欧州委、EU英国新協定合意でも移行期間終了後の大きな変化に注意喚起
(EU、英国)
欧州ロシアCIS課
2020年12月28日
欧州委員会と英国政府は12月24日、EU英国通商・協力協定に交渉官レベルで原則合意(agreement in principle)に達し(2020年12月25日記事、同日記事参照)、双方での批准手続きを踏まえて、2021年1月からの暫定適用開始が想定されている。英国のEU離脱(ブレグジット)の移行期間終了(12月31日)にぎりぎり間に合う見通しだが、合意内容は最小限であり、英国に適用されていたEUの4つ(人、モノ、サービス、資本)の自由移動が年末に終了する。EUと英国は2つの別々の市場(2つの区別された規制と法体系)を形成することになる。このことは、EU市場統合が完成した1992年末以降は存在しなかったEU・英国間の財・サービス貿易、越境移動・交流への障壁が再び創出されることを意味する。そのため、こうした避けられない変化に備えるため、欧州委員会は2020年7月9日、各国当局や産業界、市民の準備を手助けするコミュニケーション「変化に備える」を公表している(2020年7月13日記事参照)。このコミュニケーションには100を超える分野別ガイダンス通知が添えられており、欧州委は移行期間終了に備えて、同通知を参照するようこれまでも促してきた。
欧州委がEU英国通商・協力協定の原則合意の際に公表した同協定が網羅する項目とEU加盟国の便益とを比較したチェックリスト(添付資料表参照)によると、同協定により、移行期間終了後も英国がEU加盟時と変わらない状況を維持できるのは、EU内での90日以内のビザなし旅行と、EUとの商品貿易における関税なし・割り当てなしの項目に限定される。しかし、商品貿易で関税なしなどの適用を受けるには、合意された原産地規則を満たす必要がある。そのほか、今回合意したEU英国通商・協力協定による通関手続きや原産性手続きの軽減が挙げられるが、これらは認定事業者(AEO)制度や原産地証明に自己申告制度が同協定に採用、協定に関連した特別な条件を満たすことで得られる便益として整理されており、EU加盟時とはビジネス環境が大きく変化する。ちなみに、原産性の自己申告制度は、EUと英国それぞれで定められた輸出者参照番号と原産国、場所と日付、輸出者名を記載するのみの非常にシンプルなもの〔日EU経済連携協定(EPA)のような原産性基準の記載は不要〕で、EUカナダ包括的貿易協定(CETA)とほぼ同じ内容となっている。また、品目別原産地規則(PSR)で、付加価値基準の計算方式がMaxNOM(非原産材料の割合)のみであることや、各品目の原産性の基準など除けば、日EU・EPAと類似の規定が多くみられる。
商品貿易以外では、EU加盟国での英国人の労働・学習・居住の権利や、漁業協定、エネルギー取引プラットフォーム、EU研究開発支援枠組みであるホライズン・ヨーロッパへのアクセスなども協定から得られる便益に含まれているが、いずれもEU加盟時とは扱いが異なるため、欧州委でも「大きな変化」と整理しているため、新たな対応が必要となる。
(田中晋)
(EU、英国)
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