のシェアを占めていることを挙げ、「PEMEXを保護し続ければ、国民にとって非常に高くつくことになる」と警告した。

(注1)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めおよび無効を求める裁判制度。

(注2)非対照の規制とも呼ばれる。市場への影響力が大きく支配的(ドミナント)だと判断される事業者に対し、他事業者より厳しい規制を課すこと。

(松本杏奈)

(メキシコ)

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