米USTR、WTO改革や対英・EU交渉に意欲、2020年の通商課題
(米国)
ニューヨーク発
2020年03月06日
米国通商代表部(USTR)は2月28日、「2020年の通商政策課題と2019年の年次報告」を議会に提出した。対中政策などの実績を自賛しつつ、今後はWTOの改革や英国、EUとの通商交渉に取り組むと表明した。
トランプ政権の成果として労働者階級の復活を強調
USTRは、2019年実績のハイライトとして、第1弾の米中経済・貿易協定や米国・メキシコ・カナダ貿易協定(USMCA)、日米貿易協定および日米デジタル貿易協定のほか、EUとの航空機補助金をめぐるWTO勝訴などを挙げた。USTRは前年の報告で、中国の知的財産侵害への対応やUSMCAの批准、日本との通商交渉を挙げており、一定の成果を示すかたちとなった(2019年3月7日記事参照)。
中国については、3,700億ドル相当の追加関税を維持しつつ、中国の対応次第で追加措置を講じる用意があり、第2段階の協議では中国側の過剰生産や産業補助金、国有企業への規律、サイバー窃取などの課題が争点になると記載した。また、日本との関係では、2020年1月に発効した日米貿易協定を基盤とし、関税やサービス・投資分野を含む包括的な貿易協定に取り組むとした。
報告書では、トランプ政権の取り組みにより、製造業雇用や賃金・家庭所得が伸び、労働者階級が成長を遂げたとして、2月のトランプ大統領の一般教書演説と同じ「ブルーカラーの活況」との表現を用いた(2020年2月6日記事参照)。他方、2019年の貿易動向について、財貿易では前年に比べて214億ドル(2.4%)、財・サービス貿易では109億ドル(1.7%)の赤字減少を報告したが、トランプ政権発足前と比べると、貿易赤字は拡大している(添付資料参照)。
「WTO改革」特集を組む、通商交渉は英国・欧州を軸に
報告書では、2019年の報告にはなかったWTO改革を扱うセクションに16ページが割かれ、特に紛争解決手続きの最終審に当たる上級委員会について、審理期限を守らず、パネル(下級審に該当)の事実認定を覆すなどの権限逸脱行為により、米国および加盟国の権利を侵害していると批判した。こうした不満から、米国は上級委員の選定を阻止しており、2019年12月以降、上級委員会は機能不全に陥っている(2019年12月12日記事参照)。また、経済発展を遂げたにもかかわらず、WTOの優遇措置を得るため「途上国」を自称し、高水準のWTO譲許税率を維持する国を問題視し、加盟国の現状を反映しないWTOを「初期化」すべきと訴えた。
個別の通商交渉では、上記の中国と日本のほか、英国、EU、ケニアとの2国間での貿易協定交渉に取り組む意向を示した。
(藪恭兵)
(米国)
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