欧州委が産業政策戦略を発表-2017年EU一般教書演説の注目点(5)-
(EU)
ブリュッセル発
2017年10月19日
欧州委員会のユルキ・カタイネン副委員長(雇用・成長・投資・競争力担当)とエルジビエタ・ビェンコフスカ委員(域内市場・産業・起業・中小企業担当)は9月18日、コミュニケーション(政策指針)「産業政策戦略(Industrial Policy Strategy)」に関する記者会見を行った。産業政策戦略は、既存の分野横断的・分野別の施策に、新たな取り組みを加え、包括的な戦略としてまとめたものだ。
産業のトレンドを機会に転化させることに主眼
欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長は9月13日の一般教書演説で同戦略に言及、欧州委は同日にコミュニケーションのかたちで文書を公開していた(2017年10月13日記事参照)。
このコミュニケーションの背景には、EUの経済活動・雇用創出で大きな割合を占める産業部門の競争優位を維持するためには産業近代化が必要だが、同時に新たな生産技術が労働・雇用に及ぼす影響への対策も必要だとの認識がある。欧州委は、域内産業は新技術に投資し、デジタル化の加速や低炭素・循環型経済への移行に応じて、適応・革新し続ける能力が必要だと指摘。さらに、カタイネン副委員長は会見で、「産業のトレンドをいかに機会に転化させるかが主眼だ」との見解を示した。
サイバーセキュリティー認証など新たな施策を追加
産業界と加盟国、欧州議会は2016年後半から2017年にかけて、製造業を中心とする産業の強化に向けて具体的な施策を示すよう、欧州委に対して要求してきた(2017年3月22日記事参照)。新戦略の発表に当たって欧州委は、今期は産業の強化と効率化を重要課題と位置付け、イノベーションと投資を通じた雇用創出と成長を目指してきたと強調。加えて、資金調達や環境、先端技術、デジタル化など分野横断的な施策と、航空宇宙産業や防衛産業、自動車産業など個別の産業分野における取り組みにも言及した。
今回発表された産業政策戦略は、既存の分野横断的・分野別の施策を包括的な戦略としてまとめたものだ。さらに、同戦略には新たな関連施策も追加された。主な施策は次のとおり。
○サイバーセキュリティーに関する研究開発拠点や、EUレベルの製品・サービスのサイバーセキュリティー認証制度の創設など、産業のサイバーセキュリティー強化に向けたパッケージ(9月13日発表)
○非個人データの自由な移動に関する規則案(同上)
○プラスチックに関する戦略や生物ベースの再生可能資源の生産と製品・エネルギーへの転換の改善に関する施策を含む循環型経済に関する措置(2017年秋に発表予定)
○現行の知的財産権の執行に関するEU法の実行状況に関する報告書や、標準必須特許のライセンシングに関する政策指針など、知的財産権の枠組みの近代化に関するイニシアチブ(同上)
○大規模インフラプロジェクトを計画する加盟国政府機関に明確な指針を提供する、公共調達の実施改善に向けたイニシアチブ(同上)
○欧州委のスキル開発支援のための取り組み「欧州新スキル・アジェンダ(New Skills Agenda for Europe)」の対象産業の、建設と鉄鋼、製紙、環境技術・再生可能エネルギー、製造業、海上輸送への拡大(同上)
○民間資本のフローを持続可能な投資へと導くための「持続可能な資金調達に関する戦略」の策定(2018年前半に発表予定)
○貿易に関する施策をまとめた「貿易パッケージ」(2017年10月17日記事参照)
○乗用車および小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準の強化、充電・燃料充てんインフラの普及支援のための「代替燃料インフラ行動計画」や、自動運転の開発・普及促進のための措置を含む、モビリティーに関する新提案(2017年秋に発表予定)
産業界や市民団体との対話を強化
このほか9月13日に行われた、欧州委の監視対象となる戦略的希少資源(critical raw materials)リストの更新(ビスマス、ヘリウム、天然ゴム、リンなど9物質を追加)も同戦略の一部に位置付けられた。また、欧州委は年に1回、産業に関する利害関係者の対話イベント「産業の日(Industry Day)」を定期的に開催するとともに、会議体「ハイレベル産業円卓会議(High Level Industrial Roundtable)」を設置し、産業界と市民団体の意見を将来の産業政策の決定に反映させたい意向だ。
(村岡有)
(EU)
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