域外からの投資のスクリーニング制度を提案-2017年EU一般教書演説の注目点(3)-

(EU)

ブリュッセル発

2017年10月17日

欧州委員会のユルキ・カタイネン副委員長(雇用・成長・投資・競争力担当)とセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は9月14日、域外の第三国からの投資スクリーニング制度に関する提案など、貿易関連の政策文書をまとめた「貿易パッケージ」に関する記者会見を開催した。その内容を2回に分けて取り上げる。前編は、投資スクリーニング制度について概説する。

バランスの取れた貿易政策の重要性を強調

欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長は、9月13日の一般教書演説(2017年10月13日記事参照)で貿易パッケージに言及し、欧州委が同日中に文書を公開した。同委員長は演説で、EUは開かれた市場だが、域外との貿易においては互恵関係が重要であり、域内の雇用と事業機会の創出、EU標準のグローバル展開などに資することが重要との認識を示していた。また、欧州委としても貿易パッケージ発表に当たって、貿易と投資の自由化とEUの高レベルの(社会・環境)水準および共通の価値観、利益の保護のバランスの必要性を強調した。貿易パッケージにおいて、特に注目される文書は次のとおり。

○「対内直接投資の欧州スクリーニング枠組み」に関する提案

○オーストラリアおよびニュージーランドとの通商交渉の開始に関するEU理事会(閣僚理事会)向け勧告

○投資紛争解決に関する多国間投資裁判所の設立交渉の開始に関するEU理事会向け勧告

○EU通商協定に関する諮問グループの創設

域外国営企業による戦略部門への投資を精査

欧州委による域外からの投資のスクリーニング枠組みの提案は、市場の開放と域内の安全保障・公共秩序の維持を両立するためには、域内の戦略部門(重要技術、インフラ、センシティブな情報など)への域外の国営企業による投資の実態を把握することが重要との認識に基づくものだ。この制度の枠組みは、全加盟国に対して直接適用される法形式である「規則」として提案された。

この規則案は、外国投資家が「域外国政府の支配を受けているか否か」など、域外からEUへの投資を精査するEUレベルの枠組みを構築することが目的だ。ただし、提案された枠組みは、一部加盟国(注)の既存の投資スクリーニング制度の存在とそれらの差異を考慮するとともに、スクリーニング制度の採用や維持を義務付けるものではなく、投資の可否の最終的な決定権は加盟国にある、とされている。

規則案は主に、スクリーニングの基本要件と、脅威となり得る域外からの投資案件に関する加盟国と欧州委の情報共有のための協力メカニズム、共同体の利益への影響が予想される投資案件に対する欧州委によるスクリーニングの実施を規定している。なお、カタイネン副委員長は会見で、共同体の利益に影響が予想されるケースの例として、域内の越境エネルギー供給網への外国企業の投資や、EU資金を利用した研究開発などへの投資を挙げた。

当座の対応策も提案

欧州委はさらに、この規則案の成立に時間が必要となる可能性を踏まえて、当座の対応として、域外からの直接投資に関する「コーディネーション・グループ」を創設し、2018年末までの対内直接投資の流れに関する詳細分析を行う。コーディネーション・グループは、欧州委と加盟国の代表者からなり、安全保障や公共秩序の観点から戦略的分野・資産を特定し、域外からの投資に関する情報共有・分析、投資に関する共通の懸案事項や、共通の利害と課題を抱える第三国との協力に関する議論などを行う。

また、対内直接投資の流れに関する詳細な分析は、第三国が所有した場合に、安全保障や公共秩序などについて懸念が生じ得る戦略的な部門(エネルギーと航空宇宙、運輸など)や資産(戦略部門関連技術、最重要インフラ、機微情報など)を対象に、2018年末までに情報収集し、傾向分析や影響評価、ケーススタディーを行うとしている。

(注)オーストリア、デンマーク、ドイツ、フィンランド、フランス、ラトビア、リトアニア、イタリア、ポーランド、ポルトガル、スペイン、英国。

(村岡有)

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