日本とEU、EPAで大枠合意-欧州産業界は保護主義への対抗措置として評価-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年07月07日

欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は7月6日、ブリュッセルを訪問した安倍晋三首相との首脳会談で、日EU経済連携協定(EPA)について大枠合意したと発表した。世界で保護主義が台頭する中、日本とEUが自由貿易を志向する姿勢を明確に打ち出し、7月7日からハンブルクで開催されるG20サミット参加国へのメッセージにしたい考えだ。ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は「規制協力」を通じた非関税障壁撤廃に強い期待感を示した。今後も、残る課題についての交渉は続き、最終合意の後、協定文の確定と翻訳作業、双方の議会での批准手続きなどを経て、日EU・EPAが発効する見通しだ。

「21世紀の経済秩序のモデル」として位置付け

欧州理事会のトゥスク常任議長は7月6日、ブリュッセルを訪問した安倍首相と首脳会談を開き、2013年4月の第1回交渉会合以降続いていた日EU・EPAが大枠合意したと発表した。

欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長を含めたEUと日本の首脳は会談後の記者会見で、同EPAの戦略的な意義を語った。安倍首相は「保護主義的な動きが広がる中、EPAの大枠合意を実現できたことは、日本とEUが自由貿易の旗手として、強い政治的意思を世界に対して示した」とし、「自由で公正なルールに基づく、『21世紀の経済秩序のモデル』となる」との認識を示した。トゥスク常任議長は「保護主義が台頭する時代だが、世界を100年前に戻すべきではない」「日本と共にそのことを証明する」と意欲を語った。また、ユンケル委員長は「われわれは開かれた、公正な貿易を志向するという強いメッセージを(今回のEPAを通じて)世界に発信する。われわれの知る限り、保護主義には本当の保護はない」「EUと日本はG20でもこのメッセージを伝える」と、今回の合意の戦略的な狙いを示唆した。

日EU・EPAが発効すると、関税に限らず、市場アクセスのほか、サービス、投資、公共調達などさまざまな分野で障壁が撤廃・軽減されることから、日EU関係の緊密化・深化に貢献することが期待される(2017年7月7日記事参照)。

なお、トゥスク常任議長は「日本のことは想定していない」とした上で、EUとして「(ダンピングなど)不公正な貿易慣行を行う国に対する新たな通商措置(2017年6月26日記事参照)について協議している」ことに触れ、「自由な貿易と公正な貿易の両立」にEUが腐心している点にも言及。世界的なグローバリズムの潮流により、EU市民の間に不安と動揺が広がっているとの認識を示した。そして、EUは公正な貿易を守るために自由貿易協定(FTA)を推進しつつ、相手国のビジネス環境をダンピング認定に考慮する新たな通商措置も、併用する考えを示唆した。

規制協力を通じた非関税障壁撤廃に期待する産業界

日EU・EPAについて、欧州産業界からは総じて前向きな評価が聞かれる。ビジネスヨーロッパのマルクス・バイラー事務局長は、政府による大枠合意の発表がされる前日の7月5日に「日EU・EPAの政治合意を歓迎する」意向を発表している。同事務局長は「厳しい交渉の結果、EUと日本は極めて前向きなシグナルを世界に発信することができた。協定テキストを注視する必要があるが、G20を主導する2経済圏が貿易・投資の促進について合意した意義は大きい。G20においても保護主義に対抗することを訴えるが、今回のEPAはその具体策だ」と述べた。将来、(日EU間に)新たな非関税障壁が出現しないようにするためには、「(規制当局や産業界が連携して効率的・効果的なルール形成を目指す)規制協力対話がカギとなる」と指摘した。

さらに、バイラー事務局長は「まだ、最終決着していない課題が残っていることは認識しているが、EPAでは市場アクセス、公共調達、非関税障壁撤廃、地理的表示、サービス、投資などの分野で高水準な決着を期待する。中でも、非関税障壁撤廃が(EU側にとって)中核的な課題だ。EPAから得られる『最大の利益』を確保するための手段として、日EU双方が規制協力に取り組むことに期待する」と声明を結んだ。

他方、欧州自動車工業会(ACEA)は7月4日付の発表で、「欧州の自動車産業にとって、バランスの取れた合意を目指すべきだ」との見解を明らかにしている。具体的には、EUの対日輸出企業が直面している非関税障壁がいまだあるとしており、「EU側の関税が撤廃されることで日本からの輸入車が享受するメリットとバランスを取るには、(日本側の)非関税障壁撤廃が必要」と注文を付けている。このほか、ACEAとしては「規制協力」と「EUが結ぶ既存のFTAに整合する原産地規則」について、EPA交渉の中で適切な対応を求める考えを示していた。

(前田篤穂)

(EU、日本)

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