欧州委、コロナ後に向けた雇用目標や雇用支援策を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年03月05日

欧州委員会は3月4日、「欧州社会権の柱」の実現に向けた具体策となる行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。「欧州社会権の柱」とは、労働市場における雇用機会の均等、公正な労働条件、社会保障の確保といった欧州型の社会モデルの強化を目的に、EUが2017年に採択した20の基本原則だ。今回の行動計画は、社会権に関する権限の多くが加盟国にあることから、EUレベルでの共通目標を設定することで、共通目標の達成に向けた取り組みを加盟国に求めるもの。欧州委は、2030年までにEU全体で達成すべき目標として、以下の3点を提案している。

  1. 20歳から64歳までの全人口のうち、少なくとも78%の雇用の達成(2019年時点での雇用率は73.1%)
  2. 全成人の少なくとも60%が、デジタルスキルなどの技能講習を毎年受講(2016年時点での受講者率は37%)
  3. 貧困や社会的排除のリスクにある人口を、少なくとも1,500万人削減(2019年時点でリスクにある人口は9,100万人)

新型コロナウイルスの感染拡大により、こうした指標は今後悪化するとみられているものの、総額1兆8,243億ユーロからなるEUの通常予算である中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)と新型コロナウイルス対策の特別予算である復興基金の成立(2020年12月21日記事参照)は、欧州型の社会モデルを強化する上でむしろ好機として、加盟国に対してこうした資金の活用を求めている。欧州委は今後、欧州理事会(EU首脳会議)による行動計画の承認を受けた上で、各加盟国に対して国別目標の設定を求める予定だ。

雇用創出を伴う復興に向けた雇用支援ガイダンスも発表

欧州委は同日、行動計画の一環として、「新型コロナ危機」後の雇用支援に関する勧告(EASE)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも発表した。EASEは、現状の新型コロナ対策の緊急雇用維持策から、雇用の新規創出や、既存の斜陽産業からデジタルや環境分野など拡大が予想される産業への雇用の移行といった積極的な雇用政策に関する、加盟国向けのガイダンスだ。(1)雇用主に対する雇用促進のためのインセンティブ・起業家支援、(2)職業訓練、(3)就職支援サービスの3点を重視しながら、加盟国は雇用政策を戦略的に立案すべきとしている。また、こうした雇用政策の実施に当たっては、MFFの一部である欧州社会基金プラス(ESF+)、欧州地域開発基金(ERDF)などの結束政策資金だけでなく、復興基金の中核予算である「復興レジリエンス・ファシティ(RRF)」(2021年2月15日記事参照)も最大限に活用すべきだとしている。

(吉沼啓介)

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