EU理事会と欧州議会、復興パッケージで政治合意
(EU)
ブリュッセル発
2020年11月11日
EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月10日、2021~2027年度の中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF、以下、次期MFF)と、新型コロナウイルス対策予算である復興基金に関して、政治合意に達したと発表した。これは、7月21日に欧州理事会(首脳会議)で合意された(2020年7月21日記事参照、注)後、その正式な成立にはEU理事会と欧州議会での手続きを経る必要があることから、両機関で審議され、一部修正されたもの。
まず、2050年までの気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)を目指す「欧州グリーン・ディール」の一環として、次期MFFと復興基金の総額のうち、最低でも30%を気候変動対策に充てることで両機関が合意。さらに、予算配分で生物多様性の保護や男女平等に対しても一定の配慮をすることで一致した。
次期MFFと復興基金の予算総額については、欧州理事会の合意額である1兆8,243億ユーロを維持し、欧州議会が要求していた予算の増額は、EU理事会は一部別枠として容認した。この別枠は、競争法違反に対する懲罰金などを主な財源とする160億ユーロで、次期研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」や欧州理事会合意で当初案から大幅減額された保健衛生上の危機対策として新たに設置される「EU・フォー・ヘルス」などの増額に充てられる。
さらに、復興基金の財源に関しては、欧州理事会での合意で、欧州委員会がEU名義の債券の発行することで市場から調達することになっており、その償還には炭素国境調整メカニズムやデジタル課税の導入、EU排出権取引制度(ETS)の改正など、EUの新たな独自財源で対応するとしている。今回の合意では、こうしたEUレベルの新たな税制の導入に向け、法的拘束力のあるより明確な行程表が加えられた。この行程表は、新たな税制の導入を保証するものではないが、欧州委による法案提出などを確実なものにすることで、導入に向けて道筋をつけるものだ。
なお、今回の政治合意により、このまま正式に成立するわけではない。次期MFFと復興基金は今後、EU理事会での全会一致の採択が必要となるが、ハンガリーとポーランドはいまだに賛成の意思を示していない。これは、今回の政治合意に両国が強く反発する法の支配と予算執行を関連付けるメカニズムの導入が欧州議会や一部の加盟国の要求により含まれているためだ。なお、次期MFFに関しては、欧州議会の採択も必要だが、こちらは採択される見通しだ。
復興基金に関しては、EU理事会の採択後に各加盟国の憲法上の要件に従った批准手続きが全加盟国で必要となるが、両機関での交渉が長引いたことから、正式な成立は2021年以降となるとされ、その予算執行の遅れは避けられないもようだ。
(注)欧州理事会合意の詳細は「徹底解説:EU復興パッケージ(第1回、第2回、第3回)」を参照。
(吉沼啓介)
(EU)
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