複数のFTA交渉、任期中の最終合意に意欲-2017年EU一般教書演説の注目点(1)-
(EU)
ブリュッセル発
2017年10月13日
欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は9月13日、欧州議会で一般教書演説を行った。現在の欧州委の任期は2019年10月までで、報道によると、同委員長は2期目続投の意思がないと表明している。2018年下半期以降は、2019年6月に予定される欧州議会選挙により政策立案の停滞が予想され、今回が同委員長にとって事実上、最後の一般教書演説になるとみられる。同演説のポイントに加え、関連して発表された政策文書「貿易パッケージ」「産業政策戦略」、サイバー分野における提案の内容を7回に分けて報告する。今回は、ユンケル委員長の貿易と産業、サイバー分野に関する発言を中心にまとめる。
貿易や製造業など5分野の取り組みに言及
ユンケル委員長は、次の3部からなる演説を行った。
(1)2016年の一般教書演説から12カ月間の成果(経済成長の回復、雇用状況の改善、「欧州投資計画」(2014年12月3日記事参照)による投資促進、加盟国の財政の改善)
(2)貿易の促進、製造業強化、気候変動対策、サイバー分野、移民の5分野における今後の取り組みの概要
(3)EUの将来に関する提案(「自由」「平等」「法の支配」の価値観に基づく、「より団結した、より強い、より民主的な」共同体の実現に向けた施策およびロードマップ)
FTA交渉のマンデート公開を呼び掛け
ユンケル委員長は国際貿易について、域内の雇用創出とEU標準のグローバル展開につながるとした上で、これまでの成果として、日EU経済連携協定(EPA)の大枠合意(2017年7月7日記事参照)やカナダとの包括的経済貿易協定(CETA)の暫定適用開始(2017年9月21日記事参照)を挙げた。メキシコおよび南米諸国との自由貿易協定(FTA)に関して2017年内の政治的合意を目指す意向を示すとともに、オーストラリアおよびニュージーランドとのFTA交渉開始を提案した。さらに、日EU・EPAを含むこれらのFTA交渉について、任期中の最終合意に向けた意欲を示した。
また同委員長は、FTA交渉の透明性向上のために、今後は欧州委がEU理事会(閣僚理事会)に提案するマンデート(交渉権限委任)草案を全文公開すると表明。EU理事会に対しても、マンデートを採択後に一般公開するよう呼び掛けた。
一方、同委員長は「われわれは世間知らずな自由貿易主義者ではない」とし、EUの戦略的利益の保護のため、「投資スクリーニング」の枠組みに関する提案を行うと発表した。投資スクリーニングは、安全保障・公共秩序の観点から域内の投資動向を把握することを目的に、EU域外の国営企業による、域内の港湾やエネルギー・インフラ、防衛技術産業部門の企業買収に対して、透明性と精査、議論を求める内容になるという。
欧州サイバーセキュリティー庁の設立も
ユンケル委員長はデータ分野について、知的財産や個人データの保護、ネット上のプロパガンダや過激化対策などで進捗があったものの、サイバー攻撃に対する十分な対策がなされていないと指摘。「欧州サイバーセキュリティー庁」の設立を含む、サイバー攻撃からEUを守るための提案を行うと発表した。
また、世界レベルの製品を作り出すEUの産業は競争力の源泉となっているとの認識を示し、産業におけるイノベーションとデジタル化、二酸化炭素(CO2)排出削減の分野における世界的リーダーシップの確保を目的とする、新たな産業戦略を提案すると発表した。さらに気候変動分野に関しては、運輸部門からのCO2排出削減のための提案を近日中に発表するとし、移民対策に関しても取り組みを継続する意向を示した。
欧州委は、同委員長が述べた貿易や投資、データ、産業などに関する法案を含む文書を同日中に公開した。また、同委員長はフランス・ティーマーマンス第1副委員長と連名で、これらの法案を含む、今後1年間に欧州委が予定する取り組みをまとめた趣意書(Letter of Intent)を、欧州議会のアントニオ・タヤーニ議長およびEU理事会議長国であるエストニアに送付した。
(村岡有)
(EU)
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