欧州議会が新欧州委員会を承認、産業界からは支持と注文相次ぐ
(EU)
ブリュッセル発
2019年11月28日
欧州議会(本会議)は11月27日、これまでの公聴会での審議結果を踏まえて、ウルズラ・フォン・デア・ライエン新委員長率いる次期欧州委員会を承認した。本採決結果は賛成:461、反対:157(棄権:89)だった。当初予定していた11月1日からの発足が遅れていた(2019年10月11日記事参照)新たな欧州委員会は、12月1日をもって発足する。
フォン・デア・ライエン新委員長は同日、採決に先立って欧州議会で行った演説の中で、新欧州委について「地政学的(課題に取り組む)委員会(Geopolitical Commission)」と表現(2019年9月11日記事参照)。現在の世相を「余りにも多くの強国が対立や自国優先主義を口にする不安定な世界(an unsettled world)」と指摘した。こうした中、EUは多様な価値観を尊重する多国間主義の勝者として世界に存在感を示すべきとの考えを示した。
他方、対米関係については「間違いなく、課題を抱えている」との厳しい現実を認めつつ、EU・米国関係は長期に及ぶビジネスや人的交流に裏打ちされており、個々の見解の相違を乗り越えて、全体ではより強固な関係を構築できると述べ、対米関係改善に向けた糸口を模索する姿勢もうかがわせた。
新委員長は、新欧州委の目玉政策と位置付けられている「欧州グリーンディール政策」「欧州デジタル化対応」「人に優しい経済政策」などの各政策と、それを所掌する上級副委員長、副委員長、委員(2019年9月11日記事参照)を紹介。気候変動対策やデジタル産業振興、経済格差是正などの対策を本格化する姿勢を明確化した。通商政策の関係でも、フィル・ホーガン委員(通商担当)が「今後、EUとして締結する通商協定には持続可能性条項を挿入する」ことを確保するとした。
今後、本格始動する新欧州委に対して、欧州産業界は総じて支持する姿勢を示しているが、同時に企業の期待に適切に応えることも求めている。ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)も11月27日付の声明で「フォン・デア・ライエン新委員長と同チームを心から祝福」と発表したが、同連盟のピエール・ガタズ会長は「EUの(産業政策・環境政策などの)モデルは誇れるものだ。しかし、世界市場での(欧州産業の)立場を守るためには、経済的に持続可能で成功している(採算が合う)ことを証明する必要がある」と指摘、欧州企業の事業継続や収益性に悪影響を及ぼす政策立案に対する懸念を示唆した。
また、欧州商工会議所(ユーロチェンバース)は11月27日、欧州では数百万の若年層が失業している厳しい現実がある一方で、2020年には情報通信部門で80万を超える人材不足に直面するという技能ミスマッチの問題(2019年6月20日記事参照)に言及し、「欧州が克服しなければならない課題」との認識を示した。また、中小企業の産業デジタル化に対する支援の必要性にも触れ、商工会議所としてこの分野での中小企業支援(2019年7月22日記事参照)に取り組む姿勢を打ち出した。
(前田篤穂)
(EU)
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